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有声両唇ふるえ音 (ゆうせいりょうしんふるえおん、英 : Voiced bilabial trill )は、子音 の類型の1つ。唇をぶるぶると振るわせた音。国際音声字母 で[ʙ] と記述される。
特徴
言語例
イタリア語 やドイツ語 その他では身震いする際に、時折この音声を伴うことがあり、書物には<brrr>や<prrr>などと書かれる。ただし、擬態的な非言語音声としてであり、正規の言語音声として存在している訳ではない[ 1] 。
カメルーン のNgwe語 には正規の言語音声として[ʙ] が存在し、例えばNjoagwi方言では「犬」を[mʙy] と言う[ 2] 。
英語版のBilabial trill の記述によると、正規の言語音声としての[ʙ] が確認されている地点はアフリカ のカメルーン 、インドネシア のスマトラ島 、ニューギニア島 、ブラジル のアマゾン川 流域であり、稀少だが地点に偏りはない。
Peter Ladefoged (2005) "Vowels and Consonants" 2nd edition p.165と付属CDによれば、パプアニューギニアの本島のすぐ北にある小さな島で話されているKele では"顔"を[m ʙulim] と、同島で話されるTitan では"鼠"を[m ʙulei] と言う。また同書付属CDによれば、ブラジルとボリビアの国境地帯で話されているOro Win では"小さな男の子"を[tʙ̩um] と言い、"私は丸太の上を歩く"を[tʙ̩otʙ̩ok inan] と言う[ 3] 。
Alexander Adelaar & Nikolaus P. Himmelmann編(2005)『The Austronesian Languages of Asia and Madagascar』[ 4] よりLea Brown(2005)「Nias」を見ると、同書p.563に[ʙ] に関して説明がある(以下に適宜補いながら和訳する)。
ニアス語 のとある子音は世界の言語の中でも大変珍しい(ただし数多くのオーストロネシア諸語に見出されている)。それは両唇ふるえ音[ʙ] である。Ladefoged & Maddieson(1996:130)によれば、Niasの両唇ふるえ音が独特である理由は後続する母音を選ばない点にある。彼らによって調査された他の全ての言語では[u] が後続しており、後続する円唇母音の調音によって強められた両唇性から発達している[ 5] 。Seletan方言ではゆっくりとした発話において前鼻音 を伴う[m ʙ] が観察されることがあるが、発話先頭の位置では観察されない(ただしCatford (1988:154)によれば、北部の方言では先頭位置でも現れる語例がある)。Seletan方言ではしばしば、両唇ふるえ音[ʙ] が両唇摩擦音[β] として発音されることがある。
脚注
^ イタリア語版のVibrante bilabiale の記述と、服部四郎(1984)『音声学』p.73より。
^ http://www.sil.org/silesr/abstract.asp?ref=2003-004
^ [ʙ̩] は有声音[ʙ] に対応する無声音を表す記号として用いている。[t] と[ʙ̩] はこの順でほぼ同時調音である。また、音声を聴くと[tʙ̩ottʙ̩okɪnɛn] (ポポキナンでなくポッポクネン)と聴こえるため、やや音韻的解釈を混ぜ込んだIPA表記と思われる。
^ https://books.google.co.uk/books?id=5i1aMcmLWlMC&printsec=frontcover&dq=%22The+Austronesian+Languages+of+Asia+and+Madagascar%22&hl=en#v=onepage&q&f=false
^ 一地点の共時的な情報だけから通時的な変化の過程を読み解くのは容易ではない。元々[bu] だったものが[ʙu] に変化した可能性がある一方で、元々[ʙV] だった音節が[u] の直前でだけ[ʙ] を保って残りは[bV] に変化したのかもしれない。比較言語学の手法で祖語に[bV] を再構 することができるなら、そのうえで変化の過程を本文のように推定することはできるが、比較言語学的な検討が行われているかどうか定かではない。
記号が二つ並んでいるものは、左が非円唇 、右が円唇 。