京都アニメーション
株式会社京都アニメーション(きょうとアニメーション、英: Kyoto Animation Co., Ltd.)は、日本のアニメ制作会社。日本動画協会準会員。略称及び通称は京アニ(きょうアニ)。 主にテレビや劇場用アニメーション作品の企画・制作(元請け)、他社作品の制作協力を行っている他、出版事業やマーチャンダイジング事業なども行っており、アニメーションを軸としたコンテンツ事業を展開している。会社商標ロゴは「京」の文字をモチーフにしてデザインしたもの[2]。 概要京都府の宇治市周辺に本社と複数のスタジオを設置しており、テレビアニメーションの制作や劇場版アニメーションの制作を主力事業としている。2016年には、テレビアニメを経由しない単体となる長編アニメーション映画の制作にも初参入した[3]。また、自社関連グッズを販売する実地店舗(京アニショップ!)を宇治市内に持つほか、オンライン上での通信販売も行っている。その他の事業に、自社文庫レーベル『KAエスマ文庫』での出版事業や、京都アニメーションプロ養成塾でのスクール事業運営も行っている。2013年からは2年おきに自社イベントを京都市内で開催していた。 一部のポストプロダクション工程は社外で行う必要があるため、京都の本社とは別にオフィスを東京都港区に置く。また、演出など一部のメインスタッフは京都と東京を往復することも多いとされる。そのほか、福利厚生として社宅を完備。社員の出身地は、北は北海道から南は九州まで多岐にわたる[4]。 作画の品質の高さは「京アニクオリティー」と称され、国内外で人気を得ていた[5][6]。2005年発表のアニメ版『AIR』からは最高峰の制作技術で業界の先駆けとなる企画を展開し、ネット時代の日本のアニメ文化の方向性を決定付けたとされている[7]。2006年に放送された『涼宮ハルヒの憂鬱』、2009年に放送された『けいおん!』では社会現象と呼ばれるほどのブームを引き起こし、その名がアニメファンのみならず一般にも知られるようになった。 2019年に発生した放火殺人事件により、第一スタジオが全焼して36名の死者が出るなど、事業・社員共に甚大な被害を被った。以降は再建に向けて取り組んでいる(#第1スタジオにおける放火事件)。 関西地区を本拠地とするアニメ製作会社であるが、2013年までは在阪テレビ局制作の作品の元請け製作を手がけたことがなかった[8]。現在、在阪局の中では朝日放送グループ(朝日放送テレビ・ABCアニメーション)との関係が深く、京都アニメーション主催のイベントに後援企業として名を連ねることが多い。 歴史創業創業者の八田陽子(旧姓:杉山)は東京都出身で、高校卒業後にアニメーターである実兄の杉山卓の紹介により手塚治虫に師事し、旧虫プロダクションで仕上げ経験を積んだ[9][10]。 その後、転職して京都府に移住し、福井県の農家出身で経理担当の鉄道員である八田英明と知り合い、1975年に結婚[11]。宇治市に移り住み、3人の子供を育てる傍ら、そこで近所の主婦に請われてアニメ製作の塾を開講した[9][11][12]。その後、東京にいる実兄やシンエイ動画の社長である楠部大吉郎などの人脈を駆使して仕事を探し、1981年に前述の主婦らと共にシンエイ動画、タツノコプロ及びサンライズの仕上げの仕事を始めたことが事業の始まりである[13][14]。 当初は「京都アニメスタジオ」と名乗っていたが、のちに「京都アニメーション」に改称して英明を社長に据え、1985年に有限会社として法人化される[注 1]。元は仕上げの工程を行う仕上専門会社であったが、1986年に作画部門を設立し、他社の動画の下請けを始めている。1987年のタツノコプロ制作のテレビアニメ『赤い光弾ジリオン』では実質的な制作を行ったとされ、同作品のプロデューサー石川光久がアイジータツノコ(後のProduction I.G)を設立する際には出資を行った[16]。 なお、京都アニメーションもアイジーも、設立当初は杉山卓及び陽子の実姉が、大手製薬会社で経理を担当した経験を活かして支援していた[17]。また、当時アニメアールに所属していた逢坂浩司を招いて、社員の指導を依頼する事もあった[18][19]。 体制確立後1991年、既に東京で著名なアニメーターだった木上益治が入社し、後進の育成も含めて大きな原動力となった[20]。やがて1990年代半ばから、演出・作画・仕上げ・背景・撮影などを自前で行う体制を整え、テレビアニメのグロス請けを行うようになった。スタジオを4か所構えた時期もあったほか、ゲームソフトのパッケージデザインや、そのソフトに関連したコミック版も請け負っていた。一方で、他社同様に雇用条件は厳しく、社員の入れ替わりが激しかった[21]。 1992年にはシンエイ動画からの受注で内田春菊原作のテレビアニメ『呪いのワンピース』を、演出から仕上げまで初めて社内スタッフだけで制作した。このころにはすでに質の高い仕事で評判になっていた。その後、長らく主要取引会社であるシンエイ動画・サンライズ・ぴえろ・タツノコプロ・GONZOなどの制作作品のグロス請け等の下請けを行った。また、『紅の豚』や『魔女の宅急便』などのスタジオジブリ作品の制作にも参加した。アニメ監督の杉井ギサブローによると、その評判から仕事の依頼が絶えず、発注元の制作会社では京都アニメーションに仕事を依頼するためにスケジュール調整を行うことがあったという。 1999年、株式会社に組織変更。このころから、デジタルペイント・デジタルコンポジット制作体制へと移行する。 元請制作参入後2002年、グロス請けを担当していたテレビアニメ『The Soul Taker 〜魂狩〜』のスピンオフ作品であるOVAシリーズ『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて』にてタツノコプロと共同元請制作ながら一般作品の元請制作に参入(1・2話のみ)。 2003年、初の元請制作のテレビアニメ『フルメタル・パニック? ふもっふ』をいくつかの話数でタツノコプロの制作協力を得ながら制作し、アニメファンの注目を集めた。2005年には全話グロス請けに出さずに制作した『AIR』を手がけ、他を圧倒するほどの作り込みと巧みな演出が話題を呼び、京都アニメーションの名はアニメファンの間でブランド化した[22]。以後、グロス請けは動画仕上げにとどめ、1話毎のグロス請けを請けず自社元請制作に専念するようになり、『AIR』以降、ゲームブランドKeyが製作した恋愛アドベンチャーゲームをテレビアニメ化し、『Kanon』、『CLANNAD』、『CLANNAD 〜AFTER STORY〜』と毎年1作ずつ制作した。 2006年、初めて地上波UHFアニメとして制作した『涼宮ハルヒの憂鬱』は、「時系列シャッフル」と呼ばれる手法などで同年上半期最大の話題作となった[23]。 2009年、自社オリジナル企画OVA『MUNTO』に新作カットを加えたディレクターズカット版として『空を見上げる少女の瞳に映る世界』を制作し、UHFアニメとして放送。同時期に劇場版企画『天上人とアクト人 最後の戦い』で劇場アニメに初進出した。 同年、軽音楽をテーマとした同年4月の『けいおん!』では、キャラクター名義のCDとして初のオリコンチャート1位獲得や、登場人物の使用する楽器が急激に売り上げを伸ばすなどの結果、日経MJ2009年ヒット商品番付の西前頭に選出されるなど[24]、その経済的影響力にも大きな注目が集まり、マスメディアから社会現象と呼ばれるまでに至った[25][26]。本作は2010年に第15回アニメーション神戸において作品賞・テレビ部門を受賞。2011年に公開された劇場作は興行収入19億を記録し、2012年に第17回アニメーション神戸において作品賞・劇場部門を受賞した。 文庫レーベル展開後上述の人気作を制作したにもかかわらず、その利益はほとんど還元されなかった。そこで、二次利用による収入を得られる自社企画を推し進めるため[27]、2009年10月2日から第1回京都アニメーション大賞を開催し、2011年にはKAエスマ文庫レーベルを立ち上げ、奨励賞のうち『中二病でも恋がしたい!』(著:虎虎、イラスト:逢坂望美)と京アニBON!での連載作品『夕焼け灯台の秘密』(著:志茂文彦、イラスト:門脇未来)を文庫本化した。 2012年からは上記の京都アニメーション大賞の受賞作品を中心としたKAエスマ文庫原作・原案作品の制作が多くなり、他社の原作付きの作品は『氷菓』を最後にしばらく制作が行われなかった[注 2]が、2014年に以前アニメ化している「フルメタル・パニック」シリーズでつながりのある賀東招二著・富士見書房発行のライトノベル『甘城ブリリアントパーク』のテレビアニメ制作が発表され、2014年10月から12月まで放映された。 2014年10月、第19回アニメーション神戸賞において特別賞を受賞した。 2016年9月、『映画 聲の形』が公開。本作は京都アニメーションとしては初となる、テレビシリーズを挟まない映画となった[3]。2019年3月期には、24億円の売上高を計上していた[28]。 第1スタジオにおける放火事件→詳細は「京都アニメーション放火殺人事件」を参照
2019年7月18日、第1スタジオ(後節参照)で放火による火災が発生し、建物が全焼。国内の放火事件では平成以降最悪となる36名の死者(内3名は病院へ搬送後に死亡)を出し、33名が負傷、1名は無傷だった[29][30]。同年度の第35期(2020年3月末)の決算において、2134万1000円の純損失を計上した[31]。 原画等の紙書類は殆どが焼失したが、サーバルームは火元から遠くコンクリートで囲われていたことから被害を免れ、画像データは全て回収された。また、同年7月20日から8月31日まで徳島市の書店・小山助学館本店で京アニ原画展「私たちは、いま!!特別展」が企画されており、事前に貸し出されていた原画70点は被害を免れている。 事件発生前日に完成していた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』は予定通り公開されたが、続く『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は公開延期、『劇場版 Free!-the Final Stroke-』は制作時期の白紙化が発表された。その後、『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は新型コロナウイルス感染症の流行拡大を経て2020年9月に、制作が再開された『劇場版 Free!-the Final Stroke-』は2021年にそれぞれ劇場公開された。 この事件で犠牲となった武本康弘監督初のオリジナルアニメーション作品として『FIRE FIGHTERS!(仮題)』の制作が進められていたが、事件の影響で制作が中止になった。 事件後2021年の『小林さんちのメイドラゴンS』より、事件後初めてテレビアニメの制作を再開。また、主力作家であった山田尚子は事件後サイエンスSARUに制作の軸足を移している。 2023年7月1日付で日本動画協会に準会員として入会[32]。 2023年12月,新しいレーベル「Kyoani Muse Labo」が発表[33]。 2024年7月、制作力を取り戻すため、第1スタジオ跡地にアニメ制作に使う社屋を再建する予定だと報道された[34]。 作風
原作の再現度元請制作作品は『空を見上げる少女の瞳に映る世界』『たまこまーけっと』を除き、アドベンチャーゲーム(Key作品)・ライトノベル・コミックなどを原作としているが、これらの作品はいずれも基本は原作に忠実であり、その上でサプライズ的な要素を付加させるといったストーリー展開を貫いていた(ただし『フルメタル・パニック! The Second Raid』では女性キャラが少なすぎるため、原作の一部男性キャラクターを女性キャラクターに変更した)。『AIR』『Kanon』『CLANNAD』は東映アニメーションもアニメ版を制作しているが、東映が独自の解釈でオリジナル要素が強いのに対し、京都アニメーションでは原作に忠実な点が評価される一因となっている。また、こうした制作会社の姿勢が、作品の前評判や人気にも繋がっているという分析もある[35][36]。 ストーリー以外でも、原作のCGやイラストと近い作画を制作し、Key作品においては原作に使用されている主題歌・BGMを多用していた。しかし、その後はオリジナル色を打ち出したアニメが増えてきている。『けいおん!』ではオリジナルのキャラクターやストーリーで世界観を膨らませている。『中二病でも恋がしたい!』では、主人公がクラス委員に入っていたり、オリジナルキャラが登場している[注 3]など、KAエスマ文庫を原作とした作品はかなりアレンジしたものとなっている。また、『たまこまーけっと』は初の自社制作オリジナルテレビアニメである。『甘城ブリリアントパーク』ではオリジナルキャラが登場するだけに留まらず、ストーリーも原作とは異なる展開になっている[注 4]。「響け!ユーフォニアム」第3期では、終盤の展開が原作から大幅に改変されたほか、ストーリーも原作とは異なる展開になっている[37]。 制作環境制作体制設立当時は近場に外注を出せる制作会社が少ない環境もあり、多くの工程を自社内で完結させる環境が求められた。そのため、演出、作画、仕上げ、美術、撮影、デジタルエフェクトまでのプロダクション作業を社内で行なえる体制を構築している。そのため、編集・音響を除く映像制作の工程を社内で行え、外注による分業体制を取るプロダクションに対してスタッフのコミュニケーションが密に取れることが特徴となっている[38]。 作画・仕上げ・美術の工程を国内の複数社に委託することは少なく、工程の一部が子会社のアニメーションDo(2020年11月に吸収合併・解散)によってまかなわれているほか、アニメーションDoが共同元請として京都アニメーションの作品を制作することもあった。また、多くの作品で韓国のアニメスタジオ「Studio Blue(旧:Ani Village)」に作画・仕上げ・美術などの工程を委託している。そのほか、動画・仕上げは関西に拠点を置いているスタジオ(スタジオ・ワンパック(現在は解散)やアニタス神戸など)や、東京のスタジオ神龍、中国の火鳥動画制作集団などに、背景美術は『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』で美術監督を務めた田村せいきが所属するアニメ工房婆娑羅のほか、東京のヘッドワークスやアンサー・スタジオなど複数のスタジオに発注することがある。しかし、アニメーションDoとStudio Blueを除く企業に業務委託をする頻度は少ない。一方で、1話数単位での他社へのグロス出しは『フルメタル・パニック? ふもっふ』を除けば、アニメーションDo以外へは行われていない。 スタッフ
社屋本社屋にスキャン・動画検査などを行うデジタル映像開発室を備える。デジタルペイント・作画などの作業は別棟スタジオにて行われる。 2005年、宇治市内に新社屋完成。2008年2月、京都市伏見区桃山町(宇治市六地蔵との境界付近)に建設していた新スタジオ(第1スタジオ)が完成した。第1スタジオは本社と、本社の徒歩圏内にあるスタジオ(第2スタジオ)まで一駅で行ける距離にあり、2008年度以降はこの3スタジオでアニメーション制作を行っていた。2019年、上述の事件により第1スタジオが焼失したが、跡地に社屋再建が予定されている[34]。 自社店舗第5スタジオ内に「京アニショップ!」と言う名の店舗を構え、自社関連グッズ類を販売していた。上述の事件以降は休業し、2020年6月5日には事務所として転用すると発表された[40]。店舗ウェブサイトはその後も通信販売を行っている。 本社・スタジオ京都並走するJR奈良線と京阪宇治線の駅である木幡駅・六地蔵駅周辺に点在している。
→詳細は「京都アニメーション放火殺人事件」を参照
大阪
東京
作品履歴元請制作テレビアニメ
劇場アニメ
OVA
Webアニメ
ドラマCD
自社オリジナルCM(CMライブラリ)
その他の元請制作制作中止
KAエスマ文庫→詳細は「KAエスマ文庫」を参照
制作協力シンエイ動画
ぴえろ
タツノコプロ
サンライズ
オー・エル・エム
GONZO
その他の制作協力
動画・仕上担当作品
背景担当作品
劇場映画
ゲーム内ムービー・動画パート
番組オープニング映像
関連人物故人・退職者を含む。 外部スタッフ原作はゲームブランドKey、ライトノベル・漫画ではKADOKAWAグループによる作品を多く扱う。さらに2016年には4大漫画雑誌である『週刊少年マガジン』で連載された『聲の形』が映画化されている。 Key作品のアニメ化にあたっては、Keyファンであり『AIR』アニメ化の話を持ち込んだアニメーション脚本家の志茂文彦が脚本を務め、同じくKeyファンで[注 7]京アニの主監督を務める石原立也がタッグを組んで制作を行っている。 また『フルメタル・パニック!』の原作者・賀東招二は『らき☆すた』や『涼宮ハルヒの憂鬱』に脚本として参加しており、『氷菓』ではシリーズ構成としてメインスタッフで関わっている。 イベント京都アニメーションとアニメーションDo主催による自社イベントが、2013年より京都市にて開催されていた。イベントでは、所属スタッフによるトークショーやサイン会、また作品出演キャストによるステージイベントの他、原画や美術設定といった作品展示が実施されていた。 2021年にはファン感謝イベントを音楽フェスという形式で開催。京都アニメーション作品の主題歌担当アーティストによる歌唱・劇伴の演奏が行われ、スペシャルコーナーでは事前告知の無かった作品のカバー歌唱等も披露された[55]。 京アニ&Do C・T・F・K 2013 第2回京アニ&Do ファン感謝イベント「私たちは、いま!!」
第3回京アニ&Do ファン感謝イベント「私たちは、いま!! -2年ぶりのお祭りです-」
お別れ そして志を繋ぐ式
第4回京アニ&Do ファン感謝イベント「響け!京都から世界へ編」
第5回京都アニメーションファン感謝イベント KYOANI MUSIC FESTIVAL ―感動を未来へ―
第6回京都アニメーションファン感謝イベント KYOANI MUSIC FESTIVAL ―トキメキのキセキ―
京都アニメーションプロ養成塾設置学科・講師
参考文献
脚注注釈
出典
外部リンク
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