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ハナイズミモリウシ

ハナイズミモリウシ
ハナイズミモリウシの頭骨
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ウシ目 Artiodactyla
亜目 : 反芻亜目 Ruminantia
: ウシ科 Bovidae
亜科 : ウシ亜科 Bovinae
: バイソン属 Bison
: ハナイズミモリウシ B. hanaizumiensis
学名
Bison hanaizumiensis
Matsumoto & Mori, 1956
シノニム
  • Leptobison hanaizumiensis[1]
  • Bos bison hanaizumiensis
  • Bos hanaizumiensis

ハナイズミモリウシBison hanaizumiensis)は、第四紀最終氷期を中心に日本列島に生息していた、ウシ科バイソン属に分類されるバイソンの一種である。本種に限らず花泉遺跡岩手県一関市)から発掘されているバイソン属の出土骨の年代の分布は、後期更新世の後半を中心とする約4,840 - 25,730BPとされており[2]、これが事実ならば本種または他のバイソン属は縄文時代にまで日本列島に生存していたことになる。

発見

主だった化石花泉遺跡などから発掘されており、日本列島で発見されている唯一のオーロックスの化石も同時に花泉遺跡にて発掘されている[3]。現在でも、発見の記念碑が残されている[4][5]

オーロックスをふくむ他の大型陸棲哺乳類と共に発見された点から、中国黒竜江省ハルビン市における発掘状況との類似性が見られる。しかし、花泉町におけるオーロックスの出土記録は後年に花泉遺跡からの産出種のリストから除外されており、日本列島におけるオーロックスの分布の是非については再考の余地があるため、現時点(2024年)で後期更新世の日本列島に確実に生息していたと判明しているウシ族バイソン属スイギュウに限定される[注釈 1][2][8]

分類

日本列島に何種類のバイソン属が生息していたのかは不明である。これまでに産出してきた中・後期更新世以降の記録の中では、現在まで種の特定または分類がなされているのは本種とステップバイソンと ホクチヤギュウ(英語版)のみであり[9]、分類にも不確定な部分が目立つ[7][10]

ステップバイソン(プリスクス野牛)に近縁だとされる[11]が、厳密な関連性は不明であり、ステップバイソンなどの既存種と同一種である可能性も否定できない。

種小名は発見地である命名当時の花泉町に因んでいる。和名は同じく花泉町と、発見当時の花泉村長であり、本種の発見者の1人であった郷土史家の佐々木盛輔に由来している[注釈 2][3][12][13]

英名は未定だが、便宜的に「Hanaizumi bison」と呼ばれる場合がある[14][15]

生態

現生種の中でもステップバイソンとの類似性が特に強く、ロシア連邦サハ共和国にて、日本列島にも分布した古代種[注釈 3]代用として野生導入されているシンリンバイソンロシア語版)。

上記の通り、ハナイズミモリウシはステップバイソンと特に近縁であるとされ、大きさは現生のバイソン属と近く、推定体高2メートル、推定体長3.1メートルである。一方で、模式標本は若い個体のものであるとされており[16]、ハナイズミモリウシの成獣の厳密な大きさは不明である。また、本種も他のバイソン属と同様に首の上部と背部に棘突起を持つ[1][3][17][18]

後期更新世日本列島に分布した陸棲の大型動物群(メガファウナ)では、本種はナウマンゾウヤベオオツノジカに次いで発掘数が多く、一般的な知名度こそこれらに劣るが、旧石器時代の日本列島の動物相を代表する大型陸棲哺乳類の一種である。

ただし、ナウマンゾウヤベオオツノジカ北海道にも分布していた一方で概して「南方系」とされているが、バイソン属はツンドラから砂漠付近までの広範囲に生息が可能であり、現在でもたとえば北はアラスカロシアの様な高緯度帯、南はメキシコイタリアスペインの様な中緯度帯にも分布する。

そのため、バイソン属の氷河期におけるユーラシア大陸から日本列島への渡来経路は、朝鮮半島から南下してきただけでなく、(ヘラジカケナガマンモスなどと同様に)サハリンから北海道を経由してブラキストン線を超えて本州以南に到達した可能性もある[3]

絶滅

本種をふくめ、日本列島におけるバイソン属や他の大型動物相(メガファウナ)の絶滅の原因は解明されていないが、時期的にも「第四紀の大量絶滅」に該当しており、花泉遺跡から発見されている本種または他のバイソン属の最も新しい年代の化石は約4,840BP縄文時代に該当する[2]。そのため、気候変動とそれに付随した環境や植生の変化、または、気候変動で説明できない部分もあることから、人間による狩猟をはじめとする生息への圧迫、などに起因した可能性がある[11][19]

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ 日本列島では Bos 属は各地から産出しているものの、オーロックスつまり野生種に分類された経歴を持つ後期更新世以降の出土記録は花泉遺跡以外には存在しない。なお、より前時代の更新世には Bibos 属も日本列島から発見されている[6][7]
  2. ^ 松本彦七郎と共に本種の分類に関与した森一や、花泉遺跡の別名である「金森遺跡」とは無関係である。
  3. ^ ステップバイソンと ホクチヤギュウ(英語版[9]

出典

  1. ^ a b 岩手県立博物館, ハナイズミモリウシ全身骨格
  2. ^ a b c 高橋啓一、楊平「中国黒竜江省ハルビン市周辺のマンモス動物群を訪ねて : 中国東北地域の後期更新世哺乳動物群から日本のマンモス動物群を考える」(PDF)『化石研究会会誌』第51巻第2号、化石研究会、2019年3月、43-52頁、CRID 1520291855460931968ISSN 03871924国立国会図書館書誌ID:029627170 
  3. ^ a b c d 黒澤弥悦, モノが語る牛と人間の文化 ②岩手の牛たち、第29-31頁, LIAJ News, No.109, 奥州市牛の博物館
  4. ^ ハナイズミモリウシ生息地の碑
  5. ^ https://twitter.com/uwinookuyama/status/1467666749655232516
  6. ^ 日本古生物標本横断データベース, Bos 属
  7. ^ a b 長谷川善和, 奥村よほ子, 立川裕康「栃木県葛生地域の石灰岩洞窟堆積物より産出した Bison 化石」(PDF)『群馬県立自然史博物館研究報告』第13号、2009年、47-52頁、NDLJP:10229193 
  8. ^ 近藤洋一, 中尾賢一「鳴門海峡海底からスイギュウ化石の発見」(PDF)『徳島県立博物館研究報告』第31号、徳島 : 徳島県立博物館、2021年3月、1-6頁、CRID 1520853834654156160ISSN 09168001国立国会図書館書誌ID:031423510 
  9. ^ a b 春成秀爾「更新世末の大形獣の絶滅と人類」『国立歴史民俗博物館研究報告』第90巻、国立歴史民俗博物館、2001年3月、17,43、doi:10.15024/00000978ISSN 0286-7400 
  10. ^ 木村 方一, 2007年, 太古の北海道―化石博物館の楽しみ, 第9章 そのほかの化石の紹介 - 3. 野牛(バイソン)の化石/八雲町郷土資料館ISBN 978-4894534193, 北海道新聞社
  11. ^ a b 奥州市牛の博物館, 岩手にもいた野牛 - The Bison that lived in Iwate
  12. ^ ハナイズミモリウシと金森遺跡について記載のある資料はあるか。 レファレンス協同データベース
  13. ^ ハナイズミモリウシ
  14. ^ ウィキメディア - Bison hanaizumiensis
  15. ^ CHRISTOPHER J. NORTON; YOSHIKAZU HASEGAWA; NAOKI KOHNO; YUKIMITSU TOMIDA (2007). “Distinguishing archeological and paleontological faunal collections from Pleistocene Japan: taphonomic perspectives from Hanaizumi”. Anthropological Science (日本人類学会) 115 (2): 91-106. doi:10.1537/ase.060605. https://doi.org/10.1537/ase.060605. 
  16. ^ 岩手めんこいテレビ、2024年8月25日、バイソン頭骨化石を公開 一関市花泉遺跡で発掘<岩手県>、FNNプライムオンライン
  17. ^ 岩手県立博物館, 2010年7月, けんぱくものしりノート - ハナイズミモリウシ
  18. ^ NHK, 2023年, 「世界の大草原 北アメリカ プレーリーの王者 バイソンが駆ける」, ワイルドライフ
  19. ^ 魚津埋没林博物館, 2014年07月07日, ナウマンゾウとオオツノジカ, うもれ木(魚津埋没林博物館広報誌), 第41号, 魚津印刷株式会社

外部リンク

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