例えば、線型方程式系(連立一次方程式)Ax = b を解くとき、行列 A はLU分解により分解できる。LU分解は行列を下三角行列L と上三角行列U の積に分解する。系 L(Ux) = b と Ux = L−1b は、もとの系 Ax = b と比べて解くのに必要な加法や乗法が少ないが、浮動小数点のような不正確な計算ではかなりの桁数を必要とし得る。
同様に、QR分解は A を直交行列Q と上三角行列 R の積 QR として表す。系 Q(Rx) = b は Rx = tQb = c によって解かれ、系 Rx = c は '後退代入(英語版)' によって解かれる。必要な加法と乗法の回数はLU分解のときの約2倍だが、QR分解は数値的に安定(英語版)なため不正確な計算においてより多くの桁数が必要とならない。
関連:LDU分解は A = LDU である、ただし L は下三角行列で対角線に 1 が並び、U は上三角行列で対角線に 1 が並び、D は対角行列である.
関連:LUP分解(英語版)は A = LUP である、ただし L は下三角行列で、U は上三角行列で、P は置換行列である.
存在: LUP 分解は任意の正方行列 A に対して存在する。P が単位行列のとき、LUP分解はLU分解となる。LU分解が存在すればLDU分解も存在する[1]。
コメント:LUP 分解と LU 分解は n × n の線型方程式系 Ax = b を解く際に有用である。これらの分解はガウスの消去法の過程を行列の形にまとめたものである。行列 P はガウスの消去法の過程で行われる任意の行の交換を表す。ガウスの消去法で行の交換なしに行階段形になれば P = I であり、したがって LU 分解は存在する。
分解:A = VDV−1、 ただし D は A の固有値からなる対角行列で,V の行は対応する A の固有ベクトル。
存在:n × n 行列 A はつねに(重複を込めて) n 個の固有値を持ち、それらを並べて n × n の対角行列 D と対応する零でない行の行列 V を作ることができ、固有値方程式 AV = VD を満たす。n 個の固有ベクトルが相異なるとき、V は可逆であり、分解 A = VDV−1 ができる[3]。
コメント:固有ベクトルの長さが 1 であるように正規化することがいつでもできる。A が実対称行列であれば、V はいつでも可逆であり正規化された列を持つようにできる。すると等式 VtV = I が成り立つ、なぜならば各固有ベクトルは互いに直交するからである。したがって、分解は A = VDtV となる。
コメント:固有分解は線型常微分方程式系あるいは線型差分方程式系の解の理解に有用である。例えば,初期条件 x0 = c から始まる差分方程式 xk + 1 = Axk は xk = kAc によって解かれ、これは xk = VDkV−1c に同値であり、ここで V と D は A の固有ベクトルと固有値から作られる行列である。D は対角行列だから、冪 Dk は単に各対角成分を k 乗するだけである。A は普通対角でないから A を k 乗するよりもはるかに容易である。
分解(複素バージョン): および , ただし Q と Z はユニタリ行列で,∗ は共役転置を表し,S と T は上三角行列である.
コメント:複素QZ分解において,A の対角成分と対応する T の対角成分の比 λi = Sii/Tii は一般化固有値問題Av = λBv(ただし λ は未知のスカラーで v は未知の非零ベクトル)を解く一般化固有値である.
分解(実バージョン):A = QStZ および B = QTtZ, ただし A, B, Q, Z, S, T は実数のみを成分とする行列である.この場合 Q と Z は直交行列であり.t は転置を表し,S と T はブロック上三角行列である. S と T の対角ブロックのサイズは 1 × 1 か 2 × 2 である.
高木分解
適用:正方,複素,対称行列 A.
分解:A = VDtV, ただし D は実非負対角行列で,V はユニタリ行列である.tV は V の転置を表す.
^ abZhang, Fuzhen (30 June 2014). “A matrix decomposition and its applications”. Linear and Multilinear Algebra: 1–10. doi:10.1080/03081087.2014.933219.
^Drury, S.W. (November 2013). “Fischer determinantal inequalities and Highamʼs Conjecture”. Linear Algebra and its Applications439 (10): 3129–3133. doi:10.1016/j.laa.2013.08.031.
Choudhury, Dipa; Horn, Roger A. (April 1987). “A Complex Orthogonal-Symmetric Analog of the Polar Decomposition”. SIAM Journal on Algebraic Discrete Methods8 (2). doi:10.1137/0608019.
Hilbert, D. (1904), “Grundzüge einer allgemeinen Theorie der linearen Integralgleichungen” (German), Nachr. Königl. Ges. Gött1904: 49–91
Horn, Roger A.; Merino, Dennis I. (January 1995). “Contragredient equivalence: A canonical form and some applications”. Linear Algebra and its Applications214. doi:10.1016/0024-3795(93)00056-6.
Schmidt, E. (1907), “Zur Theorie der linearen und nichtlinearen Integralgleichungen. I Teil. Entwicklung willkürlichen Funktionen nach System vorgeschriebener” (German), Mathematische Annalen63: 433–476, doi:10.1007/bf01449770
Simon, C.; Blume, L. (1994). Mathematics for Economists. Norton. ISBN0-393-95733-0