「バンビーノ」ことベーブ・ルース 。当初レッドソックスのピッチャーとして活躍していた。
バンビーノの呪い (バンビーノののろい、英語 : Curse of the Bambino )は、アメリカ合衆国 のプロ野球リーグであるメジャーリーグベースボール (以下、MLB)の球団、ボストン・レッドソックス にまつわるジンクス 。
ボストン・レッドソックスはMLBの王者決定戦であるワールドシリーズ の第1回(1903年のワールドシリーズ )で優勝した強豪チームであったが、1918年 以降は2004年 に至るまでの86年間ワールドチャンピオンの座から遠ざかっていた。バンビーノの呪い は、これを1919年 にトレードで放出された主力花形選手のバンビーノ ことベーブ・ルース の呪いによるものだとするものである。呪い を真剣に受け止める者もいるが、たいていはからかいや皮肉として扱われる[ 1] 。
概要
86年間にわたりボストン・レッドソックスがMLB王者であるワールドチャンピオンの座から遠ざかっていたことを、過去にトレードで放出された選手の「呪い」であるとするジンクスである。ライバル球団であるニューヨーク・ヤンキースとの間でしばしばからかいの種としても扱われている。1990年9月、ヤンキースのファンがレッドソックス戦の際に「1918!」という掛け声でレッドソックスを揶揄[ 2] して以降、ヤンキー・スタジアム で行われるレッドソックス戦ではこの掛け声がかけられるようになり、ヤンキースのファンはホームでのレッドソックス戦において「1918!」や「バンビーノの呪い」などと書かれたサインボードやルースの写真を掲げたり、「1918!」と書かれたTシャツを着るなどしてからかった[ 3] [ 4] 。
2004年のアメリカンリーグチャンピオンシップシリーズ においてヤンキースと対戦し、第3試合を終えてレッドソックスは0勝3敗であったがその後逆転しリーグ優勝、さらに続く2004年のワールドシリーズ でセントルイス・カージナルス と対戦して優勝を果たした[ 5] 。もはやこの呪いはボストン文化の一部となっており、よく渋滞するストロウ通りに架かるロングフェロウ橋の「リバース・カーブ」(Reverse Curve)の標識は「リバース・ザ・カース」(Reverse the Curse, 「呪いを解け」の意)と書き換えられ[ 6] 、2004年に優勝するまでそのままにされた。2004年のワールドシリーズ最終戦勝利後、標識は「カース・リバースド」(Curse Reversed, 「呪いは解かれた」の意)に変更された[ 6] 。
背景
ハリー・フレイジー はベーブ・ルースをヤンキースにトレードした。
のちに「野球の神様」と評されることになるベーブ・ルース は「バンビーノ」のニックネームでも知られており、ボストン・レッドソックス在籍中は投手として1916年 と1918年のワールドシリーズ で登板した(1915年のワールドシリーズ ではピンチヒッターとして出場)。当時のレッドソックスは第1回ワールドシリーズ である1903年のワールドシリーズ を筆頭に5度のワールドチャンピオンに輝いた[ 7] 強豪であった。これに対し、ルースがトレードされることとなるニューヨーク・ヤンキース は同時期にワールドシリーズへの出場したことは全くなかった。
しかし1919年 度のオフシーズンにベーブ・ルースがヤンキースにトレードされて以降、レッドソックスは1946年 から1968年 までの間に4度アメリカンリーグ を制覇していたにもかかわらずワールドチャンピオンの座を逸する[ 8] など、その成績は下降線を辿ることとなる。一方でルースを獲得したヤンキースはトレード以降の84年間でワールドシリーズに39回進出、うち26回は優勝を果たしており、レッドソックスと対照的に北アメリカのプロスポーツ界で最も成功を収めたチームの一つに成長していった[ 9] 。この優勝回数は他のメジャーリーグベースボール の球団の約2倍の数値となっている。このような理由から、のちにボストン・レッドソックスの低迷はニューヨーク・ヤンキースにトレードされていったバンビーノ(ベーブ・ルース)の呪いが原因であるとする「バンビーノの呪い」というジンクスが誕生した。このジンクスはヤンキースとレッドソックスのライバル関係の大きな象徴になっていった。
ルースの放出
ルースの放出について、一説には1918年当時レッドソックスのオーナーで演劇プロデューサーでもあったハリー・フレイジー の作品制作が関わっているとされる。フレイジーはルースらのトレードで獲得した資金をブロードウェイ・ミュージカル 作品の『No, No, Nanette 』の制作資金に充てたとされる[ 10] 。フレイジーはルースのトレードと前後して多くのプロダクションに関わっており、『No, No, Nanette 』の初演はトレードから5年後、フレイジーがレッドソックスを売却してから2年後のことであった。1921年 にはレッドソックス監督であったエド・バロー が辞任しヤンキースのゼネラルマネージャーに転身、また他のレッドソックスの選手たちもヤンキースにトレードされていった[ 11] 。
リー・モンヴィルは『The Big Bam: The Life and Times of Babe Ruth 』の中で、『No, No, Nanette 』は1919年12月にブロードウェイで開幕したストレート・プレイの『My Lady Friends 』を基にしていたと記した[ 12] 。実際『My Lady Friends 』はルースのトレードでまかなわれた[ 13] 。モンヴィル、ショーンジーを含む複数の研究者が、フレイジーはヤンキースのオーナーたちと親しく、また多くのトレードおよびフェンウェイ・パーク を担保にした資金がフレイジーの演劇活動に使用されていたと語っている[ 12] 。
ジンクスの発祥
ルースがヤンキースにトレードされたのは1920年 1月3日 で、レッドソックスの成績が下降線を辿るようになったのはこのトレード後であったが、「バンビーノの呪い」という言葉は1918年のワールドシリーズ までさかのぼる[ 14] 。この「バンビーノの呪い」という言葉が広く使用されるきっかけとなったのは1990年 にダン・ショーンジーが著した『The Curse of the Bambino 』であった。その後複数のメディアによってこの題名がレッドソックスのキーワードとして取り上げられるようになり、またこの本がニューイングランド のいくつかの高等学校の英文の授業に使用されるようになった[ 8] [ 15] 。
呪いの内容
1986年に「呪い」と言われ始めたがそれ以前から呪われていたとされている[ 8] 。
呪いが解けるまで
長年、レッドソックスのファンはバンビーノの呪いを解くため様々なことをしてきた。
1994年、ケン・バーンズ によるドキュメンタリー『Baseball 』においてレッドソックスの元投手ビル・リー は、ルースの遺体を掘り出してフェンウェイに連れてきてヤンキースにトレードしたことを正式に謝罪すべきだと語った。
2004年8月31日、マニー・ラミレス が打ったファウルボールが観客席セクション9のボックス95のRow AAに飛び、少年の顔に当たって歯が何本か折れたことで呪いが解けたとする説もある[ 36] 。レッドソックスのラミレスのファンで16歳のリー・ゲイヴィンはルースの農場のあるサドバリーに住んでいた。同日、ヤンキースはインディアンスとのホームゲームで22対0というチーム史上最悪の負けに苦しんでいた[ 37] [ 38] [ 39] 。
2004年9月、ミュージシャンのジミー・バフェット がフェンウェイ・パークでコンサートを行なった際、ルースおよび呪術医 の扮装をした前座たちと共に除霊式を行なった。
2004年10月1日、シアトル・マリナーズ のイチロー が、1920年にセントルイス・ブラウンズのジョージ・シスラー により作られたMLBシーズン最多安打記録257本を84年ぶりに更新した。
カート・シリング はレッドソックスにトレードされた直後に、フォード・Fシリーズ のピックアップトラック の宣伝で「ボストン 行き」と書かれた紙を持ってヒッチハイク する様子が描かれた。このヒッチハイクで車に乗り込むと運転手になぜボストンに行くのか尋ねられ「86年間の呪いを解くため」と語る[ 40] 。
呪いの終わり
2004年のアメリカンリーグチャンピオンシップシリーズ でレッドソックスは因縁のライバルであるヤンキースと対戦。レッドソックスはホームゲームの第3試合で19対8の大差負けを喫するなど、最初の3戦を連続で落とし「王手」をかけられた状態であった[ 41] [ 42] 。
第4試合、レッドソックスは1点ビハインドの4対3で9回裏を迎えた[ 43] 。レッドソックスはまずケビン・ミラー のフォアボールで出塁し、代走のデーブ・ロバーツ が盗塁。さらに三塁手ビル・ミラー がヤンキースのクローザーのマリアノ・リベラ からタイムリーヒットを放ち同点に追いついた。延長戦にもつれ込んだ12回、デビッド・オルティーズ がツーランホームランを放ちこの試合を白星で飾った[ 43] 。さらにレッドソックスは次の3試合で連勝し、メジャーリーグベースボール 史上初めて、最初に3連敗したチームのリーグ優勝を果たした[ 44] 。
この年のナショナルリーグの覇者は1946年と1967年に対戦したカージナルスで、レッドソックスはこのカードを4連勝し86年ぶりのワールドチャンピオンの座に輝いた[ 5] 。奇しくもこの試合の最終打者はルースと同じ背番号3のカージナルス遊撃手、エドガー・レンテリア であった[ 5] [ 45] 。
「呪い」の語に対する批判
グレン・スタウトは「curse(呪い)」という言葉は反ユダヤ主義 に基づくものだと批判した[ 46] 。フレイジーはニューヨーク出身の演劇関係者で、実際は長老派教会 であったがユダヤ系とされていた。当時アメリカンリーグの会長であったバン・ジョンソン はこのためフレイジーを好んでいなかったが、宗教に触れずに「ニューヨーク過ぎる」と揶揄していた[ 46] 。フレイジーはボストンでとても尊敬されていたが、ヘンリー・フォード の『Dearborn Independent 』紙に、いかにユダヤ人がアメリカを衰退させていったかという記事を連載し、うちいくつかの記事はフレイジーを批判するものであり、フレイジーがレッドソックスを買収したことにより他の球団を窮地に陥れたと記した[ 46] 。これらの記事により、フレイジーに対する球団オーナー、民意に変化が起き、スポーツ記者のフレッド・リーブによるレッドソックスに関する著書フレイジーの中傷部分でユダヤ系であることを示唆した[ 46] 。
ポピュラー・カルチャーでの扱い
ノンフィクション
フィクション
1992年、イギリスのニック・ホーンビィ 著の自伝的小説『ぼくのプレミアライフ 』においてサッカーのアーセナルFC の大ファンであることが描かれていたが、2005年、アメリカでファレリー兄弟 にて映画化され『2番目のキス 』として公開された。この映画ではサッカーではなく野球に置き換えられ、主人公はレッドソックスの大ファンとなった。2004年のワールドシリーズの間に撮影され、優勝したことにより物語を書き換えなくてはならなかった。
2004年2月、映画『50回目のファースト・キス 』が公開された。アダム・サンドラー 演じるヘンリー・ロスは記憶障害のガールフレンドに、記憶をなくして以降のことを伝えるビデオを編集して見せる。2003年のレッドソックスについて流し、ワールドシリーズ優勝シーンの後「冗談」とテロップが出る。しかしこの映画が公開された年の秋にレッドソックスは実際に優勝した。
ドラマ『LOST 』においてジャック(マシュー・フォックス )と父クリスチャン(ジョン・テリー )はしばしば「だからレッドソックスは優勝できないんだ」と語る。2006年の第3シーズン でベン(マイケル・エマーソン )が、他のものたち が外部と連絡を取っているということをジャックに納得させるためレッドソックスが2004年に優勝したことを告げる。
子供番組『Arthur 』のエピソード『The Curse of the Grebes 』においてエルウッド市の野球チームが世界大会決勝戦に出場し、バッキー・デントのホームランとビル・バックナーのエラーによって2敗する。このチームは87年間優勝しておらず、ライバルのクラウン市のチームはその間25勝している。ジョニー・デイモン、エドガー・レンテリア、マイク・ティムリン が本人を模した登場人物の声を担当している。エルウッドのチームはレッドソックス、クラウン市のチームはヤンキースを模している。
2011年、映画『マネーボール 』においてオークランド・アスレチックス のゼネラルマネージャー のビリー・ビーン (ブラッド・ピット )がレッドソックスのオーナーにアスレチックスがいかに20連勝したのかについて語る。レッドソックスのオーナーがビーンになぜそのような話をするのか尋ねると、ビーンはバンビーノの呪いを解く手助けをしたいからだと語る。
音楽
ベン・ハーパー の曲『Get It Like You Like It 』に「しかしジョニー・デイモン はバットを振った。満塁ホームラン。これだ。86年の呪いは解けた」という歌詞がある。
フィル・コリーのアルバム『Sports Songs and Beyond 』に『The Curse of the Bambino Is Back! 』(「バンビーノの呪い、復活!」の意)が収録されている。
2015年6月15日、ジェームス・テイラー のアルバム『Before This World 』収録曲『Angels of Fenway 』(「フェンウェイの天使」の意)が発売された。「バンビーノがビーンボール でかけた呪いにより86回の夏が過ぎ去った。我々は涙と溜息で生きてきた。ブロンクス区 の影で」という歌詞がある。
その他
ビデオゲーム
『Team Fortress 2 』において、ボストン出身野球ファンのスカウトは、呪いが解けた「記念すべき年」と同じ数の2,004名を殺害しなくてはならない。
『Fallout 』において、呪いは解けず、レッドソックスは2077年まで優勝できないことになっている。『Fallout 4 』に登場する2077年のとある日の新聞では3勝0敗で第4試合を迎えることになっているが、その日原子爆弾で世界が滅亡する。
関連事項
脚注
出典
^ Shaughnessy 2005 , pp. 8–10
^ Maske, Mark (1990年9月25日). “Pennant Chases in East Still Flying High, West All but Flagged”. The Washington Post : p. E3. "Yankees fans had taunted the Red Sox all weekend with chants of "1918, 1918!"—the last time Boston won the World Series—and the Red Sox are not allowed by long-suffering New Englanders to forget the pain they have wrought with years of excruciating near misses."
^ Shaughnessy 2005 , p. 26
^ Frommer & Frommer 2004 , pp. 18, 78
^ a b c Shaughnessy 2005 , p. 3
^ a b Shaughnessy 2005 , p. 231
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^ a b c Shaughnessy 2005 , pp. 7–8
^ Shaughnessy 2005 , p. 21
^ Shaughnessy 2005 , p. 11
^ Shaughnessy 2005 , p. 23
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参考文献
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外部リンク
球団 歴代本拠地 文化 永久欠番 レッドソックス球団殿堂 ワールドシリーズ優勝(0 9回) ワールドシリーズ敗退(0 4回) リーグ優勝(14回) できごと 傘下マイナーチーム
球団 歴代本拠地 文化 永久欠番 ワールドシリーズ優勝(27回) ワールドシリーズ敗退(14回) リーグ優勝(41回) できごと 傘下マイナーチーム ライバル関係