白糠町(しらぬかちょう)は、北海道東部、釧路総合振興局管内の白糠郡の町である。
町名の由来
アイヌ語に由来する。原義は諸説が示されてきた中で、山田秀三の考察では、過去に示されてきた解釈を踏まえた上で、「シラリカㇷ゚(sirar-ika-p)」(〔潮が〕岩を・越える・場所)、あるいは「シラロイカ(sirar-o-ika)」(〔潮が〕岩を・そこで・越える)、「シラルカウ(sirar-u-ka-u)」(〔潮が〕岩の・互いに・上に・ある〔=重なりあう〕)などに由来すると解している[2]。いずれにしても、これは市街の東に有る、石炭岬付近の岩礁を表した地名と考えられる[2]。
地理
釧路総合振興局西部に位置する。距離は釧路市都心部から西に約30 km。町域の東西を、東西へ飛び地になった釧路市に挟まれている。帯広市からは東に約90 km。
北部の方が標高が高い傾向が見られる。南部の太平洋沿岸に沿って東西に国道38号、根室本線が走る。また、根室本線の白糠駅の付近には、白糠町役場が置かれ、白糠港とも近い。また、町域東端部の釧路市との行政境界付近には、釧白工業団地が整備された。人口の多くも海岸部に集中する。なお、人口の分布とは関連性が低いものの、釧路市との行政境界に跨って、釧路空港の滑走路が存在する。
参考までに、白糠町成立前の江戸時代から、町域では炭鉱の開発が為されていたものの、それらは全て閉山した。ただし、白糠港の東に「炭鉱岬」という地名が残存する。
隣接している自治体
山
- ウコタキヌプリ - 足寄町との行政境界を成す山々の一部であり、ここは分水嶺でもある。
- 阿寒富士 - 足寄町との行政境界である。かつては阿寒町との行政境界でもあった。
- 滝ノ上山 - 不動の滝などに近い。
- 鍛高山 - この山の南西麓が、鍛高地区である。
河川
町内の河川は、全て太平洋に注ぐ。他の市町村とは、ほとんど集水域を共有しない。
- 庶路川 - 町域東部を集水域とし、滝ノ上山付近には大滝や不動の滝も有る。
- 茶路川 - 町域西部を集水域とし、河口部は白糠港と近い。
- 馬主来川 - 音別町との行政境界であった。例外的に、他の市町村と集水域を分け合っている河川である。
湖沼
- 馬主来沼 - 町域の西端部の海岸付近に位置し、付近は湿地である。
- コイトイ沼 - 町域の東部の海岸付近に位置し、やはり付近は湿地である。庶路川と海岸付近で合流するコイトイ川の流域。
- Green Lake 庶路 - 町の人口が1万人を割り込もうとしていた21世紀初頭に出現したダム湖である。町内で最大の湖でもある。
気候
ケッペンの気候区分によると、白糠町は湿潤大陸性気候に属する。寒暖の差が大きく、気温の年較差、日較差が大きい顕著な大陸性気候である。冷帯に分類される地域の中でも、降雪量が多く、豪雪地帯に指定されている。冬季は-20 ℃を下回る気温の観測事例が珍しくなく、寒さが厳しい。夏季には千島海流の影響を受けて、海岸部では濃霧が出る場合が有る。例えば、釧路空港などでも濃霧が観測され、航空機の離着陸にも影響が出ていた[注釈 1]。有視界飛行では、濃霧発生時の離着陸は難しい程の濃霧である。なお、濃霧が出た場合には、気温が上昇し難い。
白糠(1991年 - 2020年)の気候
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月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
年
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最高気温記録 °C (°F)
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8.2 (46.8)
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13.2 (55.8)
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15.6 (60.1)
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26.4 (79.5)
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30.9 (87.6)
|
31.1 (88)
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33.4 (92.1)
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35.5 (95.9)
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31.3 (88.3)
|
23.2 (73.8)
|
21.2 (70.2)
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13.1 (55.6)
|
35.5 (95.9)
|
平均最高気温 °C (°F)
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−0.3 (31.5)
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−0.2 (31.6)
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3.4 (38.1)
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8.8 (47.8)
|
13.4 (56.1)
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16.3 (61.3)
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20.0 (68)
|
21.9 (71.4)
|
20.2 (68.4)
|
15.3 (59.5)
|
8.8 (47.8)
|
2.3 (36.1)
|
10.8 (51.4)
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日平均気温 °C (°F)
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−6.2 (20.8)
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−5.9 (21.4)
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−1.4 (29.5)
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3.5 (38.3)
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8.3 (46.9)
|
12.0 (53.6)
|
16.0 (60.8)
|
17.8 (64)
|
15.4 (59.7)
|
9.5 (49.1)
|
3.2 (37.8)
|
−3.3 (26.1)
|
5.8 (42.4)
|
平均最低気温 °C (°F)
|
−13.0 (8.6)
|
−13.0 (8.6)
|
−7.2 (19)
|
−1.8 (28.8)
|
3.3 (37.9)
|
8.3 (46.9)
|
12.8 (55)
|
14.6 (58.3)
|
11.0 (51.8)
|
3.6 (38.5)
|
−2.8 (27)
|
−9.5 (14.9)
|
0.5 (32.9)
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最低気温記録 °C (°F)
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−26.5 (−15.7)
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−29.2 (−20.6)
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−20.8 (−5.4)
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−14.6 (5.7)
|
−7.2 (19)
|
−1.9 (28.6)
|
2.9 (37.2)
|
5.3 (41.5)
|
−0.5 (31.1)
|
−6.5 (20.3)
|
−13.4 (7.9)
|
−22.9 (−9.2)
|
−29.2 (−20.6)
|
降水量 mm (inch)
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38.3 (1.508)
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25.6 (1.008)
|
53.9 (2.122)
|
82.2 (3.236)
|
123.1 (4.846)
|
113.3 (4.461)
|
132.5 (5.217)
|
148.9 (5.862)
|
170.4 (6.709)
|
119.6 (4.709)
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63.6 (2.504)
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55.0 (2.165)
|
1,119.1 (44.059)
|
降雪量 cm (inch)
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77 (30.3)
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71 (28)
|
78 (30.7)
|
14 (5.5)
|
0 (0)
|
0 (0)
|
0 (0)
|
0 (0)
|
0 (0)
|
0 (0)
|
8 (3.1)
|
49 (19.3)
|
298 (117.3)
|
平均降水日数 (≥1.0 mm)
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5.0
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4.3
|
7.2
|
8.8
|
10.3
|
9.5
|
11.0
|
11.6
|
10.8
|
8.6
|
8.1
|
6.6
|
101.5
|
平均月間日照時間
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187.0
|
183.4
|
197.4
|
182.2
|
172.1
|
128.7
|
112.7
|
123.0
|
140.8
|
174.3
|
170.0
|
177.6
|
1,949.2
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出典1:Japan Meteorological Agency
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出典2:気象庁[3]
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歴史
- 江戸以前
- 明治以降
財政
2019年度決算による財政状況
(白糠町HP)
行政
歴代町長
- 青木金吾:1947年 - 1963年(4期)[8]
- 舘岡正男:1963年 - 1971年(2期)[8]
- 千葉清:1971年 - 1996年(6期)[8]
- 棚野孝夫:1996年 -(7期目)
行政施設
消防
かつて、本町と白糠郡音別町および阿寒郡阿寒町を管轄する釧路西部消防組合の本署が置かれていた。しかし、2005年10月11日の釧路市新設合併に伴い釧路西部消防組合が解散し、釧路市消防本部と統合された。これ以降、本町は釧路市に常備消防事務を委託している。
出来事
議会でのマスク着用をめぐる訴訟
2021年7月5日に、福地裕行町議が、マスク不着用や、口元を切り取ったマスク姿で議会での発言を認められず、退席を求められた[9][10]。2021年9月13日に議会は辞職勧告を決議したのに対して、町議は受け入れず、損害賠償を求めて町を提訴した[11]。裁判中は「マスクの着用は有害無益だ」と訴え、法廷には弁護士と共にマスクを付けずに入り、着用を求められても応じなかった[12][11]。弁護士は、神真都Qの弁護士である木原功仁哉が担当した[9][13]。2022年3月29日、町議に敗訴の判決が言い渡された[10]。
経済
酪農と漁業が盛んであり、農業も営まれている。工業については、食品加工の他に発電事業が目立つ。林業も営まれており、林業関連の工業として、ベニヤ板の製造が為されている。なお、鉱業は廃れた。
産業
農業では、鍛高地区でシソの栽培が行われており、その地名はシソ焼酎「鍛高譚(たんたかたん)」の名に冠されている。酪農に関しては、町域の南東部に「共同利用模範牧場」も有る。
漁業は、シシャモやサケなどの定置網を用いた漁法による漁が盛んだったものの、2010年代以降はサケの漁獲量が激減し、代わってブリの漁獲量が急増した。ブリ専用の加工場を整備し「極寒ブリ」としてブランド化し、ふるさと納税の返礼品などに活用している[14]。
かつては雄別炭礦の上茶路炭礦、明治鉱業の庶路炭礦など複数の炭鉱で採炭されていたものの、いずれも閉鉱した。町の南東端部には釧路白糠工業団地が置かれ、軽工業と食品加工業の企業を中心に立地している。また、西庶路地区西部にも軽工業団地が置かれている。釧路市、白糠町全域が釧路・白糠次世代エネルギー特区に指定され、ジメチルエーテルの研究・供給拠点の集積を図っている。この関係も有り、木質バイオマス発電所やメガソーラー発電所といった再生可能エネルギーの発電所が集積している。
立地企業
農協・漁協
金融機関
郵便局
- 白糠郵便局(集配局)
- 庶路郵便局(集配局)
- 西庶路郵便局
- 白糠幸簡易郵便局
- 白糠橋北簡易郵便局
- 茶路簡易郵便局
- 縫別簡易郵便局
- 北進簡易郵便局
宅配便
公共機関
警察
- 釧路警察署白糠交番
- 釧路警察署庶路駐在所
- 釧路警察署西庶路駐在所
消防
姉妹都市・提携都市
地域
人口
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白糠町と全国の年齢別人口分布(2005年)
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白糠町の年齢・男女別人口分布(2005年)
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■紫色 ― 白糠町 ■緑色 ― 日本全国
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■青色 ― 男性 ■赤色 ― 女性
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白糠町(に相当する地域)の人口の推移
1970年(昭和45年)
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15,482人
|
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1975年(昭和50年)
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14,897人
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1980年(昭和55年)
|
14,514人
|
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1985年(昭和60年)
|
14,105人
|
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1990年(平成2年)
|
13,301人
|
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1995年(平成7年)
|
12,307人
|
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2000年(平成12年)
|
11,359人
|
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2005年(平成17年)
|
10,397人
|
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2010年(平成22年)
|
9,291人
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2015年(平成27年)
|
8,068人
|
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2020年(令和2年)
|
7,289人
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総務省統計局 国勢調査より
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2021年8月末現在
- 総数 7,450人(男3,497人、女3,953人)
- 世帯数 4,055世帯
教育
- 特別支援学校
- 高等学校
- 中学校
- 小学校
- 義務教育学校
- 大学施設
- 専修学校
- 掘削技術専門学校 - 日本初の地熱発電などの掘削技術者を養成する専門学校。2022年4月に開校した[17]。
閉校した学校
- 縫別小中学校 - 1991年3月に茶路小中学校へ統合された。
- 北進小中学校 - 2001年3月に茶路小中学校へ統合された。
- 河原小中学校 - 2007年3月に茶路小中学校へ統合された。
- 庶路小学校 - 2018年3月に庶路学園へ統合された。
- 庶路中学校 - 2018年3月に庶路学園へ統合された。
- 白糠小学校 - 2022年8月に白糠学園へ統合された。
- 白糠中学校 - 2022年8月に白糠学園へ統合された。
交通
空港
- 釧路空港 - 町域の東端部に滑走路の一部がかかっている。空港ビルディングなどは、全て釧路市内である。
鉄道
かつては国鉄の白糠線が、沿岸部の白糠駅から茶路川に沿って北進まで通じていた。北進からは、分水嶺を越えて、足寄町の螺湾地区を通り[注釈 2]、今度は螺湾川、足寄川に沿って降って、足寄駅まで延伸する計画が有った。しかし、1983年10月23日に白糠線は廃止された。なお、その延伸計画先の足寄駅も、池北高原鉄道の廃線に伴って、すでに無い。
バス
タクシー
- 三州タクシー(午前7時から午後11時まで、営業車両2台)[18]
道路
- 高速道路
- バイパス道路
- 一般国道
- 国道38号 - 町域の海岸部を横断する。このため、どちらの方向へ行っても、釧路市の市域に入る。
- 国道274号 - 浦幌町との行政境界の釧勝峠をトンネルで抜けて町内に入る。なお、国道392号との重複区間が終わった先は、道路が無い。
- 国道392号 - 白糠駅付近で国道38号から分岐し、茶路川に沿うように建設され、釧勝峠方面に向かう。
- 道道
- 林道
- 道の駅
- しらぬか恋問 - 町域の南東端部の国道38号線沿いで、釧路市との行政境界に近い。
名所・旧跡・観光スポット・祭事・催事
文化財
重要無形民俗文化財
観光
- ハミングロード - 白糠駅前にある大通であり「広告景観優良地区」に指定された。
- 岬の森東山公園 - 白糠駅から近い。
- バシクル自然公園 - 馬主来沼の近く。
- 恋問海岸 - 道の駅しらぬか恋問から近い。なお、町内には「恋隠」と言う地名も有るが、全く違う場所である。
- 不動の滝 - 滝ノ上山の北麓に有る、庶路川の滝である。
- Green Lake 庶路 - ダム湖である。
祭り・イベント
- 白糠町ロードレース大会(3月)
- 港in白糠大漁まつり(6月下旬)
- 厳島神社例大祭(7月下旬)
- カミングパラダイス(9月中旬)
郷土芸能
名産品
- 駒踊り最中
- シソ - シソ焼酎の「鍛高譚」の製造者は千葉県に本社を置く合同酒精であり、製造所は旭川市だが、原材料のシソは白糠町鍛高産である。このため「鍛高」の名が冠されている。ただし「赤鍛高譚」も有る。
出身有名人
脚注
注釈
- ^ 電波を利用した誘導システムのILSが稼働してからは、濃霧で視界が得られなくとも、離着陸を実施し易くなった。
- ^ 螺湾という地名には「湾」の文字が付くものの、海ではなく内陸の地名である。螺湾は、大型のフキとして知られるラワンブキの「ラワン」の部分の当て字である。
出典
- ^ 図典 日本の市町村章 p.15
- ^ a b 山田秀三『北海道の地名』(2版)草風館、浦安市〈アイヌ語地名の研究 別巻〉、2018年11月30日、281頁。ISBN 978-4-88323-114-0。
- ^ “白糠 過去の気象データ検索”. 気象庁. 2024年11月30日閲覧。
- ^ “総理府告示第336号(官報)”. 総理府 (1950年12月18日). 2019年11月5日閲覧。
- ^ 日外アソシエーツ編集部 編『日本災害史事典 1868-2009』日外アソシエーツ、2010年、148頁。ISBN 9784816922749。
- ^ 沿岸荒らす外国漁船 タコ漁具さんざん 禁止漁法でかき回す『朝日新聞』1970年2月10日 12版 15面
- ^ “ほぼ全滅の町も…赤潮でウニの価格高騰”. HTB (2021年10月12日). 2021年10月30日閲覧。
- ^ a b c “市町村における長の選挙結果について”. 北海道選挙管理委員会 (2019年2月1日). 2019年11月5日閲覧。
- ^ a b “議員のマスク拒否、法廷闘争に 口元切り取りは正当な権利? 挑発?”. 毎日新聞 (2022年3月11日). 2023年3月11日閲覧。
- ^ a b “マスク不着用の町議敗訴”. 北國新聞 (2022年3月29日). 2023年2月8日閲覧。
- ^ a b “マスク着用の同調圧力と 健康被害に警鐘! 白糠町 福地裕行議員の 名誉回復を!”. Voice. 2023年2月8日閲覧。
- ^ “法廷でもマスク拒否「子どもたちの心身の健康を害することが確実」と主張 議場退席に不服の町議 札幌高裁”. HBC (2022年11月15日). 2022年11月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月8日閲覧。
- ^ “反ワクチン訴訟主任弁護士 木原くにや通信 第9号” (PDF). kihara-law.jp (2022年3月14日). 2023年2月8日閲覧。
- ^ 「ブリ「食べる文化ない」北海道で大漁…“極寒ブリ”ブランド化へ 北の海異変サケ激減」『テレ朝ニュース』テレビ朝日、2023年9月27日。2023年9月30日閲覧。
- ^ “「庶路学園・庶路こども園」完成!” (PDF). 白糠町. 2018年6月19日閲覧。
- ^ “庶路学園・庶路こども園 開校式” (PDF). 白糠町. pp. 2 - 4. 2018年6月19日閲覧。
- ^ “高さ43メートル 白糠に掘削機 来春開校の専門学校設置”. 北海道新聞. (2021年10月25日)
- ^ “白糠町内のタクシー”. 白糠町. 2019年11月7日閲覧。
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
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