Lythronax argestesは大半の属が北アメリカ大陸とアジアで知られている、大型のコエルロサウルス類の科であるティラノサウルス科に属する[10]。層序学的位置に基づけば、リトロナクスは2013年時点で報告されている最古のティラノサウルス科の恐竜となる[6][7][10]。リトロナクスが正式に命名される以前、Zannoet al. (2013)は後のリトロナクスのホロタイプ標本がユタ州南部から産出したテラトフォネウスやビスタヒエヴェルソルと異なる可能性が高いことに言及した。これは、カンパニアン期の西部内陸盆地に少なくとも3属のティラノサウルス科が生息していたことを意味する。Zanno et al. (2013)の系統解析では、これら3分類群は他のティラノサウルス科のグループを除外する同科の単一のグループ内に配置された[8]。
リトロナクスを記載したLoewen et al. (2013)による詳細な系統解析では、頭蓋骨の特徴303個と体骨格の特徴198個が使用され、リトロナクスはテラトフォネウスと共にティラノサウルス亜科に配置された。リトロナクスはマーストリヒチアン期の分類群(ティラノサウルスとタルボサウルス)や後期カンパニアン期のズケンティラヌスとの姉妹群とされた。これらの属はダスプレトサウルスやテラトフォネウスといった、ティラノサウルスらとリトロナクスとの間の時代に生息した分類群よりも近縁とされた[10]。
Brusatte and Carr(英語版) (2016)はより包括的な内群および解剖学的特徴を用いてティラノサウルス上科の新たな系統解析を公開したが、その結果はLoewen et al. (2013)の結果と一致しなかった。Loewen et al. (2013)の解析でアリオラムス族はティラノサウルス科の外に配置されていたが、Brusatte et al. (2016)ではティラノサウルス科の最も基盤的な位置に置かれた。逆にLoewen et al. (2013)はビスタヒエヴェルソルをテラトフォネウスやリトロナクスに近縁な派生的ティラノサウルス亜科に位置付けていたが、Brusatte and Carr (2016)はビスタヒエヴェルソルをティラノサウルス科よりも基盤的とし、またテラトフォネウスとリトロナクスを基盤的なティラノサウルス亜科とした[23]。これらの対照的な系統解析の結果を以下にクラドグラムとして示す[10][23][24]。
系統解析の結果に基づき、Zanno et al. (2013)は当時未命名であったリトロナクスの持つ特徴により他の属を排除してララミディア南部のティラノサウルス科を纏められると提唱した[8]。Loewen et al. (2013)は南部の分類群の固有のグループを系統樹上で再現しなかったものの、3属が互いに近縁であり、より大型かつ後の時代のグループの基盤に位置することを突き止めた[10]。これらの結果から、Loewen et al. (2013)はララミディア大陸は南北での動物相の交換が制限されており、重大な生物地理学的分断があったことを示唆した。また、Loewen et al. (2013)でアリオラムス族がティラノサウルス科から除外され、アジアのタルボサウルスとズケンティラヌスが他の全てのティラノサウルス科から除外されたグループを構成したため、Loewen et al. (2013)はティラノサウルス科の大陸間の移動が北アメリカ大陸からアジアへの1回だけであったと提唱した。この説明に置いて、大陸間の移動は世界的な海水準の低下に伴って後期カンパニアン期に起こったとされ、ティラノサウルスはアジアへの移動以前に北アメリカの属種から派生したとされる[10]。
Brusatte and Carr (2016)による系統解析の結果は、Loewen et al. (2013)によるものと異なる。ララミディア大陸南部から産出したビスタヒエヴェルソルがティラノサウルス科から除外され、ユタ州産のテラトフォネウスがアラスカ州産のナヌークサウルスの近縁属とされたため、Brusatte and Carr (2016)はララミディア大陸の南北間で繰り返しダイナミックな交換があったことを示唆し、各地に存在したとされた固有の生態系を否定した。アジアの分類群であるタルボサウルス、ズケンティラヌス、キアンゾウサウルス、アリオラムスは北アメリカの属と共にティラノサウルス亜科内に配置された。Brusatte and Carr (2016)は少なくとも2回の大陸間交差があったと仮説を立てており、ティラノサウルス亜科がアジアに起源を持ち、アリオラムス族の派生後に北アメリカ大陸に進出し、再びアジアに戻ってタルボサウルスとズケンティラヌスを輩出したことが考えられた。Brusatte and Carr (2016)が提唱したもう1つの仮説は、アジアへ2回の独立した移動が起こり、アリオラムス族とさらに後の大型の属が別個に出現したというものである。いずれのシナリオにせよ、ティラノサウルスはアジアの分類群の中に位置付けられており、アジアからララミディアへ拡散したマーストリヒチアン期の侵略的な属ということになる[23]。
Brusatte and Carr (2016)によるアジア-北アメリカ間の移動仮説はVoris et al. (2020)による解析でも支持された。しかしVoris et al. (2020)の解析では、ニューメキシコ州(ララミディア南部)のディナモテロルとアルバータ州(ララミディア北部)のデータを加えることで、Loewen et al. (2013)により提案されたティラノサウルス科の南北区分が再現されることとなった。ララミディア南部の分類群は吻部が短く深いグループを形成し、より派生的なララミディア北部の属よりも基盤的な位置に置かれ、また別々の骨格形態型を有した。Voris et al. (2020)はこれらの形態学的な差異が生態学的理由で生じるものであるとし、獲物の構成や採食戦略といった点に起因する可能性があるとした。ティラノサウルス科がこれらの地域に生息していた時代には主要な獲物群がララミディア北部と南部で共通していたことから、Voris et al. (2020)は頭蓋の解剖学的構造の違いが摂食戦略の違いから生じたと結論した[24]。
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