大町市(おおまちし)は、長野県の北西部にある市。立山黒部アルペンルートの長野県側玄関口として有名。1954年(昭和29年)市制施行。
概要
市の北部には仁科三湖と呼ばれる3つの構造湖が南北に連なっており、糸魚川静岡構造線活断層系が走っていると考えられている。
大町・北安曇地区の唯一の市であり、政治・経済の都市機能が集積している。
地理
長野県の北西部に位置し[1]、市の面積の88パーセントは森林である[2]。
位置
信濃川の最上流部にあり[2]、市の西部には標高3,000メートルの広大な北アルプス、東部には1,000メートル近い山々がそれぞれ連なる山岳文化都市である[1]。富山県と長野県を結ぶ「立山黒部アルペンルート」の長野県側の玄関口である[3]。
山に挟まれた盆地を高瀬川が南北に縦断している。
地形
地質
北アルプスから流れる鹿島川と高瀬川の扇状地にある[4][5]。糸魚川静岡線に沿った断層谷を中心に広がる地にあり、多くの地下水が集まって湧出し、冬が長い豪雪地帯でもあるため雪解け水にも恵まれる[4][6]。古来、これら豊富な水資源を利用した稲作・そばなどの産業が発展した[4]。
山岳
2008年(平成30年)、鹿島槍ヶ岳のカクネ雪渓が日本で4カ所目、長野県内では初めての「氷河」と認定された[2]。
- 主な山
河川・湖沼
北アルプスから出る高瀬川や鹿島川など豊富な水量を誇る複数の河川と、天然の湖である仁科三湖のほか、水力発電のために人工的に造られたダム湖「高瀬ダム」「七倉ダム」「大町ダム」などがある[2]。仁科三湖は湖沼からの湧水を主な水源として天然のため池の役割を果たし、ここで温められた水は農具川によって下流の耕地を潤した[5]。農具川沿いでの稲作は約2000年前に始まったとみられる。市街地には生活用水を供給する呑堰(のみぜき)が巡らされており、町川が流入する要所地には「水分神(みくまりのかみ)」として若一王子神社を祀っている[5]。
- 主な河川
- 主な湖
人口
- DID人口比は19.6%、安曇野市への通勤率は7.9%(いずれも平成27年国勢調査)。
- 長野県内の市では飯山市に次いで2番目に人口が少なく、また箕輪町のそれを下回っている。
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"大町市"と全国の年齢別人口分布(2005年)
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"大町市"の年齢・男女別人口分布(2005年)
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■紫色 ― "大町市" ■緑色 ― 日本全国
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■青色 ― 男性 ■赤色 ― 女性
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"大町市"(に相当する地域)の人口の推移
1970年(昭和45年)
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35,817人
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1975年(昭和50年)
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37,311人
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1980年(昭和55年)
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36,083人
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1985年(昭和60年)
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35,460人
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1990年(平成2年)
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34,300人
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1995年(平成7年)
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33,655人
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2000年(平成12年)
|
33,550人
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2005年(平成17年)
|
32,145人
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2010年(平成22年)
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29,801人
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2015年(平成27年)
|
28,041人
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2020年(令和2年)
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26,029人
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総務省統計局 国勢調査より
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隣接自治体
- 長野県
- 富山県
- 岐阜県
気候
寒暖の差が大きく気温の年較差、日較差が大きい顕著な大陸性気候である。旧八坂村地域を除き、豪雪地帯に指定されている。冬季は-15℃前後の気温が観測されることが珍しくなく、寒さが厳しい。
大町(1991-2020)の気候
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月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
年
|
最高気温記録 °C (°F)
|
13.7 (56.7)
|
18.0 (64.4)
|
22.6 (72.7)
|
28.2 (82.8)
|
31.8 (89.2)
|
34.6 (94.3)
|
35.1 (95.2)
|
35.5 (95.9)
|
32.8 (91)
|
28.2 (82.8)
|
24.0 (75.2)
|
18.3 (64.9)
|
35.5 (95.9)
|
平均最高気温 °C (°F)
|
1.6 (34.9)
|
2.8 (37)
|
7.4 (45.3)
|
15.0 (59)
|
20.8 (69.4)
|
23.8 (74.8)
|
27.2 (81)
|
28.5 (83.3)
|
23.7 (74.7)
|
17.7 (63.9)
|
11.6 (52.9)
|
4.8 (40.6)
|
15.4 (59.7)
|
日平均気温 °C (°F)
|
−2.8 (27)
|
−2.3 (27.9)
|
1.6 (34.9)
|
8.0 (46.4)
|
14.0 (57.2)
|
17.9 (64.2)
|
21.6 (70.9)
|
22.4 (72.3)
|
18.1 (64.6)
|
11.8 (53.2)
|
5.8 (42.4)
|
0.2 (32.4)
|
9.7 (49.5)
|
平均最低気温 °C (°F)
|
−7.5 (18.5)
|
−7.4 (18.7)
|
−3.4 (25.9)
|
2.0 (35.6)
|
8.1 (46.6)
|
13.2 (55.8)
|
17.4 (63.3)
|
18.0 (64.4)
|
13.9 (57)
|
7.2 (45)
|
0.9 (33.6)
|
−3.9 (25)
|
4.9 (40.8)
|
最低気温記録 °C (°F)
|
−17.0 (1.4)
|
−18.0 (−0.4)
|
−14.5 (5.9)
|
−11.1 (12)
|
−1.2 (29.8)
|
3.6 (38.5)
|
10.3 (50.5)
|
9.0 (48.2)
|
2.0 (35.6)
|
−4.2 (24.4)
|
−7.6 (18.3)
|
−14.8 (5.4)
|
−18.0 (−0.4)
|
降水量 mm (inch)
|
84.7 (3.335)
|
78.1 (3.075)
|
100.1 (3.941)
|
98.1 (3.862)
|
111.5 (4.39)
|
159.4 (6.276)
|
195.3 (7.689)
|
136.1 (5.358)
|
165.0 (6.496)
|
129.1 (5.083)
|
69.8 (2.748)
|
78.8 (3.102)
|
1,405.9 (55.35)
|
降雪量 cm (inch)
|
164 (64.6)
|
133 (52.4)
|
76 (29.9)
|
5 (2)
|
0 (0)
|
0 (0)
|
0 (0)
|
0 (0)
|
0 (0)
|
0 (0)
|
6 (2.4)
|
73 (28.7)
|
454 (178.7)
|
平均月間日照時間
|
107.2
|
125.3
|
163.4
|
185.1
|
198.4
|
146.6
|
137.4
|
169.4
|
118.9
|
137.6
|
132.2
|
108.6
|
1,730
|
出典:気象庁[7]
|
歴史
古代
青木湖周辺では約1万5000年前から人々が暮らした[8]。
古城遺跡からは弥生時代の土器が発見されている[8]。
現在の大町市街の一帯は『高根』と呼ばれていた[9]。
中世
- 平安時代
- 鎌倉時代
- 仁科氏の城館「天正寺館」を中心に京に倣った都市計画が進められ市場町が形成される(現在の大町市街の原型)。この頃より『大町』と呼ばれるようになる[9]。
近世
- 江戸時代
近現代
- 昭和時代
現代
- 平成時代
行政
市のシンボルマークは、オオヤマザクラ、カタクリ、カモシカ、ライチョウである[10]。ライチョウは市の汚水マンホールのデザインに採用されている。「きらり輝く大町市」をキャッチフレーズに、「まちづくりフォーラム」や「ひとが輝くまちづくり事業」の公開審査などを通して、市民による様々な活動を推奨している[11]。
2013年(平成25年)、移住促進のため「定住促進ビジョン」を掲げた。2012年(平成24年)度には1桁だった移住者の世帯数は、2019年(令和元年)度には年間8倍以上に増加する効果をあげている[12]。
市長
- 歴代市長
県政機関
議会
市議会
- 大町市議会
- 第19期
- 定数:16人
- 任期:2023年4月30日 - 2027年4月29日
- 議長:二條 孝夫
- 副議長:太田 昭司
会派名 |
議席数
|
政友クラブ |
5
|
市民クラブ |
2
|
日本共産党大町市議団 |
2
|
峻嶺会 |
2
|
無所属クラブ |
2
|
無会派 |
3
|
県議会
- 選挙区:大町市選挙区
- 定数:1人
- 任期:2023年4月30日 - 2027年4月29日
- 投票日:2023年4月9日
- 当日有権者数:22,155人[13]
- 投票率:48.54%
候補者名 |
当落 |
年齢 |
所属党派 |
新旧別 |
得票数
|
奥村健二 |
当 |
57 |
無所属 |
新 |
4,478票
|
降旗達也 |
落 |
50 |
無所属 |
新 |
3,891票
|
田辺芳宏 |
落 |
75 |
無所属 |
新 |
2,176票
|
衆議院
出先機関・施設
国家機関
厚生労働省
国土交通省
- 北陸地方整備局 大町ダム管理所
- 北陸地方整備局 松本砂防事務所高瀬川出張所
財務省
- 国税庁
農林水産省
法務省
- 検察庁
裁判所
- 家庭裁判所
- 簡易裁判所
施設
警察
- 本部
- 交番
- 駐在所
- 平駐在所(大町市平)
- 常盤駐在所(大町市常盤)
- 八坂駐在所(大町市八坂)
- 美麻駐在所(大町市美麻)
消防
- 本部
- 消防署
医療
- 主な病院
郵便局
集配業務は旧八坂村域のみ生坂郵便局(生坂村)が担当し、それ以外は大町郵便局が担当する。
集配郵便局 |
大町郵便局
|
無集配郵便局 |
一本木郵便局、大町北郵便局、平郵便局、美麻郵便局、八坂郵便局
|
簡易郵便局 |
大町俵町簡易郵便局、大町南原簡易郵便局、大町宮田簡易郵便局、矢下簡易郵便局
|
文化施設
- 図書館
- 博物館・史料館
対外関係
姉妹都市・提携都市
国内
- 姉妹都市
海外
- 姉妹都市
経済
第一次産業
農業
第二次産業
工業
豊かな水と広大な土地を活かした水力発電などにより早期から工業が発達した。工場数では食料関係が多いが、出荷額では窯業や電子にかかわる分野が圧倒的に多い[14]
一般的に窯業とは陶磁器生産のことを指すが、大町市ではレゾナック・ホールディングス(旧 昭和電工)が製造する炭素棒の黒鉛電極のことを言う[15]
水道水源の余剰水や豊富で良質な地下水を有効利用したミネラルウォーターを出荷する各飲料メーカーの製造工場が複数進出している。同じく、良質な地下水を利用した地酒の造り酒屋が3件あり、地ビール工場も新設された。[16]
- 市内に工場を持つ主な企業
- 工業ダム
- 高瀬ダム - 東京電力の発電専用のダムである。日本で第2位の提供高がある。
- 大町ダム - 洪水調整や上水道のための用水確保のためのダム。
- 七倉ダム - 東京電力の発電用ダム。
[17]
市内に本社を置く企業
金融機関
- 本所、社支所、ときわ支所、大町支所、平支所
情報・生活
マスメディア
放送局
中継局
ライフライン
電力
電信
- 組合
教育
高等学校
- 県立
中学校
- 市立
小中学校
小学校
2026年度から大町市立大町北部小学校と大町市大町立南部小学校に再編予定[18]。
- 市立
自動車学校
山村留学発祥の地
八坂・美麻地区は山村留学制度の発祥地である。
東京の小学校教師・青木孝安が長野県で夏休みに小中学生対象の教育キャンプを実施したが、
- 年齢に合わせた無理のない活動
- 地域住民の指導・協力のもと山村の生活文化をじっくり体験することを重視
するなど当時としては画期的なプログラムが参加者に好評で、長期滞在を希望する声が上がったことからスタートした。
八坂・美麻地区で共用している山村留学センターと地区ごとの山村農家を併用する方式で行われている。
交通
鉄道
鉄道路線
- 東日本旅客鉄道(JR東日本)
- かつては簗場駅 - 南神城駅間にヤナバスキー場前駅があった。
バス
関電トンネル電気バス(旧トロリーバス)
- 関西電力
路線バス
信濃大町駅を起点に市内多方面に運行している。
池田町方面から市境付近にある正科バス停まで運行しており大町市民バスと乗り継ぐことができる時間帯もある。
ANAホリデイ・インリゾー信濃大町くろよん - 大町温泉郷 - 信濃大町駅 - 市立大町山岳博物館 - 塩の道ちょうじゃや流鏑馬会館 - 国営アルプスあづみの公園(大町・松川地区) サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場 - 安曇野ちひろ美術館 - ラ・カスタ ナチュラルヒーリングガーデン - 仁科神明宮 - 信濃大町駅 - 大町温泉郷 - ANAホリデイ・インリゾー信濃大町くろよん
高速バス
タクシー
タクシーの営業区域は北アルプスあづみの交通圏で、安曇野市・北安曇郡・東筑摩郡北部などと同じエリアとなっている。
道路
高速道路
- 2021年現在、市内に高速道路や地域高規格道路は通っていない。最寄ICは長野道安曇野インターチェンジ、上信越道長野インターチェンジなど。
- 地域高規格道路
- 市内では高瀬川右岸堤防道路の長野県道306号を活用し、上一北交差点付近から木崎湖トンネル付近まで新設区間となる予定である。新設区間は途中にインターチェンジは中間4ヶ所計画されている。
- 有料道路
国道
県道
道の駅
- 道の駅
観光
名所・旧跡
- 主な城郭
- 主な神社
- 主な寺院
- 街道
-
国宝・仁科神明宮本殿(2008年5月撮影)
-
若一王子神社拝殿(2018年7月撮影)
-
青木湖
-
爺ヶ岳から望む蓮華岳と針ノ木岳、眼下に扇沢駅
観光スポット
宿泊施設
文化・名物
名産・特産
登山
- 大町登山案内者組合
「大町登山案内者組合」は1917年(大正6年)6月、日本初の登山ガイド組織。発足100周年を迎える。
旅館「対山館(たいざんかん)」の経営者百瀬慎太郎(1894年 - 1949年)が質の高い案内人を安定的に提供するため、地元の猟師ら山で働く人を中心に22人をガイドとしてまとめた。定額料金を導入したり、心得や規約を作ったりし、資質の向上に努め、針ノ木小屋建設など針ノ木岳周辺の環境整備にも尽力。こういった活動は模範となり、各地に同様の組合ができた。
百瀬は対山館を訪れる著名な登山家らと交流する中で、新しい海外の登山文化などを取り入れていた。組合の拠点だった対山館はサロンのような山の情報の交流・発信場になり、近代登山の発達に影響を与えた。[19]
出身関連著名人
作品
大町市を舞台とした作品
小説
アニメ
脚注
出典
- ^ a b 『わたしたちの大町市』大町市教育委員会、2020年、3頁。
- ^ a b c d 『わたしたちの大町市』大町市教育委員会、2020年、4頁。
- ^ 『わたしたちの大町市』大町市教育委員会、2020年、5頁。
- ^ a b c 『わたしたちの大町市』大町市教育委員会、2020年、14頁。
- ^ a b c 『信濃大町』まちなみカントリープレス、2014年、42頁。
- ^ 大町市史編纂委員会『大町市史 第1巻自然環境』大町市、1984年、494頁。
- ^ “大町 1991-2020年”. 気象庁. 2025年1月14日閲覧。
- ^ a b 大町市教育委員会『わたしたちの大町市』大町市教育委員会、2020年、06頁。
- ^ a b c d 『大町市制施行50周年記念誌 やまなみ仰ぎて』(2004年10月、大町市発行)、p2-3。
- ^ 『わたしたちの大町市』大町市教育委員会、2020年、3頁。
- ^ 『わたしたちの大町市』大町市教育委員会、2020年、8頁。
- ^ 『わたしたちの大町市』大町市教育委員会、2020年、10頁。
- ^ “令和5年4月9日執行長野県議会議員一般選挙市町村別投票結果確定速報”. 長野県庁 (2023年7月10日). 2023年10月22日閲覧。
- ^ 大町市教育委員会『わたしたちの大町市』大町市教育委員会、2020年、13頁。
- ^ 大町市教育委員会『わたしたちの大町市』大町市教育委員会、2020年、12頁。
- ^ 『市立大町山岳博物館 研究紀要』市立大町山岳博物館、2023年、51頁。
- ^ 地球の歩き方編集室『ダムの歩き方』ダイヤモンド社、2018年、56頁。
- ^ 新小学校の経過
- ^ http://www.omachi-sanpaku.com/ 大町山岳博物館
関連項目
外部リンク