数学 、特に集合論 において、ベート数 とはヘブライ文字 のב (ベート )を用いて
ℶ
0
,
ℶ
1
,
ℶ
2
,
ℶ
3
,
…
{\displaystyle \beth _{0},\beth _{1},\beth _{2},\beth _{3},\dots }
と表される無限 基数 の列である。ベート数はアレフ数
ℵ
0
,
ℵ
1
,
ℵ
2
,
…
{\displaystyle \aleph _{0},\aleph _{1},\aleph _{2},\dots }
と関連するが、一般連続体仮説 が真でない限り、アレフ数では表されるがベート数では表されない数が存在する。
定義
ベート数は超限再帰 を用いて定義される:
ℶ
0
=
ℵ
0
{\displaystyle \beth _{0}=\aleph _{0}}
ℶ
α
+
1
=
2
ℶ
α
{\displaystyle \beth _{\alpha +1}=2^{\beth _{\alpha }}}
ℶ
λ
=
sup
{
ℶ
α
:
α
<
λ
}
{\displaystyle \beth _{\lambda }=\sup {\Bigl \{}\beth _{\alpha }:\alpha <\lambda {\Bigr \}}}
ここで、
α
{\displaystyle \alpha }
は順序数 、
λ
{\displaystyle \lambda }
は極限順序数 である。[ 1]
基数
ℶ
0
=
ℵ
0
{\displaystyle \beth _{0}=\aleph _{0}}
は任意の可算無限 集合 (例えば自然数 全体の集合
N
{\displaystyle \mathbb {N} }
)の濃度である。よって
ℶ
0
=
|
N
|
{\displaystyle \beth _{0}=|\mathbb {N} |}
となる。
なお、
α
{\displaystyle \alpha }
を順序数、
A
α
{\displaystyle A_{\alpha }}
を濃度が
ℶ
α
=
|
A
α
|
{\displaystyle \beth _{\alpha }=|A_{\alpha }|}
であるような集合としたとき、
P
(
A
α
)
{\displaystyle {\mathcal {P}}(A_{\alpha })}
は
A
α
{\displaystyle A_{\alpha }}
の冪集合 (すなわち、
A
α
{\displaystyle A_{\alpha }}
の部分集合全体の集合)を表す。
集合
2
A
α
⊂
P
(
A
α
×
2
)
{\displaystyle 2^{A_{\alpha }}\subset {\mathcal {P}}(A_{\alpha }\times 2)}
は
A
α
{\displaystyle A_{\alpha }}
から
{
0
,
1
}
{\displaystyle \{0,1\}}
への写像全体の集合を表す。
基数
2
ℶ
α
{\displaystyle 2^{\beth _{\alpha }}}
は基数の冪 を表す。
ℶ
α
+
1
=
2
ℶ
α
=
|
2
A
α
|
=
|
P
(
A
α
)
|
{\displaystyle \beth _{\alpha +1}=2^{\beth _{\alpha }}=\left|2^{A_{\alpha }}\right|=|{\mathcal {P}}(A_{\alpha })|}
は
A
α
{\displaystyle A_{\alpha }}
の冪集合の濃度を表す。
以上の定義より、
ℶ
0
,
ℶ
1
,
ℶ
2
,
ℶ
3
,
…
{\displaystyle \beth _{0},\beth _{1},\beth _{2},\beth _{3},\dots }
はそれぞれ
N
,
P
(
N
)
,
P
(
P
(
N
)
)
,
P
(
P
(
P
(
N
)
)
)
,
…
{\displaystyle \mathbb {N} ,{\mathcal {P}}(\mathbb {N} ),{\mathcal {P}}({\mathcal {P}}(\mathbb {N} )),{\mathcal {P}}({\mathcal {P}}({\mathcal {P}}(\mathbb {N} ))),\dots }
の濃度であって、2番目のベート数
ℶ
1
{\displaystyle \beth _{1}}
は連続体濃度
c
{\displaystyle {\mathfrak {c}}}
に等しく、3番目のベート数
ℶ
2
{\displaystyle \beth _{2}}
は連続体濃度をもつ集合の冪集合の濃度である。
カントールの定理 によって上の列の各集合は前の集合よりも真に大きい濃度をもつ。無限極限順序数
λ
{\displaystyle \lambda }
に対して、対応するベート数は
λ
{\displaystyle \lambda }
よりも真に小さいすべての順序数に対するベート数の上限 として定義される。
ℶ
λ
=
sup
{
ℶ
α
:
α
<
λ
}
{\displaystyle \beth _{\lambda }=\sup\{\beth _{\alpha }:\alpha <\lambda \}}
この定義は以下と同値である。
ℶ
λ
=
|
⋃
{
A
α
:
α
<
λ
}
|
{\displaystyle \beth _{\lambda }=|\bigcup {\Bigl \{}A_{\alpha }:\alpha <\lambda {\Bigr \}}|}
フォン・ノイマン宇宙
V
ω
+
α
{\displaystyle V_{\omega +\alpha }\!}
は濃度
ℶ
α
{\displaystyle \beth _{\alpha }\!}
をもつことも証明できる。
アレフ数との関係
選択公理 を仮定すると、無限濃度は全順序 であり、任意の2つの濃度は常に比較可能である。したがって、定義により、
ℵ
0
{\displaystyle \aleph _{0}}
と
ℵ
1
{\displaystyle \aleph _{1}}
の間に無限濃度は存在せず、
ℶ
1
≥
ℵ
1
{\displaystyle \beth _{1}\geq \aleph _{1}}
であることが従う。この議論を繰り返すことによって(超限帰納法 参照)すべての順序数
α
{\displaystyle \alpha }
に対して
ℶ
α
≥
ℵ
α
{\displaystyle \beth _{\alpha }\geq \aleph _{\alpha }}
である。
連続体仮説 は次と同値である。
ℶ
1
=
ℵ
1
.
{\displaystyle \beth _{1}=\aleph _{1}.}
一般連続体仮説 が言っているのはこのように定義されたベート数の列はアレフ数 の列と同じである、すなわちすべての順序数
α
{\displaystyle \alpha }
に対して
ℶ
α
=
ℵ
α
{\displaystyle \beth _{\alpha }=\aleph _{\alpha }}
であるということである。
具体例
ベート・ヌル
これは
ℵ
0
{\displaystyle \aleph _{0}}
(アレフ・ヌル )と定義されるから、濃度が
ℶ
0
{\displaystyle \beth _{0}}
の集合には次のものがある。
ベート・ワン
濃度が
ℶ
1
{\displaystyle \beth _{1}}
の集合には次のものがある。
超越数 全体
無理数 全体
実数 全体
R
{\displaystyle \mathbb {R} }
複素数 全体
C
{\displaystyle \mathbb {C} }
ユークリッド空間
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
自然数 全体の集合の冪集合(自然数全体の集合のすべての部分集合からなる集合)
整数からなる数列 全体の集合(すなわちすべての関数
N
{\displaystyle \mathbb {N} }
→
Z
{\displaystyle \mathbb {Z} }
からなる集合で、しばしば
Z
N
{\displaystyle \mathbb {Z} ^{\mathbb {N} }}
と表記される)
実数列全体
R
N
{\displaystyle \mathbb {R} ^{\mathbb {N} }}
R
{\displaystyle \mathbb {R} }
から
R
{\displaystyle \mathbb {R} }
へのすべての連続関数 からなる集合
有限個の実数からなる集合全体
ベート・ツー
ℶ
2
{\displaystyle \beth _{2}}
(英語では beth two と読む)は
2
c
{\displaystyle 2^{\mathfrak {c}}}
(2 の c 乗、two to the power of c )とも呼ばれる。
濃度が
ℶ
2
{\displaystyle \beth _{2}}
の集合には次のものがある。
実数 全体の集合の冪集合、つまり実数直線 の部分集合 の数、あるいは実数からなる集合の数
自然数全体の集合の冪集合の冪集合
R
{\displaystyle \mathbb {R} }
から
R
{\displaystyle \mathbb {R} }
への関数 すべてからなる集合(
R
R
{\displaystyle \mathbb {R} ^{\mathbb {R} }}
)
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
から
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
へのすべての関数からなる集合
自然数全体の集合から自然数全体の集合へのすべての写像からなる集合の冪集合、つまり自然数列の集合の数
R
{\displaystyle \mathbb {R} }
,
Q
{\displaystyle \mathbb {Q} }
,
N
{\displaystyle \mathbb {N} }
のストーン・チェックのコンパクト化 (英語版 )
ベート・オメガ
ℶ
ω
{\displaystyle \beth _{\omega }}
(beth omega )は最小の非可算強極限基数 (英語版 ) である。
一般化
より一般的な記号
ℶ
α
(
κ
)
{\displaystyle \beth _{\alpha }(\kappa )}
、ここで
α
{\displaystyle \alpha }
は順序数で
κ
{\displaystyle \kappa }
は基数、が時折用いられる。それは次のように定義される。
ℶ
0
(
κ
)
=
κ
,
{\displaystyle \beth _{0}(\kappa )=\kappa ,}
ℶ
α
+
1
(
κ
)
=
2
ℶ
α
(
κ
)
,
{\displaystyle \beth _{\alpha +1}(\kappa )=2^{\beth _{\alpha }(\kappa )},}
ℶ
λ
(
κ
)
=
sup
{
ℶ
α
(
κ
)
:
α
<
λ
}
{\displaystyle \beth _{\lambda }(\kappa )=\sup\{\beth _{\alpha }(\kappa ):\alpha <\lambda \}}
if λ is a limit ordinal.
なので
ℶ
α
=
ℶ
α
(
ℵ
0
)
.
{\displaystyle \beth _{\alpha }=\beth _{\alpha }(\aleph _{0}).}
ZF において、任意の濃度
κ
{\displaystyle \kappa }
と
μ
{\displaystyle \mu }
に対して、ある順序数
α
{\displaystyle \alpha }
が存在して、
κ
≤
ℶ
α
(
μ
)
.
{\displaystyle \kappa \leq \beth _{\alpha }(\mu ).}
そして ZF において、任意の濃度
κ
{\displaystyle \kappa }
と順序数
α
{\displaystyle \alpha }
,
β
{\displaystyle \beta }
に対して
ℶ
β
(
ℶ
α
(
κ
)
)
=
ℶ
α
+
β
(
κ
)
.
{\displaystyle \beth _{\beta }(\beth _{\alpha }(\kappa ))=\beth _{\alpha +\beta }(\kappa ).}
したがって、ur-element (英語版 ) のないZermelo–Fraenkel 集合論 において、選択公理 はあってもなくても、任意の濃度
κ
{\displaystyle \kappa }
と
μ
{\displaystyle \mu }
に対して、等式
ℶ
β
(
κ
)
=
ℶ
β
(
μ
)
{\displaystyle \beth _{\beta }(\kappa )=\beth _{\beta }(\mu )}
がすべての十分大きい順序数
β
{\displaystyle \beta }
に対して成り立つ(つまり、ある順序数
α
{\displaystyle \alpha }
が存在して、すべての順序数
β
{\displaystyle \beta }
≥
α
{\displaystyle \alpha }
に対して等式が成り立つ)。
これは ur-element をもつ Zermelo–Fraenkel 集合論においても選択公理はあってもなくても、ur-element が pure set (推移閉包 が ur-element を全く含まないような集合)と等濃な集合をなすと仮定すれば、成り立つ。選択公理を仮定すれば、ur-element からなる任意の集合はある pure set と等濃である。
参考文献
脚注
^ Jech, Thomas (2002). Set Theory (3rd ed.). Springer. p. 55. ISBN 978-3-540-44085-7 . "Millennium ed, rev. and expanded. Corrected 4th printing 2006."