この項目では、北米のライトレール、および近い特徴を持つ世界の都市鉄道システムについて説明しています。「Light rail transit (LRT)」と呼称されるその他の交通については「LRT 」をご覧ください。
DARTライトレール (テキサス州ダラス)
ユタ・トランジット・オーソリティー TRAX
ライトレール (Light rail) とは、北米 の都市旅客鉄道 の一種で、輸送力が従来の路面電車 とラピッド・トランジット (本格的な地下鉄 など)との中間となるものを指す。北米で公共交通機関 の意である「トランジット 」を付記し、ライトレールトランジット(Light rail transit, LRT ) とも呼ばれる。和訳 として「軽量軌道交通」がある。なお、本項では北米以外でのライトレールの特徴を持つ都市鉄道についても触れる。
また、ライトレールの車両 (vehicle) はライトレール車両 (Light rail vehicle, LRV ) とも呼ばれる[ 注 1] [ 注 2] 。
なお、ライトレールに相対する語としてはヘビーレール があるが、一般的にはあまり使用されない。
概念
ライトレール (Light rail) という概念は、1972年 ごろにアメリカ合衆国運輸省 都市大量輸送管理局(UMTA、現・連邦公共交通局 (英語版 ) 、FTA)によって制定された。これによれば、「大部分を専用軌道 として部分的に道路上(併用軌道 )を1両ないし数両編成の列車が電気運転によって走行する、誰でも容易に利用できる都市の交通システム」とされ、高コストな建設費を避け、輸送力は高架 鉄道や地下鉄 よりは小さく、路面電車 ・路線バス よりは大きく、専用軌道を基本とし併用軌道 を最小限とすることで、概ね運行が道路交通に影響されない形態の都市旅客鉄道を意味する。
これは大量輸送力を持つ本格的な鉄道[ 注 3] である都市高速鉄道 (北米のラピッド・トランジット やメトロ のこと)に対比させており[ 注 4] 、路面電車 (streetcar[ 注 5] ) からも利用の容易性などの一部の長所を取り入れ、新たな第三の都市鉄道となっている[ 注 6] 。概ね専用軌道比率が高く、また連節車 を2、3編成程度連結して運行する形態が多い。
ただし北米以外では、必ずしも統一された定義があるわけではなく、「車体幅が2.65m以下のやや小型な車体を使用し、中量輸送(最大輸送量が1時間当たり5000~15000人ぐらい)をする電気鉄道」がこう呼ばれることが多く、高架で自動運転されるロンドンのドックランズ・ライト・レイルウェイ もLRTとされる[ 1] 。アメリカやカナダ、イギリスでは高床車両を用いた専用軌道の形態も多い。アジアでもフィリピンのマニラLRT-1線 やマニラMRT-3線 、香港の軽鉄 でも同様に高床車両を用いている。
なお近年は低床車両 の導入および都市計画との密接な連携をセットにして導入される事例も見られる[ 注 7] 。日本では低床車両の路面電車 (併用軌道)を指してLRTと呼称することも多い [独自研究? ] 。
イギリスでライトレールなどの情報をまとめている第三者団体、ライトレール交通協会 (LRTA) は、専用軌道比率の高い日本の江ノ島電鉄 、広島電鉄宮島線 、筑豊電気鉄道 、京福電気鉄道 (嵐電)、東急世田谷線 、阪堺電気軌道 の6路線をライトレールに相当する鉄道として分類している[ 2] 。これに対して富山地方鉄道 の富山港線 は「トラムトレイン 」、上記を除く従来の路面電車および宇都宮ライトレール は「トラム 」、また地方鉄道路線の多くは「Electric light railways(電気軽便鉄道 )」に分類している[ 2] 。一方、国土交通省の資料では、軌道法 に基づく路面電車事業者のうち[ 注 8] 、富山ライトレール (現・富山地方鉄道富山港線)および宇都宮ライトレール をLRT導入事業者としている[ 3] 。
歴史
西ドイツ(当時)
現在の北米のライトレールの性格・特徴を持つ都市鉄道の起源は、西ドイツの一部の都市で1960年代後半に生まれたシュタットバーン (Stadtbahn)である[ 4] 。
西ドイツの都市の路面鉄道(シュトラーセンバーン)は、第二次世界大戦 後は車の普及に伴い都市内の路線廃止が進んだが、一方では連節電車 の大量投入や、信用乗車方式 の導入、郊外路線の増強などを行っていた。これを都市鉄道へ向けて、漸進的にメトロ(地下鉄)へ近づく形の高規格化改良に取り組んだ。すなわち、都心部の路線の一部の地下化、路線の専用軌道 化・標準軌化及び信号装置改良などによる定時性の確保と高速化及び大輸送力化、車輛の高性能化(高出力化・高床化など)を行った。高床車両に対応させるためにプラットフォーム を高くする改良も行われた[ 注 9] 。このような漸進策がとられたのは、西ドイツ各都市の人口が100万人以下であったこと、本格的な地下鉄の新設は投資に見合う条件が限られていたことが挙げられる[ 4] 。
フランクフルト地下鉄 (ドイツ・フランクフルト)シーメンス/デュワグU2形電車
このようなシュタットバーン路線は、フランクフルト・アム・マイン で1968年に開業したのが始まりである。これは郊外では路面鉄道を改良したセンターリザベーション 軌道または普通鉄道だが、都心部では地下線となっている[ 注 10] 。車両はシーメンス/デュワグU2形 を用いた。このシュタットバーンは、以降ケルンのシュタットバーン 、ボンのシュタットバーン 、エッセン 、デュッセルドルフ 、シュトゥットガルト [ 5] など、各地で開業した。
北米
北米初のライトレールであるカナダのエドモントンLRT
アメリカでは、1970年代 初頭は車社会化が都市でも過度に進んでいた。既に、路面電車や都市間電鉄(インターアーバン )は全盛期(1920年代 初頭)の4割が廃止され、残存していた6割も次第に時代に合わなくなっていた。しかし経済格差のあるアメリカでは、低所得者層の交通手段確保が社会政策上必要であり、新たな都市鉄道を模索し西ドイツのシュタットバーンを学び作られたのがライトレールである。その際にドイツ語の直訳の「都市」鉄道ではなく「軽量」鉄道(ライトレール)という新たな言葉が作られた。また路面電車(streetcar)とは異なり、鉄道であることを意味する。
北米のライトレールは、1978年にカナダ・アルバータ州 のエドモントン で開業したのがはじまりで(エドモントンLRT )、続いて同じくカルガリー (1981年開業: Cトレイン 、そしてアメリカ・カリフォルニア州 のサンディエゴ 市(1981年開業: サンディエゴ・トロリー )で開業した。これらは、上述のシーメンス/デュワグU2形の車両を用いた。サンディエゴ 市では、低いプラットホーム からこの高床車両へ乗降するために、乗降口にステップを設ける改良を施した。
北米のライトレールがドイツのシュタットバーンと多少異なる点は、多くが全線新規開業の路線であり(廃線跡地の再利用も含む)、都心部路線は併用軌道が多く、地下線は少ない。また路面電車と同様の低いプラットホーム を用いる都市が少なくない。また都市政策的な側面から都心部は無料となっているものが見られる。例えばワシントン州 タコマ のライトレール(タコマリンク 、現:サウンド・トランジット オレンジライン)は、2.6kmの全線が無料で利用できる[ 6] 。同路線の運営はすべて市民からの税収(売上税)で賄われている。ポートランド のTriMet (英語版 ) Metropolitan Area Express (英語版 ) (MAX)も中心部路線は2012年8月31日まで無料で利用できた[ 7] 。
マサチューセッツ湾交通局 (MBTA、ボストン )のグリーンライン やサンフランシスコ市営鉄道 の MUNI Metro では、1980年前後よりボーイング・バートル社 製造のライトレール車両「アメリカ標準型路面電車 」(US Standard Light Rail Vehicle, USSLRV) を導入し既存の路面電車路線(都心部は地下走行)に対する高規格化を図った。なおこのライトレール車両は車両設計製作陣の経験が乏しい等が原因で、実運用成績はそれほど優れていなかった。
近年は、北米のライトレールには70%低床車両 の導入も進みつつある。ポートランド のMAX (英語版 ) では1997年よりシーメンス 製の SD660 を導入している。また大手車両メーカーによるブランド化された高速型低床車輛の導入も進みつつある。例えば、欧州等のトラムトレイン とも共通するが、シーメンス 製S70 (アヴァント)、ボンバルディア 製フレキシティ・スウィフト 、アルストム 製 Citadis Dualis 等がある。なお近畿車輛 や日本車輌 などの日本の鉄道車両製造メーカーも北米向けの低床型等のライトレール車両の製造に携わっている。近畿車輛は70%低床車両 で大きな北米市場シェアを占めている。
アフリカ
アフリカ では初の正式開通のライトレールが、2015年 9月20日にエチオピア の首都アディスアベバ で開通した。高架専用軌道を走る鉄道で[ 8] 、中国 企業の中鉄股份有限公司が受注し、2012年1月に着工していたもの[ 9] 。運用はEthiopian Railway Corporationと深圳地鉄 運用公司[ 8] 。
各国の事例
この節には独自研究 が含まれているおそれがあります。 問題箇所を検証 し出典を追加 して、記事の改善にご協力ください。議論はノート を参照してください。(2014年11月 )
北米
アメリカ合衆国
カナダ
ヨーロッパ
ドイツ
特に、ライン・ルール地区では各都市のシュタットバーンおよび路面電車が連結し、広範囲な路線網を形成している。
また、ヘビーレールと路面電車を直通するトラムトレイン もシュタットバーンの一種とされる。カールスルーエ・シュタットバーン 、ハイルブロン・シュタットバーン (ドイツ語版 ) (ハイルブロン )、ザールバーン (ザールブリュッケン )、レギオトラム (カッセル )、ケムニッツ・モデル がその例である。
オランダ
ベルギー
イギリス
ポルトガル
ギリシャ
アジア
輕軌(軽軌)が高雄市と新北市で一部が開通したほか、台北市でも計画中である。また、ライトメトロ の形態を持つLRRT(Light Rail Rapid Transit/輕軌捷運系統 (中国語版 ) )も推進されている。
日本:LRTAにおける定義によると、次の6社がLRTとなる[ 2] 。
この他、新規のLRT路線として宇都宮ライトレール が2023年 8月に開業している。また神戸市 など数都市でLRTを新設する構想がある。
宇都宮ライトレール
広島電鉄
阪堺電気軌道
江ノ島電鉄
札幌市交通事業振興公社
インドネシア
ジャボデベクLRT(またはグレーター ジャカルタ LRT )。ジャカルタ都市圏内で運行されている軽高速交通システムで、インドネシアの国鉄に相当するケレタ アピ インドネシア (KAI) によって直接運営される予定で、ジャカルタ市内中心部とボゴール、デポック、ブカシなどのジャカルタ郊外の都市部(通称ジャボデベク)を結ぶことが計画されている。2023年に開業。
パレンバンLRT 。スマトラ島のパレンバン市内で運行しているLRT。インドネシア初のLRTとして、2018年に開業。
ジャカルタLRT。上記のジャボデベクLRTとは別の路線で、2023年現在、5.8 km(3.6 マイル)の区間が運行されている。クラパ・ガディン地区のペガンサーン・ドゥア駅とプロ・ガドゥン競輪場駅を結ぶ。2019年に開業。
ジャカルタLRT。2019年12月1日に開業
インドネシア 、南スマトラ州 の州都パレンバン のLRT
アフリカ
エチオピア
エジプト
脚注
注釈
^ Light rail vehicle (LRV) という言葉は、アメリカ標準型路面電車 (US Standard Light Rail Vehicle、ボーイング・バートル社 製造)から始まった。
^ 近年のライトレール向け車両は、トラムトレイン などの併用軌道 の走行を考慮して設計されているケースが多く、高速大量輸送対応の高規格型路面電車とも設計的に近いことがある。
^ ライトレールに対比して、ヘビーレール (Heavy Rail) と呼ばれる場合がある。
^ 自動車道路交通の影響を受けない都市高速鉄道 ・メトロ の軽量版の形態は、大別すると北米のライトレール(路面電車 の利点を取り入れている)と各国の自動案内軌条式旅客輸送システム (欧州等のライトメトロ 、北米では中量軌道交通、日本では新交通システム )とがある。
^ 路面電車を指す言葉は、欧州等では tram、北米では streetcar と呼ぶ。
^ 北米の都市鉄道は、ラピッド・トランジット (ヘビーレール)、ライトレール (LRT)、streetcar(路面電車)という区分で認識される。
^ ライトレールは、トランジットモール の公共交通機関として走行する事例があることから、日本ではこの2つをセットで紹介することが多いが、ライトレールの都心走行区間がトランジットモールとなっている例が特に多いわけではない。
^ よって、LRTAがライトレールと分類している路線のうち、鉄道事業法に基づいている江ノ島電鉄、筑豊電気鉄道については言及されていない。
^ ただしケルンのシュタットバーン では、高床車両路線に加えて、1995年よりプラットフォーム を高くせず低床車両 を導入する路線も始めた。
^ 路面電車と地下鉄が直通する路線は、20世紀 初頭にはアメリカのボストン (現在のグリーンライン)、アルゼンチン のブエノスアイレス 等に存在している。また、路面電車の一部が単に地下線になっているだけではシュタットバーンとは呼ばれない。現にボーフム やエッセン では、シュタットバーンと地下を走る路面電車の双方が存在する。ただし、その境は曖昧である。
^ ライトメトロ の形態を持つ鉄道。自動運転の高架鉄道であり、日本で言う自動運転の新交通システム (鉄輪式)に近い。
出典
関連項目
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
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