リン・ミンメイ
リン・ミンメイは、テレビアニメ『超時空要塞マクロス』および、関連作品に登場する架空の人物。声の出演および歌唱は飯島真理。名前の漢字表記は「鈴 明美[注 1]」。アルファベット表記は「Linn Minmei」。ポスター、アルバムなどでは「Lynn Minmay」表記が多く見られる。 物語の主要な登場人物のひとり。物語の舞台となる宇宙戦艦マクロスの内部に築かれた市街地で中華料理店の看板娘からアイドルとしてデビューし、その歌は文化をもたない敵異星人ゼントラーディの心にも多大な影響を与え、戦争の行く末を左右する存在となる。主人公の一条輝が思いを寄せる相手となるが、のちに輝のなかで上官である早瀬未沙の存在が大きくなり、三角関係へと発展してゆく。 劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』では物語の最初からアイドルとして活動しており、輝との出会い方や性格描写なども異なっている。 作品世界のディーヴァ(歌姫、女神)的なキャラクターで、日本のアニメ史においても革新的な「架空のアイドルキャラクター」である。新人歌手だった飯島が劇中歌の歌手と声優を兼ね、タレントとしてのプロモーションにつなげた点は、その後のアニメと音楽のメディアミックス戦略の先駆例ともいえる。劇場版の主題歌で、ミンメイの歌唱曲という設定の「愛・おぼえていますか」はオリコンチャートのトップテンに入り、飯島は『ザ・ベストテン』などのテレビ音楽番組にも出演した。この方向性はアニメ作品中に架空の歌手を登場させるという傾向を生み、のちのバーチャルアイドルのような動きにも絡むことになる。 設定超時空要塞マクロス横浜中華街で中華料理店の明謝楼(ミンシャロウ)を経営する両親の一人娘。西暦1993年10月10日生まれ(井上敏樹による小説版では西暦1993年11月28日生まれと表記[3])。第1話時点で15歳。父は鈴宝雄(リン・パオシュン)、母は鈴しげよ。父の兄、鈴少江(リン・シャオチン)と鈴慧中(リン・フェイチュン)夫妻の息子が従兄の鈴海皇(リン・カイフン)。 元子役スターの伯母の影響で、幼少時より芸能界に憧れる。15歳のときレコード会社の歌手オーディション予選に合格するが、宇宙戦艦マクロスの進宙式を観ようと遊びに訪れていた南アタリア島で、異星人との交戦に巻き込まれる。自身を救助した一条輝とともにマクロスに乗艦し、艦内に収容された市街地に住むことになる。 性格は明るく屈託がなく、艦内で伯父の中華料理店「娘々(ニャンニャン)」を再開しようとするなど、環境に順応する積極性を持っている。しかし、自己中心的かつ八方美人な面があり、他人の感情や立場を配慮することが不得手である。このため、奥手な輝を恋愛面でも振り回すことになり、二人の思いがすれ違っていく原因となる。 しばらくは店の看板娘という以外は平凡な高校生であったが、艦内放送開局イベント、ミス・マクロスコンテストでの思わぬ優勝をきっかけに芸能界入り。瞬く間に人気アイドルとなり、レコード、コンサート、ラジオDJから映画女優まで華々しく活躍する。宇宙戦争という現実にも霞むことのない天真爛漫な魅力は、流浪のマクロス市民を励ますだけでなく、異星人ゼントラーディの兵士までも魅了し、やがて戦争終結に大きな役割を果たすこととなる。弱小ビッグスター・レコードに所属するが、艦内市民を癒すアイドルを育てるため、軍部が影で強力に支援したと噂されている。 のちに自身が主役を演じたカンフー映画「小白龍(シャオ・パイ・ロン)」で共演したカイフンに求婚される[注 2]。星間戦争での最終決戦をまえに、死を覚悟した出撃前の輝に告白されるが、このときは幼いころからの憧れだったカイフンを選ぶ。この決戦において、ミンメイの歌を全面に押し立てて戦う輝の案(リン・ミンメイ作戦)が初めて採用され、人類側の勝利に大いに貢献する。 終戦後は地球各地を回り復興に尽力するが、一時期の熱狂に比べて人気は凋落し、その悲哀を味わう。公私ともにパートナーだったカイフン[4]とも離別し、歌うことの意味に迷い失踪、楽しかった昔の記憶に縋るように輝のもとに身を寄せる。そうしてようやく輝への想いを認識するものの時すでに遅く、輝の心はすでに別の女性が占めており、戦火のなかで輝はミンメイではなく早瀬未沙を選ぶ。そしてミンメイはもういちど歌手として生きる道を選び、ひとり旅立つ。 その他の作品超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』の設定では歌手になるため勘当覚悟で実家を飛び出し、マクロス進宙式典のミス・マクロスコンテストで優勝。作品冒頭からすでにトップアイドルとして活躍している。年齢は17歳に変更。従兄ではなく実兄に設定変更された辣腕マネージャーのリン・カイフンとともに強いプロ意識をもつが、しばし人気に疲れ、劇的な出会いをした一条輝との幸せに憧れる。しかしミンメイがゼントラーディに宇宙の彼方へ攫われているあいだに、地球をさまよっていた輝は早瀬未沙と絆を深め、ミンメイがマクロスに奇跡の生還を果たしたあと輝へ告白するものの失恋に終わる。そして、ゼントラーディが保有していたメモリープレートのメロディと、未沙が地球の遺跡から発見し解読した歌詞を合わせて完成した古代星間文明の流行歌「愛・おぼえていますか」を歌い、戦うことしか知らない敵異星人たちに失われた「文化」をよみがえらせ、戦争を終結に導く。 本作品は公開当初はテレビシリーズとの違いはパラレルワールドという解釈であったが、のちに「第一次星間大戦の戦勝20周年を記念して(マクロス世界における)2031年に作られた映画」という設定となった。戦局を勝利に導いたリン・ミンメイの功績をフィーチャーしたことから、クレジットでは本作の「主演」と記されている。 テレビ版第2話で、一条輝の駆るバルキリーから空中に放り出され、アクロバットのすえに機内に収容されるシーンがあるが、劇場版序盤で同様のシチュエーションが再現される場面では、落下して間もなく気を失う。のちに『マクロスF』第2話でも同様のシーンが描かれる。 超時空要塞マクロス THE FIRST2009年に『マクロスエース』で連載開始された漫画『超時空要塞マクロス THE FIRST』では美樹本晴彦によってデザインがリニューアルされている。新しいチャイナドレスはゆづか正成のデザイン[5]。また、新たに「おこげ」という耳の長い「フェレットらしき生き物[6]」を飼っている。 超時空要塞マクロス Flash Back 2012戦争終結から2年後の2012年8月、「さよならサマーコンサート」を成功させる[7]。『超時空要塞マクロス Flash Back 2012』ではそのステージと、宇宙移民船メガロード-01の旅立ちが描かれる。劇場版の身の上話で語られた家出シーンがあるほか、10年後のイメージ(喪服姿)など、さまざまな未来像が登場する。 後日談『マクロス7』終了後に発表された作品世界の年表では、2016年、メガロード-01が銀河系中心部で消息を絶ったと設定されている。『Flash Back 2012』ではミンメイがメガロード-01に乗艦したかどうかは明確にされておらず、年表公開当時の記事でも、ミンメイは2012年に引退し生涯独身だったとする記述が存在したが[8]、プレイステーション用ゲーム『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』の特典「リン・ミンメイのさよならメッセージカード」には、メガロード-01に乗艦したミンメイからのメッセージとして、2016年7月7日付けで、メガロード-01はダークホールから聞こえる謎の歌声を追って、未知の宇宙へと旅立つとする旨が記されている。この情報は新統合政府が非公開にしたため、公にはメガロード-01は宇宙を航行中と信じられている。 その後、2031年公開の映画「愛・おぼえていますか」が大ヒットし[7]、ミンメイブームが再燃[9]。主題歌「愛・おぼえていますか」を含む往年のヒットナンバーも愛唱歌(懐メロ)として定着する。ミンメイは宇宙大戦を終結に導いた伝説の歌姫として歴史に名を残し、「マクロスシリーズ」の作品にたびたびその名が登場することになる。「歴史上の偉人」として、ときに偶像崇拝的な描かれ方もされている。
ミンメイの名声もあって知名度を得た「娘々」(にゃんにゃん)は、その後向かいに住んでいた知人の少年、よっちゃんが引き継いで各移民船団にチェーン展開を行い[11]、『マクロスF』[注 3]では50周年を迎えており、第1話ではミンメイをモチーフにしたキャラクターの登場する店のCMが描かれている。 歌唱曲以下、説明中に作詞者・作曲者が記載されていない曲は、阿佐茜(制作スタッフの共同ペンネーム)作詞、羽田健太郎作曲である。 作品中の歌唱曲
その他の歌唱曲
関連作品小説
ドラマレコード
企画CD
ゲーム
制作企画当初はサブキャラクターだったが、キャラクターデザインを務める美樹本晴彦が描いたチャイナドレスのスケッチがもとで中華料理屋の看板娘という設定になり[14]、マクロスのブリッジへ出前を届けるシーンも考えられていた。企画初期の名前は「斉 明美(サイ・ミンメイ)」だった[15]。作品序盤で目立ちつつ、本命のヒロイン早瀬未沙と交代し、物語の本筋に絡まないまま終わるはずだったが、制作過程において第二次世界大戦期の流行歌「リリー・マルレーン」のイメージで、敵異星人をも魅了する歌い手という設定が与えられ、彼女が戦意高揚映画の主役に抜擢されるという筋書きも検討された[16]。さらに美樹本のアイデアで、松田聖子や中森明菜をモデルにアイドル歌手という設定になった。 原作を務めるスタジオぬえの一員として携わった河森正治は『マクロス』について「輝をめぐってのヒロインとスターの物語だと思っています」と述べ、未沙をヒロインとしつつ「ミンメイは決してヒロインではありません。どこまでいってもアイドルスターなわけです」と位置づけている[17]。また河森と美樹本は、性格が良く可愛いという従来の「都合の良いヒロイン」へのアンチテーゼとして、多少性格の悪い部分もある、全員に好かれなくてもいいキャラクターとしてミンメイを設定した[18]。劇場版では落ち着いた作風に合わせて「努力家」へ設定変更され、従来のアニメファンも比較的感情移入しやすいキャラクターとなった。 反響徳間書店のアニメ雑誌『アニメージュ』の「アニメグランプリ」では、1983年に発表された第5回のキャラクター部門で第3位[19]、1984年に発表された第6回の女性キャラクター部門で第4位[20]、劇場版公開後の1985年に発表された第7回の女性キャラクター部門で第5位に選ばれている[21]。第5回は『超時空要塞マクロス』の登場人物のなかでもトップの順位だったが、第6回、第7回では未沙に抑えられた。 『アニメージュ』1983年11月号の読者投票企画では「私のキライなキャラBest 10」の第1位にも選ばれた。 1983年に発売された秋田書店のムック『マクロスグラフィティ』で発表された人気投票でも、「ミス★マクロス」(女性キャラクター部門)で未沙に次ぐ第2位となった[22]。 後年に「マクロスシリーズ」が確立して以降のシリーズ内キャラクター人気投票では毎回高順位を獲得しており、2010年に雑誌『マクロスエース』で2度にわたって発表されたランキングの女性キャラクター部門ではどちらも第2位[23]、2019年にNHK BSプレミアムで放送された『発表!全マクロス大投票』のキャラクター部門では総合第4位[24][注 4]、アイティメディアが運営するウェブサイト「ねとらぼ調査隊」が2021年以降に実施しているアンケート「あなたが好きなマクロスシリーズの歌姫は?」では、最高で第2位(2022年)を記録している[25][26][27][28]。 日本国外版ロボテック「ロボテック・シリーズ」の第一世代『ロボテック:マクロス・サーガ (英: Robotech : The Macross Saga) 』においては、持ち歌や声優( レベッカ・フォースダット 、リーバ・ウェスト名義 )の相違を除いて、ほぼ同じ展開をたどる。 「ロボテック」版の独自作品である『ロボテック:II センチネルズ (英: Robotech II: Sentinels) 』や、最初の『マクロス・サーガ』から33年後の時代を描いた漫画単行本の『ロボテック:シャドウ・クロニクルへの序曲 (英: Robotech: Prelude to the Shadow Chronicles) 』では、一条輝に相当する人物であるリック・ハンター (英: Rick Hunter) と、早瀬未沙に相当する人物であるリサ・ハイエス (英: Lisa Hayes) がプロトカルチャーの末裔の一派であるゾル人が母星としている[注 5]衛星ティロル (英: Tirol) への外交任務への出発に際し元ゼントラーディ工場衛星「イコーリィティ (factory satellite "Equality") 」で大々的に開催された結婚式にジャニス・イー・エム (英: Janice Em)とともに主賓として招かれ、ジャニスと一緒にデュエット曲 "Together"(一緒に[29])を披露する。 ふたりの結婚式典のあとは地球に戻る予定であったが、工場衛星からの帰途において偶発的事故により、遠征艦隊軍 (英: United-Earth Expeditionary Force 略語:UEEF ) 艦艇の生成したフォールド球に乗艇が巻き込まれ、旗艦である超時空要塞艦SDF-3 パイオニア (英: SDF-3 Pioneer) に同行せざるを得なくなる。 望まぬかたちでリックとリサの仲睦まじい状況を見ることにいたたまれず、救助回収された際に好意を寄せた人物、ジョナサン・ウルフ (英: Jonathan Wolfe) 大佐 に対して、妻と息子がいることを知りながら横恋慕をする。 前記 アカデミー(Academy)社のロボテック II:『センチネルズ』 や、 ワイルドストーム(Wildstorm)社の『シャドウ・クロニクルへの序曲』 では、衛星ティロルに到着後もジャニス・イー・エムとともにユニットを組み歌手活動を続けていたが、その影響力を利用しようとした謀反軍のトーマス・ライリー・エドワーズ准将(T.R.Edwards)に幽閉される[注 6]。 Super Dimension Fortress MACROSSアメリカのADVフィルム社が2006年より発売しているDVD、Super Dimension Fortress MACROSSでは、オリジナルを演じた飯島が22年ぶりに英語の台詞でミンメイ役を務めている(日本国内では未発売)。 脚注注釈
出典
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