蔣万安
蔣 万安(しょう ばんあん、ジアン・ワンアン、繁体字中国語: 蔣 萬安、1978年〈民国67年〉12月26日[1] - )は、中華民国(台湾)の政治家(中国国民党)[2]、台北市長、弁護士[3]。 台北市出身[1]。蔣介石の曽孫(蔣経国の孫[4])で「蒋家第四代」唯一の政治家[5]。2005年(民国94年)以前の姓名は章 万安(しょう ばんあん、繁体字中国語: 章 萬安)。立法委員、国民党の副書記長と中央常務委員、党のシンクタンク「国家政策研究基金会」董事などを歴任[6]。米国ペンシルバニア大学法律博士(JD)および同国弁護士資格所持者[7]。 人物1978年、蔣経国と愛人関係にあった愛妾の章亜若[8][9]の間に生まれた婚外子で、行政院副院長などを歴任した蔣孝厳(2005年以前の姓名は章孝厳)の長男として台北市で出生。 出生名は祖母である章亜若の姓から章万安であった。蔣経国はロシア人の正妻ファイナに気遣い、章一族に蔣姓を名乗らせなかったこともあり、万安は自身が蔣介石の一族であることを知らされずに育ってきた。しかし成長後に父親から知らされたために、2005年に父親らとともに改名し、蔣姓を名乗りだした[9]。ただし、2020年に公開された蔣経国の日記によると、蔣孝厳は蔣経国以外の人物の子である可能性もある[10]。 国立台湾師範大学附属高級中学国中部[1]、台北市立建国高級中学を経て国立政治大学外交学系および法律学系(系は学部に相当)を卒業[1]。その後ペンシルベニア大学で法学修士および博士号[1]。2009年カリフォルニア州で顧問弁護士資格を所持し、シリコンバレー最大の法律事務所ウィルソン・ソンシーニ・グッドリッチ・アンド・ロサーティ(Wilson Sonsini Goodrich & Rosati, P.C.)パロアルトオフィスに所属した[11]。2011年よりサンフランシスコで「万沢国際法律事務所」を設立。多数の米国企業を顧客とし、連邦政府の証券取引委員会向けの申請業務やコンプライアンス分野に従事、2014年3月に台北市にも拠点を開設した[12][13]。 2022年11月27日、史上最年少で台北市長に当選した[6]。 家庭
蔣家と政治1985年8月16日、蔣経国が米国の雑誌「タイム」香港支局のインタビューを受け、一族に総統職を継がせるかについて問われると「考慮していない」と回答。 1985年12月25日、経国は国民大会での声明でも選挙で一族から後継総統が選出されることについて「ありえないし、不可能」と表明している [20]:417-418[21][22]。 しかし一部の人々はこれを「蔣一族に政治をやらせてはならない」と解釈し、祖父の話を聞き入れないのかと万安を批判する[23][24]。 こういった批判に対し、万安は立法委員立候補時に「一族だからと言って彼(経国)と同じ職業に就けないというのは、(一族が)政治に携われないということではない。祖父は世襲を好まなかったというが、それは独裁時代の話であって、今台湾は民主化されている。自分は祖父経国の執政を学ぶ必要がある。祖父は国民を愛し、人々の幸福を第一に考えて執政していた。自分にとって蔣一族というのは血縁関係というよりほかはない」と反論した[25][26]。 万安は10歳時に自分が蔣一族であることを教師に知らされ、他の4世代目の一族との交流は極めて少ないとも述べている[27]。祖父経国のことに言及する際、万安は「爺爺(お祖父さん)」ではなく「経国先生(経国さん)」と呼んでいる[28]。 政治キャリア2016年4月28日、立法院の監視監督を行っている非営利団体「公民監督国会聯盟(公督盟)」の評価結果によると、万安が第9期第1会期での質疑率と出席率の両部門で立法委員のトップとなった[29]。 2017年9月9日、党の第20期中央委員に選出、10月1日に同常務委員に就任した。 2019年10月2日、第9期立法委員として第1-7会期の「優秀立委」に選出された[30]。 政策・主張国民党の政治家でありながら、同性婚問題や両岸関係では蔡英文/民主進歩党の政策に同調することもある。 万安の政策は国民党内で「中間派」(台湾の政治学者)とみられている[6]。台湾で2019年に認められた同性婚を支持し、対中政策では民主進歩党の蔡英文の主張に賛同する考えを示すなど、自由主義色の強さは蔡英文ら民主進歩党とも共通点がある[6]。 両岸関係2019年1月3日、万安は出演した番組で第14代総統蔡英文(民主進歩党、民進党)による元旦の談話「四個必須」[注 1]について正しいものと論評した[32]。中国共産党中央委員会総書記兼中国国家主席の習近平が掲げた一国両制についても万安は絶対に受け入れられないものであり、大多数の台湾人も同様に考えている、と表明しつつも[33]、同時に蔡英文に対しても迎合することはなく2018年中華民国統一地方選挙の民進党大敗後の執政については検証と反省が必要と釘を刺すことも忘れなかった。 2019年1月7日、万安は「九二共識は確実に存在するものであり、蔡英文の「台湾は未だ九二共識を受け入れたことはない」とする談話については受け入れられないと表明した[34] 2019年11月、香港の反送中デモで香港中文大学に立て籠もった学生を排除すべく香港警察が突入すると、万安は自身のFacebookで「香港の学生は民主主義と自由を守るために警察の圧力に負けずに戦っている。台湾で一国二制度は存在しないし、民主主義や自由、憲政体制もまたいかなる破壊と妥協を容認しない。台湾政府は必要とあらば香港の民衆に対して人道支援を差し伸べる必要がある」と最高レベルの敬意を表明した[35]。 2023年8月、2023上海・台北都市フォーラムに参加するために市長就任後初めて訪中し、中台関係の安定化と対話の重要性を訴えた[36]。 対日関係2024年5月15日、台北市長就任後初めて日本を訪問して自民党の麻生太郎副総裁らと会談した[37]。 労働者問題万安は2016年のチャイナエアライン従業員によるストライキ(zh:2016年華航空服員罷工事件)では現場で従業員支持を表明していた一方で、企業寄りの修正法案を王恵美と連名で提出していたことを指摘されると、事実を認め、提出の姿勢を撤回した。ネットではそうした矛盾を表す四字熟語の造語「万安演惜」が提起された。本人は母がかつて勤めていた職場だったことから単純に同社労組を支持したかったと釈明している[38]。 2017年11月23日、万安は一例一休を盛り込む労働基準法改正の修正案について立法院での初審審議時に「立法委員の発言時間を制限してはならない」と通過を急ぐ民進党側を牽制し、この提案は採択された[39]。休日出勤手当についての審議では2時間にわたる「冗長発言」で審議時間の延長に成功した[40][41]。万安は基本的にこの一例一休には抜け穴があるとして反対の立場を崩していなかった[42]。 12月4日、民主進歩党の邱志偉や蘇震清らは質疑時間を6分に制限しようとしたが[43]、万安が壇上で10分以上発言を続け時代力量の徐永明が不満を表明し、民進党の委員は万安を壇上から退けようとした[44]。結局同日の採決で多数派の民進党による賛成多数で同法案は通過している[45]。 移行期正義2017年12月5日、万安は台湾での白色テロ被害者の名誉回復などを盛り込んだ移行期正義法案に対し賛成票を投じた[46]。 民生2018年12月13日、中国大陸で発生したアフリカ豚熱が猛威を振るうと(zh:2018年中國大陸非洲豬瘟疫情)、その前日に行政院農業委員会が台湾国内の携帯電話端末に緊急地震速報のようなアラートを流していたことを問題視し、他の国民党立法委員とともに、衛生福利部に対し緊急性が高い案件でもないのに安易にこうした警報を流さぬよう要求している[47][48] 同性婚2019年5月17日、司法院が違憲状態を是正するよう勧告し、民進党が提出していた同性婚合法化法案について贊成票を投じた[49]。 2016年立法委員選挙党内予備選2015年3月、万安は翌年に行われる第九回中華民国立法委員選挙の中国国民党候補として台北市第三選挙区から出馬することを表明[50]、同時に米国在台協会(American Institute in Taiwan,AIT)へ出向きグリーンカードを放棄する手続を執った[51]。 4月時点の党内民調(世論調査)第一次では現職立法委員の羅淑蕾が万安と女性のベテラン台北市議王鴻薇ら2名をリードし、第二次が万安と羅の一騎打ちとなった。5月の第二次民調では万安が羅を10ポイント以上引き離して勝利(55.376% - 44.624%)し、台北3区の公認候補となることが決定した[52]。羅は前回立法委員選挙での党内予備選(2011年)で万安の父孝巌を1ポイント以内の僅差で破っていたことから、台湾メディアは万安の勝利を「王子の復讐」と書き立てた[53][54] 選挙結果2016年1月、国民党の劣勢が伝えられる情勢においても奮闘し当選。夫人は選挙事務所で涙を零した。泛藍連盟の票田松山区でリードを広げ、人口の多い中山区でも軍人系および眷村系の支持を得て約3,000票差の僅差で無所属の潘建志を上回った。これにより89,673票を得て当選し国民党の議席を死守した。しかし同選挙区での比較では2008年に6割超の得票率で当選した父や、2012年に12万票弱で当選した羅淑蕾には及ばず、同選挙区で候補者が乱立したこともあって得票率50%未満での当選となった[55][56]。
不正疑惑選挙期間中に万安が有権者に自転車や家電製品を贈答していたとして、対立候補だった潘が異議申し立てをしていたが、2016年3月23日に台北地検は刑事事件としては証拠不十分として万安の起訴は見送った[58][59][60]。またこの件で有権者からも当選無効を訴える訴訟を起こされたが、2016年5月30日に台北地方法院の一審判決で万安が勝訴、当選の効力が認定された[61][62][63]。同年末の二審でも高等法院は万安勝訴、原告敗訴の判決を下している[64]。 2020年立法委員選挙2019年、翌年の第十回中華民国立法委員選挙を見据えた党内予備選は現職として早々と公認を得たが、投票4か月前に民進党は万安同様にルックスに秀でた呉怡農(イーノック・ウー)を刺客として送り込んだ。呉は前回の万安同様に米国籍を放棄し、中華民国海軍陸戦隊に加入することで愛国心も鼓舞した。イェール大学出身でゴールドマン・サックスに勤めていた経歴で台湾民衆党の移民2世で英語とインドネシア語が流暢な若手学者何景栄とともにメディアは「三帥(イケメンの三つ巴)対決」と煽った[65]。選挙戦終盤では民進党陣営が国民党の不分区(比例代表)名簿4位の元中華民国陸軍幹部だった呉斯懐に対し公開討論を要求するなど、安全保障や両岸関係で攻勢を強め、反浸透法に対しても賛否を明らかにしなかった万安も含めて国民党陣営を責め立てたが[66]、現職の万安優勢は変わらず、中山区では前回同様軍人・眷村系の支持を固めて3,000票差で呉を振り切り、松山区では1万票差をつけて連続当選となったが得票数の差は前回の約1.6万票から1.3万票差まで縮小した。民進党は2008年の区割り制度変更後では過去最高の得票率だったものの万安の上積み票がそれを凌いだ。国民党の候補で得票率過半数で二選を果たしたのは台北市では万安と林奕華だけだった。また、国民党で10万票を獲得した唯一の当選者だった[67]。 2020年1月14日、万安は党の2020年中華民国総統選挙での大敗を受け、他の委員とともに党中央委員会常務委員の職を辞すると表明し、党の改革が必要だと訴えた[68][69]。
2022年台北市長選挙2022年5月、同年11月に行われる予定の台北市長選挙(2022年中華民国統一地方選挙の一つとして行われる)の国民党公認候補に決定された[72]。同年11月10日に市長選に専念するため、立法委員の辞職を表明した[73]。 2022年11月26日、陳時中(民進党)と黄珊珊(台湾民衆党)を破り台北市長に当選した[74]。 脚注註釈出典
関連項目外部リンク
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