ニュルブルクリンク24時間レース
ニュルブルクリンク24時間レース(ニュルブルクリンク24じかんレース、24 Hours Nürburgring)はドイツのニュルブルクリンクで毎年開催されるADAC主催の自動車レース。24時間で走行する距離を競う耐久レースである。毎年5月から6月の初夏に開催される。日本では「ニュル24時間レース」や「ニュル24耐」といった略称で知られている。 イベントの正式名称は、大手損害保険会社のチューリッヒ保険が冠スポンサーとなっていたことから「ADACチューリッヒ24時間レース」(ドイツ語: ADAC Zurich 24h Rennen)であったが、2019年からは石油会社のトタルがスポンサーとなり「ADAC TOTAL 24時間レース」となった。 概要元々はADACが主催するローカルイベントであったが第1回のレースが開催されると人気が集まり、現在ではヨーロッパ中に中継されるビッグイベントとなっている。2024年からはインターコンチネンタルGTカップの1戦となり、総合首位を争うSP9クラスが更に激戦区となった。 参加チームの多さ、コースの規模、観客数、24時間というレース時間の長さなどの点から、イベント規模はレース界随一である。 参加するチームは非常に多く、例えば2007年は合計228チームがレースに参加した。台数が多いため1つのピットを最大6チームでシェアしたり、スタートをグループに分けるといった措置が取られる。給油も複数のマシンが1台の給油機をシェアする体制になっており、給油ノズルには普通のガソリンスタンドにあるガンタイプのものを用いる。SP9クラスのようなクイックチャージャー装備の車の場合でも、それに対応する給油機がないため、クイックチャージャーの差し込み口を持つ漏斗状のアタプターを用いたり、蓋をクイックチャージャー用ではなく普通の蓋に改造したりして対処している。 コースの起伏は激しく、照明のない夜間も走行しなければならず、狭いコース幅にアマチュアを含めた200台以上が走行するため、レースの危険性は高い。そのため、参加者はプロ・アマを問わず、ニュルブルクリンク北コースで開催されるニュルブルクリンク耐久選手権(NLS,VLN)での完走実績を要求される他、英語で出題される筆記試験に100点満点で合格しなければならない。また合格後も抜き打ち指名でのテストがある[1]。 コース→詳細は「ニュルブルクリンク」を参照
競技は、ドイツ北西部ラインラント=プファルツ州 ケルン南方のニュルブルクにあるサーキット「ニュルブルクリンク」で行われる。予選は北コースのみで行うが、決勝レースは北コースとGPコースを連結して使用し、スタート/ゴールラインやピットはGPコースを利用する。 オールドコースとも呼ばれる北コースは荒れた路面や連続するコーナーの過酷さに定評がある。北コースをアクセル全開で一周走ると一般公道を800km走るのと同程度のダメージを受けると言われる。そのため、レース後半になると目に見えるダメージを負ったり、そこをテープなどで補修したマシンが目立つようになる。かつては、フォーミュラカーの[2]ドイツグランプリやF1ドイツグランプリの走路であったが、フォーミュラーカーの車高が下がり凹凸の少ない路面に最適化されると使用されなくなった。 コースが巨大であることから気象条件が一定ではなく、ある地点は日照により完全にドライな路面であるのに、別の地点では濃霧や強雨・雹になることがある。そのため、タイヤ選択が難しく、1周が長いことから判断ミスが致命的な遅れにつながることがある。 山中のコースであり、しばしば濃霧が発生する。2021年にはナイトセッション中に濃霧により事故が多発したことから赤旗が提示され夜間の走行が中断された。夜が明けても濃霧が解消せず、結局14時間30分にわたってレースを中断している。 2024年にはレース開始から7時間15分時点で濃霧から赤旗、そのまま14時間15分の中断を経たものの天候が好転せず、5周のフォーメーションラップ後に23時間5分経過時点でレースが打ち切られている。 現在では車載カメラなど技術が発達しているが、それらの技術が無い時代は悪天候や夜間には、事故が起きても状況困難は非常に困難であった。 他のレースでは「最初にレースの先頭車両が24時間経過後コントロールラインを通過した後に、コントロールラインを通過した時点でゴール」というルールの場合が多いが、1周が長い本レースでは「レースの先頭車両の通過を問わず、24時間経過後にコントロールラインを通過するとゴール扱い」としている。ただしトップと同一周回の車両は、他レースと同様にファイナルラップ宣言を受けた周を消化する必要がある。すなわち、トップより前にコントロールラインを通過すると、ゴールまでにさらに1周回する必要がある。本レースはその過酷さから完走するだけでも実績として扱われる。そのため、上位争いに関係なくなったチームは、規定時間直前にはスローダウンして周回調整することがある。 他にも天候の不安定さからスリックタイヤへの溝彫り加工、テープ補修でリペア完了扱いとする、トラブルでコース内に停車してレッカーによる搬送を受けてもリタイヤ扱いにならない等、本レース独特のレギュレーションも多い。 参加チーム・車両参加チームが極めて多いことが特徴である。総合優勝を狙うワークスから、個人的レースに臨むプライベーターなど、実に100以上のチームが毎年参戦している。 参加車両も多彩で、BMW・M3やポルシェ・911GT3などのような本格派スポーツカー以外にも、ヒュンダイ・クーペ、ホールデン・コモドアやフォルクスワーゲン・シロッコ、ルノー・クリオに至るまで様々な車両が参戦している。中には修理跡のあるようなプライベーターの車両や、往年の名車(Mini、BMW・320isなど)も参加していた。 2011年からはレギュレーション変更により、製造後10年以上経過した車両は参加が出来なくなった。しかし、オペル・マンタの屋根に「尻尾」をつけたチームなど、長期間同一車種で参加しつづけたチームがあり、これらは大会の伝統やアイドルとされ主催者推薦枠として参加している。 ハイブリッドカーやディーゼル車、天然ガス車も参戦しており、トヨタ・ハリアーハイブリッド(2005年)、ホンダ・シビックハイブリッド(2007年)、ポルシェ 911 GT3 R Hybrid(2010年)、BMW・320d(1998年 総合優勝)、フォルクスワーゲン・シロッコ GT24-CNG(2009〜2011年)といった車種が参加したことがある。 日本勢日産ニュルブルクリンク24時間レースに初めて日本のチームが参戦したのは1990年のNISMOで、スカイラインGT-R(R32)でグループNクラス優勝を果たし、翌年も連覇した。 2011年には日産・GT-Rを使用してドイツの地元チーム「シュルツ・モータースポーツ」が参戦し、TVゲームグランツーリスモの開発者である山内一典らの運転でSP8Tクラスのクラス優勝(総合36位)を飾った。2012年にはGTアカデミーチームの山内一典らが運転するGT-Rが同クラスで再びクラス優勝(総合30位)した。また同年には水野和敏率いるGT-Rの市販車開発チームが、GT-Rの開発の一環としてNISMOを介さず、ほぼ市販車のままのGT-Rで参戦するという異例の参戦がされた。 2013年はシュルツ・モータースポーツがグループGT3仕様のGT-RでSP9 GT3クラス参戦するが、エンジン交換を伴うトラブルなどでクラス22位(総合136位)に終わった。2014年にはGTアカデミー・チームRJNとシュルツで合わせて3台のGT-R GT3が参戦し、山内らが駆るシュルツのクラス11位(総合14位)が最高順位であった。 2015年はRJNとシュルツで2台が参戦。ル・マン24時間レースの演習も兼ねたドライバー編成のRJNが、GT3参戦後の最高位となる総合9位でフィニッシュした。2016年はRJNが3台で参戦し、ノントラブルで走り切って総合11位であった。 2017年・2018年は参戦が途絶えていたが、2019年にはタレントの近藤真彦が監督を務めるKONDO RacingがGT3仕様のGT-Rで参戦する。 トヨタ / レクサス2007年に当時の副社長であった豊田章男とその師匠である成瀬弘が独自に組織した「Gazoo Racing」が、ニュルブルクリンク耐久選手権(VLN)を含めて毎年参戦している。参戦初年度の2007年は「Team Gazoo」としてトヨタ・アルテッツァ2台で出走し、110号車が総合104位(SP3クラス14位)、109号車が総合110位(SP3クラス16位)で完走している。2008年はレクサス・IS(IS250のMT車)を投入し(当年はVLNのみ出場)、2009年には当時コンセプトカー段階であったレクサス・LFA(当時は「LF-A」表記)を開発を兼ねて持ち込み話題を呼んだ。翌年の2010年にはSP8クラスでクラス優勝(総合18位)を飾り、2012年にも同クラスでクラス優勝(総合15位)を飾っている。また同年にはトヨタ・86も初参戦し、SP3クラスでクラス優勝(総合46位)している。 2014年はSP8クラスにレクサス・LFA、SP3クラスにトヨタ・86が参戦したのに加え、さらに同年より新設されたSP-PROクラスにはLFAをベースとした次世代のスポーツカー技術の研究用車両である「LFA Code X」が参戦、このGAZOO Racingの3台はすべてクラス優勝を果たし「完全制覇」を達成した。 2016年には市販前であったクロスオーバーSUVのC-HRを参戦させ、2018・2019年にはSP-PROクラスに研究開発用のレクサス・LCを参戦させるなどトヨタのニュルブルクリンクでの活動は、勝利することを目標とする世界ラリー選手権(WRC)・世界耐久選手権(WEC)に比べて車両開発・人材育成の要素が強い。 プライベーターでは、岐阜県レクサス専門チューニングショップのNOVELがチームを組織して2016年から市販車のIS FやRC Fで参戦し、2018年にはクラス2位と3位を獲得した[3]。2019年にはRACING PROJECT BANDOHとのジョイントで、最高峰のSP9クラスにRC F GT3で挑戦する。またトヨタ・チーム・タイランドもカローラ・アルティスやC-HRで2014年から参戦している。 スバル→「スバル・WRX VA § モータースポーツ」も参照
スバルテクニカインターナショナル(STI)が2008年からWRX STIで参加(総合14位・クラス2位)したのが始まりである。スバルが2009年に世界ラリー選手権(WRC)から撤退して以降は、ニュルブルクリンク24時間レースがSTIの欧州における主要活動に取って代わっている。またGAZOO Racing同様、メカニックは全国のディーラーから選んでおり、人材育成の面も強い。 2011年にSP3Tクラスでクラス優勝(総合21位)[4]、翌2012年にも同クラスを連覇した(総合28位)[5]。2013年はマシントラブルでクラス2位(総合28位)、2014年には接触とペナルティでクラス4位に終わったが[6]、2015年にはクラス優勝(総合18位)を取り返した[7]。2016年も勝って連覇するが[8]、2017年は接触や炎上によりリタイアし、3連覇を逃した[9]。 2018年にはSP3Tクラストップの予選タイムを叩き出して決勝レースをスタートし、1時間ほど順調に走ったものの、パワーステアリングのオイル漏れが発生してピットイン、1時間弱のタイムロスとなるだけでなく、クラストップを明け渡してしまう。またスタートから5時間経過後にはパドルシフトの作動不良、騒音規制オーバーによる失格を防ぐために、エンジン回転数上限を抑制した。途中雨の夜という悪条件下でAWDの力を見せつけ、ラップタイムはハイパワーエンジンを積んだGT3マシンの何台かよりも速かった。その後ゴールまで残り1時間というタイミングで突然のスローダウン、オフィシャルの手により車両はピットに戻りトラブルの原因は不明という状況だった。メカニックの懸命の作業により疑わしき部品を交換してなんとかコースに復帰し[10]、クラス2位のVW「ゴルフ」に13周もの大差をつけて勝った[11]。2019年はマシントラブルもアクシデントもなく、前年同様クラス優勝(総合19位)、3度目の連覇を果たした[12]。 ファルケン1999年からタイヤメーカーのオーツタイヤ[13]が、N1耐久シリーズのチャンピオンチームを母体とした「FALKEN MOTORSPORTS TEAM」を結成して参戦を継続している[14]。車種は1999年がR33型日産・スカイラインGT-R、2000年はGT500仕様トヨタ・スープラ、2001年以降は毎年R34型日産・スカイラインGT-Rのスーパー耐久仕様の改造車で、特に2002年は総合5位に入賞する活躍ぶりを見せた。2005年と2006年は一度活動を休止したが、2007年から日産・フェアレディZで復帰。 2011年からはベース車両をポルシェ・911 GT3Rに変更して2018年現在まで参戦継続中であり、2014年には総合4位入賞を果たした[15]。また欧州法人は他のニュルブルクリンク24時間レース参戦チームへのタイヤの供給も行っている。 クラス参戦車両は大まかに24hSpecial、VLNSeries、Cupの3分類に分けられる。総合優勝を狙うワークス勢は24hSpecial内のSP9クラスに属する。
歴代優勝車/チーム
脚注
関連項目
外部リンクInformation related to ニュルブルクリンク24時間レース |