石井 進(いしい すすむ、1931年7月2日 - 2001年10月24日)は、日本の歴史学者。東京大学名誉教授。専門は日本中世史。文学博士(東京大学、1964年)。正四位勲三等旭日中綬章。
来歴・人物
東京都出身。東京高等師範学校附属小学校(現・筑波大学附属小学校)で、のち東大教授となる芳賀徹、平川祐弘、高階秀爾、平田賢と同じクラス(第1部)だった。
東京教育大学附属中学校・高等学校(現・筑波大学附属中学校・高等学校)、東京大学国史学科から大学院を経て東京大学史料編纂所員となり『大日本古文書』の編纂に従事した。東大在学中は佐藤進一に師事。東大文学部教授、史学会理事長、1992年定年退官し名誉教授。
専門の中世政治史では、1969年12月「史学雑誌」78編12号に発表した『中世成立期軍制研究の一視点-国衙を中心とする軍事力組織化について』(後に『鎌倉武士の実像』にも収録)において従来の武士=在地領主論に欠けている側面、武士=職能人論とも言える「武士がどのように認知され、国衙機構に組み込まれ、ないしは関係を持っていたか」を、国司軍としての「館の者」「国の兵共」と「地方豪族軍」などの図式化[1]によって示したことで有名。翌年発表の主著『日本中世国家史の研究』で鎌倉幕府の支配構造にしめる国衙など律令政治機構の役割を解明した。尚、本来専門書でありながら最も入手しやすい著書は、文庫本にもなっている前述の『鎌倉武士の実像』であり、その研究の概要を知ることが出来る。
1970年代、80年代には東京大学文学部の助教授・教授として日本中世史研究を牽引し、網野善彦らとともに「中世史ブーム」をもたらした。1983年に刊行された『中世の罪と罰』を共に執筆した石井、網野、笠松宏至、勝俣鎭夫は「四人組」と呼ばれた[1][2]。
民俗学にも造詣が深く[3]、中世考古学など隣接諸科学にも強い関心を示した。失われゆく中世遺跡の保護にも尽力。中世都市の景観の復元をめざす『よみがえる中世3 武士の都鎌倉』など一連の仕事がある。棚田学会にも寄与した。
『石井進著作集』(全10巻、岩波書店)他著書多数。また晩年客員教授を務めた鶴見大学に石井の蔵書を中心に「石井文庫」が設けられた。
経歴
著書
単著
- 『日本の歴史7 鎌倉幕府』(中央公論社、1965年/中公文庫、改版2004年)
- 『日本中世国家史の研究』(岩波書店、1970年)
- 『中世武士団』(小学館、1974年、文庫新版、1990年/講談社学術文庫、2011年)
- 『もうひとつの鎌倉 歴史の風景』(そしえて、1983年)
- 『鎌倉武士の実像―合戦と暮しのおきて』(平凡社選書、1987年/平凡社ライブラリー、2002年)
- 『中世を読み解く―古文書入門』(東京大学出版会、1990年)
- 『中世史を考える―社会論・史料論・都市論』(校倉書房、1991年)
- 『中世の村を歩く』(朝日新聞社〈朝日選書〉、2000年)
- 『鎌倉びとの声を聞く』(日本放送出版協会、2000年)
- 『日本の中世1 中世のかたち』(中央公論新社、2002年)
著作集
- 『石井進著作集』全10巻(岩波書店、2004年 - 2005年)
- (1)日本中世国家史の研究
- (2)鎌倉幕府論
- (3)院政と平氏政権
- (4)鎌倉幕府と北条氏
- (5)鎌倉武士の実像
- (6)中世社会論の地平
- (7)中世史料論の現在
- (8)荘園を旅する
- (9)中世都市を語る
- (10)中世史と考古学・民俗学
- 『石井進の世界』全6巻(山川出版社、2005年 - 2006年)
- (1)鎌倉幕府
- (2)中世武士団
- (3)書物へのまなざし
- (4)知の対話
- (5)中世のひろがり
- (6)中世史へのいざない
共著
- (石井進等) 『詳説日本史B』 (山川出版社、高等学校教科書、2006年)
- (石井進等)『中世政治社会思想 上』 (岩波書店、1972年)
- (井上鋭夫)『山の民・川の民 日本中世の生活と信仰』 (平凡社、1981年)
- (網野善彦・笠松宏至・勝俣鎭夫)『中世の罪と罰』(東京大学出版会、1983年/講談社学術文庫、2019年)
- (網野善彦・福田豊彦)『沈黙の中世』(平凡社、1990年/平凡社ライブラリー、2011年)
- 『歴史家の夢 新しい博物館をめざして 歴博対談』 (歴史民俗博物館振興会、1997年)
- (網野善彦)『米・百姓・天皇―日本史の虚像のゆくえ』 (大和書房、2000年/ちくま学芸文庫、2011年)
- (網野善彦)『北から見直す日本史―上之国勝山館跡と夷王山墳墓群からみえるもの』 (大和書房、2001年)
編著
- 『新編日本史研究入門』 (東京大学出版会、1982年)
- 『中世の人と政治』 (吉川弘文館、1988年)
- 『中世の都市と墳墓 一の谷遺跡をめぐって』 (日本エディタースクール出版部、1988年)
- 『武士の都鎌倉 よみがえる中世3』(共編 平凡社、1989年)
- 『中世の村落と現代』 (吉川弘文館、1991年)
- 『考古学と中世史研究』 (名著出版、1991年)
- 『中世をひろげる―新しい史料論をもとめて』 (吉川弘文館、1991年)
- 『中世の城と考古学』 (新人物往来社、1991年)
- 『長福寺文書の研究』 (山川出版社、1992年)
- 『都と鄙の中世史』 (吉川弘文館、1992年)
- 『中世の法と政治』 (吉川弘文館、1992年)
- 『鎌倉の仏教―中世都市の実像』 (有隣堂、1992年)
- 『考古学と中世史研究〈2〉 中世都市と商人職人』 (名著出版、1992年)
- 『中世の村と流通』 (吉川弘文館、1992年)
- 『考古学と中世史研究〈3〉 中世社会と墳墓』 (名著出版、1993年)
- 『中世の風景を読む』(全7巻:新人物往来社、1994~1995年)
- 『中世のムラ―景観は語りかける』(東京大学出版会、1995年)
- 『歴史家の読書案内』(吉川弘文館、1998年)
- 『もののふの都鎌倉と北条氏』(新人物往来社、1999年)
- 『原城発掘―西海の王土から殉教の舞台へ』(新人物往来社、2000年)
- 『千葉県の歴史』(山川出版社、2000年)
- 『日本の中世』(全12巻:中央公論新社、2002年 - 2003年)。編集代表
親族
参考文献
- 篠原徹、福田アジオ「歴史学者石井進に柳田国男について聞く」『伊那民俗研究』第22号、柳田國男記念伊那民俗学研究所、2014年、8-33頁。
脚注
- ^ 清水克行 (2019年12月14日). “なぜ中世の日本人は「犯罪者の家を焼き払った」のか 日本の刑罰観を解き明かす名著が復刊”. 現代ビジネス. 講談社. 2023年8月7日閲覧。
- ^ 本郷和人「15分で分かる日本中世史」(PDF)『人文会ニュース』第103号、人文会、2008年5月、5-13頁、2023年8月7日閲覧。
- ^ 民俗学研究所の談話会に旧制中学4年生から大学3年生にかけ出席していたことについては、石井自身が語っている(篠原徹 & 福田アジオ 2014)。
- ^ 博士論文書誌データベース
外部リンク
関連項目