『傲慢と善良』(ごうまんとぜんりょう)は、辻村深月による日本の恋愛小説。2019年3月5日に朝日新聞出版から刊行された[1]。2022年9月7日に文庫化された[2]。2019年度 第7回ブクログ大賞・小説部門大賞受賞作品[3]。2024年10月時点で累計部数が100万部を突破している[4]。
マッチングアプリで知り合って婚約することになった男女のうち、その女性が突如として消息を絶つという出来事を受けて、男が婚約者を探す中で彼女の過去や嘘に直面する姿を描く[5]。ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』に着想を得ている[6]。
2024年に映画版が公開された。
あらすじ
登場人物
- 西澤架
- 東京生まれ東京育ち。東京の大学を卒業後広告代理店に勤務していたが、父の病と死去により父が経営していたビールの輸入販売店を継いだ。容姿端麗で女性経験も豊富。かつての彼女である6つ年下のアユは理想の相手だったが、早く結婚して子供を持ちたいと望むアユの願いを先延ばしにした結果、振られて別の相手と結婚された過去がある。気づけば30代後半になっていた架はもはや自分が若くなく、若い頃のように気楽に異性と知り合えない歳になっていることに気づく。そんな時、学生時代からの友人の一人がマッチングアプリで知り合った人と結婚したことを知り、同じアプリに登録して婚活を始めた。大勢の女性と会う中で真実と知り合ってなんとなく交際を始めたものの、心のどこかでアユを引きずっており、結婚しようという決意もないまま二年が経とうとしていた。ある日学生時代からの友人である美奈子に真実と何パーセントくらい結婚したいかと聞かれて70パーセントと答えてしまう。そんなある日真実の部屋にストーカーが現れ、真実の怯えた姿を見て架は結婚の決意をした。結婚式場も予約し、結婚も迫ったある日真実は失踪してしまう。真実を探すための手がかりを探しに群馬へ行く。
- 坂庭真実
- 群馬県前橋市に生まれ育った。二人姉妹の次女。大人しく自分の意見を主張するのは苦手。利発で大学進学を機に上京した姉(岩間希美)と違い、高校から地元の女子校に進学し、そのままエスカレーター式に系列の女子大へ進学。卒業後は母の勧め通り群馬県庁の臨時職員として働いた。進学や就職については母親の影響が強く、自らで深く考えたことはなかった。しかし大学の同級生や県庁の同僚が次々と彼氏を作り結婚していく中、妙に生真面目で何事も母親に相談しすぎる真実は彼氏ができることもなかった。30歳近くなっても自分の意思がないように見える真実にいらだちを感じていた姉の希美は、結婚も母親に責任をとってもらえば良いと真実に言う。その結果、母親の伝手で地元の議員の妻・小野里が経営する結婚相談所の世話になることになり、金居や花垣と見合いしたが、真実は相手の欠点ばかりに目が行ってしまい結婚には至らなかった。その後、両親は遅く帰宅する真実から鍵を取り上げようとするなどいつまでも子ども扱いするため、真実はついに家を出て群馬を離れて上京する決断をした。東京では派遣社員として英会話教室で働きながらマッチングアプリに登録して結婚相手を探す日々を始めた。そうして出会った架はルックスも良く気遣いもできる都会の男で、真実にとっては理想の結婚相手だった。ストーカー騒ぎが起こり、架と二年の交際期間を経て婚約するが、結婚のために退職することにした英会話教室の送別会の帰りにある事件が起こり、ショックを受けた真実は誰にも告げず東京を離れ、一人仙台へ向かう。
- 美奈子
- 架の大学時代からの友人。仕事もでき美人で気の強い女性。架との付き合いも長く遠慮なく意見を言う。過去の彼女と比べて架が真実に対して70点の気持ちしかないのなら結婚すべきではないと言う。美奈子など架の女友達の前で委縮している真実を見下している。
- 岩間希実
- 真実の姉。母親の束縛を嫌い大学進学を機に上京し、今は結婚して一児の母。何かにつけて母親の言いなりである真実に対していら立つこともあり、真実をなにかと気に掛けている。
- 坂庭正治
- 真実の父親。
- 坂庭陽子
- 真実の母親。真実を自分の価値観で何かと束縛しようとする。
- 小野里
- 地元の議員の妻。結婚相談所を経営している。人を見る目に長けている。
- 金居
- 真実が群馬にいた時の一人目の見合い相手。容姿は垢抜けないが、東京の大学を卒業して大手企業で働いた後群馬に帰ってきて再就職した。真実に断られた後結婚し、現在は妻子がいる。
- 花垣
- 真実の二人目の見合い相手。実家の歯科医院の手伝いをしている。容姿は良いがコミュニケーション能力が低い。
- 谷川ヨシノ
- 仙台で活動するボランティアの女性。真実に樫崎写真館の仕事を紹介する。
- 高橋
- 真実と仙台で知り合うボランティアの青年。真実に好意を持つ。
評価
著者の辻村の作家としての強みは深い人間心理の分析と、それらを濃密に表現することができる筆力にある。本作においても、婚活という、他人を審判せざるを得ない状況で醸し出される、一見すると善良に思われる人間が見せる傲慢さが緻密に考察された上で的確に描写されている点において高く評価されている[7]。
書誌情報
映画
2024年9月27日に公開された[8]。監督は萩原健太郎、主演は藤ヶ谷太輔と奈緒[9][10]。
本作の映画化について辻村は「本作が出版されてから数年を経た現在においても届く読者の声の多様さに驚く」とし、その理由として「読者が小説の誰か、もしくは何かに『自分』を見ているからではないか」と語っている[7]。主演の藤ヶ谷も「映像化するなら、自分が架を演じたい」と売り込んだのだという[11]。
キャスト
スタッフ
漫画
コミカライズが『webTRIPPER』(朝日新聞出版)にて、2024年6月20日より連載されている[14]。漫画は鶴谷香央理が担当[14]。
脚注
外部リンク
- 原作
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- 映画
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