しらね型護衛艦
しらね型護衛艦(しらねがたごえいかん、英: Shirane-class helicopter destroyer)は、海上自衛隊の護衛艦の艦級。ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)の第1世代であるはるな型(43/45DDH)の拡大改良型として[2]、第4次防衛力整備計画(4次防)中の昭和50・51年度計画で各1隻が建造された[1]。ネームシップの建造単価は約395億円であった[3]。 イージスDDGであるこんごう型(63DDG)が建造されるまでは海上自衛隊最大の護衛艦で、名実共に海上自衛隊の顔であった。 来歴第2次防衛力整備計画で検討された8,000トン型CVHが頓挫したのち、第3次防衛力整備計画では、護衛艦8隻と哨戒ヘリコプター6機で戦術単位(護衛隊群)を編成するという8艦6機体制の構想にもとづき、4,700トン型DDH(43/45DDH; はるな型)が建造された[4][5]。 第4次防衛力整備計画の策定にあたり、対潜戦能力強化のため対潜掃討部隊の新編が計画されたこともあり、この部隊と護衛隊群1個ずつに配分するため、護衛隊群に求められる航空運用能力を1隻で賄えるヘリコプター搭載大型護衛艦(DLH)2隻が計画された。これは、2隻のDDHと1隻のDLHとでは、ヘリコプター6機を搭載して対潜戦を展開するという点では同様の能力を備えるものの、費用対効果やヘリコプターの運用面を考慮すると、DLHのほうが優れると判断されたためであった[1]。最初期の計画では基準排水量8,700トン、機関出力12万馬力でヘリコプター6機搭載、スタンダードミサイルを装備し、将来的にハリアー垂直離着陸機の搭載・運用を考慮して全通飛行甲板を備えることも検討されたが[6]、原案に盛り込まれる段階で艦型は8,300トン型に縮小され、また原案の修正段階で対潜掃討部隊も削除されたことから、建造数は1隻に削減された[1]。 そして国防会議事務局との調整段階で、「はるな型の運用実績もない段階で、全く新しい艦種であるDLHに挑戦するのは時期尚早」と指摘され、DLHの建造自体が断念されることになった[注 3]。そしてそのかわりに、当時世界的な趨勢になっていたシステム艦化や対潜戦のパッシブ戦化、対艦ミサイル防御能力の導入などの新機軸を盛り込み、艦型を拡大した5,200トン型DDHが建造されることになった。これが本型である[1]。 艦名1番艦「しらね」について、海上自衛隊は艦名の由来を白峰三山[8]としている。 また地元では白峰三山の北岳を「白根山」と呼ぶが、これは俗称であり、国土地理院で「白根山」とされているのは日光白根山と草津白根山である。[注 4]さらに他にも「白根山」と俗称される山岳は日本国内に複数あるため、各地の地名を冠して区別されている。 気象や山岳名を基準とする自衛隊の命名規則に照らし、当時最新鋭かつ最大級の艦であるDDHは「はるな」、「ひえい」と、旧海軍で戦艦に使用されていた山岳名から取るのがセオリーとなりつつあった。 これに基づき本型は、1番艦が「こんごう」、2番艦は「きりしま」になる予定だったが、当時の防衛庁長官だった金丸信が自らの選挙区にある白峰三山北岳の俗称、白根山からとって「しらね」とすることを強硬に推したため、このような変則的な命名になったとされる[10]。 この際に廃案とされた「こんごう」「きりしま」は、後にこんごう型イージス艦に採用された。 設計設計面では、おおむね、先行するヘリコプター護衛艦であるはるな型(43/45DDH)の拡大改良型となっている。基本計画番号はF111[11]。 船体全通甲板を有する長船首楼型という船型ははるな型と同様だが、電子装備の充実に伴う艦橋構造物の大型化に伴い、全長にして6メートル船体を延長した。またこれにより造波抵抗を低減したことで、排水量が増大したにもかかわらず、同一出力の主機で同等の速力を確保した。一方、復原性を考慮して、全幅は同一とされた[1]。またはるな型と同様、船体の後方3分の1を占める飛行甲板(ヘリコプター甲板)の横幅を確保し、なおかつ旗艦機能を持たせるために必要な艦内容積を増やすため、全長にわたるナックルが設けられている。加えて、指揮統制能力の強化に伴い艦橋構造物は3層から4層に拡大された[12]。 マック方式の採用も踏襲されたが、はるな型に比べ艦外装備アンテナ・電子機器の数が著しく増加したため、電波干渉を防ぐため、本型では2本に増設された。また第1マックは船体中心線上にあるが、第2マックは、はるな型での運用経験を踏まえて、航空機発着艦時の利便性を考慮し、はるな型とは逆の右舷側にシフトされている。これにより主機の煙路もマックのある右舷側に配置され、ヘリコプターの格納様式がはるな型の右舷2機・左舷1機から、右舷1機・左舷2機へと逆転している[1]。 フィンスタビライザーの装備様式も異なっており、はるな型では5m2フィン2式であったのに対し、本型では8m2フィン1式で同等の減揺効果を確保している[注 5]。また、はるな型では不時着水したヘリコプターを、艦備え付けのデッキクレーンで揚収することが考慮されていたが、はるな型就役以後の研究等によりローターが停止するとHSS-2は転覆することが判明し、着水機を回収する状況そのものの現実味が薄いと判断された。このことから、本型のデッキクレーンは小型である吊り上げ荷重5トンのものに変更された[1]。 また、対潜戦のパッシブ戦への移行に対応し、水中放射雑音を低減するため、船体にマスカー、プロペラにプレーリーが装備されたともされている[1]。 機関主機については、「ひえい」のものが踏襲されている。主ボイラーは石川島播磨重工業・フォスターホイーラー社製D型2胴水管2基、蒸気性状は圧力60 kgf/cm2 (850 lbf/in2)、温度480℃、蒸気発生量各130トン/時。主蒸気タービンは石川島播磨重工業のダブルフロー式ロックド・トレーン二段減速 2胴衝動型シリーズ・パラレル型、出力はそれぞれ35,000馬力 (26,000 kW)である[13]。 一方、システム艦となったことから、電源は強化された。主発電機として、出力1,200キロワットのタービン発電機を前後の機械室に1基ずつ、また出力300キロワットのディーゼル非常発電機を船体前後部に分散配置して戦闘被害対策を講じた。電子装備のために良質電源が必要であったことから、たちかぜ型(46DDG)と同様、蒸気タービン主発電機の常時運転による給電方式を採用した[1]。 新旧ヘリコプター搭載護衛艦の比較
装備設計において多くの点ではるな型(43/45DDH)を踏襲した一方で、装備においては多くの点で刷新がなされている。対潜戦のパッシブ戦への移行に対応し、部隊対潜戦指揮支援機能が強化され、防空力も増強された。 C4ISR本型は、戦術情報処理装置としてOYQ-3 TDPS(Tactical Data Processing System)を搭載する。これは部隊対潜戦指揮支援機能を重視して開発されたこともあり、海上自衛隊の戦術情報処理装置として初めて、双方向の戦術データ・リンクであるリンク 11の運用に対応しており、海軍戦術情報システム(NTDS)への全面的な対応を実現した。このことから、本型は「海上自衛隊初のシステム艦」とも称される[12][注 8]。当初は武器管制機能を有さなかったことから、デジタル式のAN/UYK-20コンピュータを用いるTDS-2-2目標指示装置(Target Designation System)が国内開発されて搭載された[15][16]が、1990年代後半の改修により、OYQ-3に統合された。この改修を受けて、OYQ-3B CDSと改称されている。ただし「しらね」に関しては、2007年12月の火災事故でCICもろともOYQ-3Bを全損したため、「はるな」および「あさかぜ」の搭載機器を移植して搭載している[1]。 センサー面も全面的に刷新された。レーダーとしては、対空用には3次元式のOPS-12、対水上用にはOPS-28が搭載されたが、これらはいずれも本型で初めて装備化されたものである。さらに高度測定用のOPN-8も装備されており[12]、これと航海用のOPS-22はヘリコプターの誘導にも用いられる[17]ことから、OPS-22とOPN-8でNOPN-18着艦誘導レーダー・システムを構成する[1]。 また、ソナーとしては、やはり国産新開発の75式探信儀 OQS-101を船首装備式として搭載したのに加え、「しらね」では可変深度式のSQS-35(J) VDSを搭載した。そして「くらま」では曳航式のAN/SQR-18A TACTASSをアメリカからの輸入によって装備し、「しらね」にもバックフィットした[1]。特に後者は、当時志向されていた対潜戦のパッシブ戦への移行において重要なものであった。艦載機がソノブイの運用に対応したHSS-2Bに更新されたこともあり、従来艦と比して捜索範囲が飛躍的に増大したことから、対潜情報処理の効率化のため、国内開発のOYQ-101 対潜情報処理装置(ASWDS)が搭載された[15]。 電子戦装置としては、「あさかぜ」より装備化されたNOLQ-1電波探知妨害装置が搭載された。これは電子戦支援(ESM)および電子攻撃(ECM)の両方の能力を持つシステムであった[18]。また、OLR-9Bミサイル警報装置も搭載された[17]。 武器システム本型は、護衛艦としては初めてシースパローBPDMS(個艦防空ミサイル、短SAM)を搭載している。これは元来、1974年(昭和49年)度計画の2500トン型対潜護衛艦(49DDK)で後日搭載による装備化が計画されていたものであるが、第一次オイルショックの影響でこの計画は撤回され、翌年度計画に基づく本型で装備化されることとなった[1]。 発射機としては、アスロック対潜ミサイル用のMk.16 GMLSで使われていた8連装発射機Mk.112(日本でも74式アスロック・ランチャーとしてライセンス生産化)を76mm連装砲のマウントに組み込んだMk.25 GMLSがヘリコプター格納庫上に搭載された。ここから発射されるのはRIM-7Eミサイルで、これは事実上、空対空型のAIM-7Eスパローそのものであった。ミサイル射撃指揮装置(MFCS)としては、アメリカ海軍で用いられていたMk.115は人力操作・目視照準であり性能不足、国産のFCS-2も開発遅延のために間に合わず、オランダのシグナール(現在のタレス・ネーデルラント)社のWM-25を輸入により搭載した。これにより、本型は、ミサイル護衛艦(DDG)以外では初めて艦対空ミサイルを搭載した護衛艦となった。なお、これらのシースパローBPDMSを搭載したのは本型のみであり、はつゆき型(52DD)以降では、改良型のシースパローIBPDMSが搭載されるようになっている[19]。本型のBPDMSも、2003年から2004年で行なわれた長期修理の際にIBPDMSに更新されており、ミサイルはRIM-7Mに、発射機はIBPDMS用の短SAM発射機3型(GMLS-3)に、MFCSも国産の81式射撃指揮装置2型12(FCS-2-12)に換装されたが、これらはたかつき型(37DDA)の近代化改修(56FRAM)の際に搭載され、これらの艦の退役に伴って撤去されたものの再利用である[1]。 主砲と対潜兵器の装備要領ははるな型(43/45DDH)のものが踏襲されており、艦後部がヘリコプター格納庫及びヘリコプター甲板となっているため、2門を背負い式配置にした73式54口径5インチ単装速射砲とアスロック用の8連装発射機(74式アスロック・ランチャー)は、艦橋前方に集中して配置されている。砲射撃指揮装置(GFCS)としては72式射撃指揮装置1型A(FCS-1A)が引き続き搭載された[1]。 また、「くらま」では、海上自衛隊で初めて近接防空火器(CIWS)の高性能20mm機関砲を装備化しており、「しらね」でも後日搭載された[1]。 艦載機はるな型と同様、最大で3機の哨戒ヘリコプターを搭載したが、はるな型が当時HSS-2Aを運用していたのに対し、本型では新型のHSS-2Bへの更新が考慮されていたことが大きな変更点である。HSS-2Bはアメリカ海軍のSH-3Hに準じた機体であり、HSS-2Aがセンサとして機上レーダーとディッピングソナーしか持たなかったのに対して、HSS-2Bでは機上レーダーを国産のHPS-102に更新するとともに、AN/ASQ-81磁気探知機(MAD)、AN/ALR-66電子戦支援装置(ESM)、ソノブイ受信機が追加されており、1980年12月に部隊使用承認を受けた[20]。特にソノブイは、対潜戦のパッシブ戦化にあたって非常に重要であったが、その膨大な音響信号を機上で処理するのは困難であり、AN/UYK-20コンピュータを用いるOQA-201ソノブイ信号処理装置(SDPS)が艦上に配置された[1]。また、後にはSH-60J/Kに順次に移行している[1]。 駆逐艦相当の規模の艦での大型ヘリコプター運用の先駆者であるカナダ海軍では、はるな型に1年先行していたイロクォイ級駆逐艦でシーキング2機を搭載したのが最大数であり、3機搭載するのは海上自衛隊特有の運用である。 また、2013年にブルネイで行われた「ADMM+ MM HADR実動演習」では「しらね」がSH-60Jと陸上自衛隊所属のUH-1Jをそれぞれ1機ずつ搭載した実績がある。 同型艦一覧表
運用史本型は準同型艦であるはるな型と共に30年に渡り海上自衛隊の対潜戦闘能力に資してきたが、防衛省はその代艦としてヘリコプター運用能力を大幅に向上させ、物資の輸送・補給能力を付与したいずも型の取得を始めた。これに伴い、1番艦「いずも」が就役した2015年3月に「しらね」が、2番艦「かが」が就役した2017年3月に「くらま」がそれぞれ退役し、これをもって本型は約37年の運用を終えた。また、本型の退役により、海上自衛隊から蒸気タービン動力艦は姿を消した。 2015年5月27日の報道によると、訪日したフィリピンのアキノ大統領とガズミン国防相は日本への軍事援助を求めるとともに、しらね型の中古購入についても要望した[21]。 事故しらね2007年12月14日、戦闘指揮所(CIC)から出火し、これによる火災と消火活動により戦闘指揮所および指揮通信系統を全損した。一時除籍も検討されたが、2009年3月に退役した「はるな」のCIC部分を「しらね」に移植する事で存続が決定し、2009年4月より損傷区画の移植改修と艦齢延長の為IHI マリンユナイテッド横浜工場にて工事を受ける。 2008年12月15日、横須賀港内で作業船と接触したが、双方ともに負傷者はなかった。 くらま2009年10月25日に神奈川県沖相模湾で行われた平成21年度自衛隊観艦式に観閲艦として参加後、母港佐世保基地へ帰還する途中の2009年10月27日夜、関門海峡で韓国籍コンテナ船「カリナ・スター」(7,401総トン)に衝突される事故が発生した。この衝突事故により「くらま」は主錨巻き上げ部を含む艦首部分を大きく破損、観艦式のために艦首倉庫に積んでいた塗料から火災を発生した。火災は約10時間後に鎮火されたが、この事故で「くらま」乗員6名が負傷し、「くらま」は門司港に接岸される。 11月8日、門司港を多用途支援艦「あまくさ」先導の元、(自力航行は可能だったが大事をとって)58号型曳船2隻に曳航され出港。9日午前に母港佐世保基地に帰港、損傷部分を修理された。 登場作品映画
アニメ・漫画
小説
ゲーム
脚注注釈
出典
参考文献
関連項目 |