2022年のF1世界選手権においてドライバーズ・チャンピオンとなったマックス・フェルスタッペン
2022年のF1世界選手権 は、国際自動車連盟 (FIA)フォーミュラ1 世界選手権の第73回大会として開催された。
概要
3月20日 に行われたバーレーンGP で開幕した。当初はF1史上最多の全23戦が予定されていたが、2月に発生したロシアのウクライナ侵攻 により、9月25日 に予定されていたロシアGP は開催中止となった[ 1] 。代替開催はなかったため、2021年 と同様に全22戦となり[ 2] 、11月20日 に行われたアブダビGP にて閉幕した。カタールにてFIFAワールドカップ が開催されるため、12月に閉幕した2021年と比べ、36週間で22戦開催という過密日程となった[ 3] 。
レギュレーションの変更
本年の技術規定では、車体が生成する乱気流 を削減し、オーバーテイクを促進するため、空力設計に関して大規模な変更が実施された[ 4] [ 5] 。シャシー側のレギュレーションが大幅改定された一方、パワーユニット(PU)については燃料の変更など小規模な変更にとどまった。PUの開発については、後述の通り、申請期限を以てPU関連の開発は凍結され、2025年までは申請された仕様のPUを使用する[ 6] [ 7] 。
技術規定
2022年規定の車両はフロア下に2本のベンチュリ ・トンネルを備え、車体底面のグラウンド・エフェクト によって大半のダウンフォース を生成する設計となり、前後ウイングへの空力的な依存度が低下する[ 5] 。
フロントウイングは大幅に簡略化され、取り付け位置は高くなり、またステーなどを介さずノーズコーンに直接取り付けられる形となる[ 8] 。リアウイングの幅は拡大され、取り付け位置は高くなり、翼端板の上部は削減される[ 9] 。
バージボードは禁止され、左右のフロントタイヤの上部には乱流を抑制するためのフィンが取り付けられる[ 8] 。
ブレーキダクトの空力学的部品としての利用は制限される[ 8] 。
タイヤのホイール サイズは従来の13インチから18インチに変更される[ 10] 。
サスペンションはフロント・リア共に機械式のみに限られる[ 11] 。
2008年以来となるサイドポンツーンへのルーバーの設置が認められる。
車両側で使用する標準パーツは増加している。また、マシンパーツは以下の4つのグループに分けられた。
区分
分類されるパーツ
リステッド・チーム・コンポーネント (LTC)[ 12]
全てのチームが製造する必要がある
空力パーツ サバイバルセル プライマリーロール構造 フロント・インパクト構造など
スタンダード・サプライ・コンポーネント (SSC)[ 13]
FIAが指定したサプライヤーが製造するパーツ
燃料流量計 テレビカメラ ホイールリム[ 14] タイヤなど
トランスファラブル・コンポーネント (TRC)[ 15]
他チームから購入することができる
リア・インパクト構造 ギアボックス・キャリア ギアボックス・カセット クラッチなど
オープンソース・コンポーネント (OSC)[ 16]
設計図が公開されているパーツ
フロントフロア構造 ペダル DRSアクチュエーター ドライブシャフトなど
燃料の成分が変更となり、従来のE5燃料からバイオエタノールの割合が10%へ引き上げられた「E10燃料」へ切り替わる[ 17] 。
燃料抜きのマシンの最低重量は798kgへ引き上げられた。当初は43kg増の795kgだったが、FIA、F1、10チームによる最低重量引き上げのための協議の結果、さらに3kg増の798kgとなった[ 18] 。
PUの開発は今年の申請期限までの開発を以て凍結される[ 19] 。ただし、開発凍結については2段階分けて実施される。MGU-K、ES、CEの3項目に関しては2022年9月1日から開発が凍結される仕組みとなっているが、それ以外のPUに関する項目は2022年3月1日から開発が凍結される。そのため、MGU-K、ES、CEの3項目に関しては開幕戦以降も開発することは可能であり、それらに関する判断は各PUメーカーに委ねられている。また、例外も設けられ、「信頼性、安全性、コスト削減、または最小限の付随的な変更のみを目的とした」変更を認めている。信頼性に関する変更を行う場合、FIAテクニカル部門にて書面で申請し、メーカーは必要に応じて問題が発生しているという明確な証拠を提出したうえで、妥当性を判断するためにFIAは、提出された書面を全メーカーに配布し見解を募り、変更の可否を判断する。それ以外の排気系や各種配線といった細かな調整を行いたい場合、FIAの承認を得た上で「最小限の変更」が認められている。
競技規定
決勝スタートタイヤの使用義務
決勝スタートタイヤの使用義務は撤廃され自由選択となる。2014年以来、Q3進出者はQ2でベストタイムを記録したタイヤを決勝のスタート時に使用する義務があったが、以下の理由から撤廃された[ 20] 。
上位と下位でタイヤ戦略を分けるのを目的としたルールだったが、速さのあるチームはミディアムタイヤでQ2を通過でき、上位から理想的な戦略でスタートができる有利な立場に立てたため。
Q2をぎりぎりで突破したドライバーは、自由選択のタイヤでスタートが出来る6列目のドライバーより不利な立場に陥っていたため。
パルクフェルメ規定の変更
競技規則によりFP1開始前に行われる車検時のラジエーターを除くボディワークが“リファレンス ・スペック”となり、FP3開始前にはその状態へ戻さなければならなかったが[ 21] 、第10戦イギリスGP 以降は、パルクフェルメ中のPUコンポーネントの交換の許可や、PUコンポーネントが損傷・故障した場合の一時的な修復するための規定が設けられた[ 22] 。
スプリント
スプリント予選レースは2022年から以下の内容に変わり、スプリントは第4戦エミリア・ロマーニャGP、第11戦オーストリアGP、第21戦サンパウロGPの3戦で行われた[ 23] 。
スプリント予選レースの正式名称は「スプリント」となる。
授与されるポイントはトップ3からトップ8までに拡大する。
実施される各グランプリのポールポジションは、金曜日の予選での最速ドライバーに与えられる。
途中終了レースのポイントシステム
2021年ベルギーGP での批判を受け、レースが中断終了した場合の短縮レースでのポイント配分が変更されたが[ 24] 、3月に一部修正された[ 25] [ 注 1] 。
従来はレース距離の75%以上でフルポイント、2周以上75%未満でハーフポイント、2周未満はノーポイントだった。2022年のレギュレーション改正により、レースが中断し再開されず途中終了した場合 、ラップリーダーがSCやVSCの介入なしに2周を周回していなければポイントは与えられない 。また、与えられるポイントはラップリーダーが消化したレース距離の割合に応じて変更される。さらにファステストラップを記録したドライバーに与えられる1ポイント についても、ラップリーダーの周回数が予定の50%未満の場合は付与されない[ 注 2] 。レース距離が規定周回数の75%以上 を消化した場合は従来のままフルポイント が与えられる。
順位
途中終了したレースの消化距離の割合
75%以上(フルポイント)
50%以上 75%未満
25%以上 50%未満
2周以上 25%未満
2周未満
1位
25
19
13
6
0
2位
18
14
10
4
3位
15
12
8
3
4位
12
10
6
2
5位
10
8
5
1
6位
8
6
4
0
7位
6
4
3
8位
4
3
2
9位
2
2
1
10位
1
1
0
FL
1
1
0
レース距離75%未満かつ、赤旗終了(レース中断のまま終了)ではないという条件に対する規則の記載はないため、チェッカーフラッグが振られた(レース終了の合図) 時点でラップリーダーの周回数に関係なくフルポイント が与えられる[ 26] [ 注 3] 。
タイムスケジュール
関係者の負担軽減を目的に木曜日の公式記者会見が廃止され、金曜日の午前中にドライバー会見が行われる。FP1とFP2は共に午後に実施する。例外的に木曜日にFP1,2を行っていたモナコグランプリ も同様のスケジュールとなる[ 27] [ 28] 。しかし、個別のメディア対応等のため、前年同様木曜日時点でドライバーがサーキット入りする状況が続いていたため、第10戦イギリスGP以降のドライバー会見は木曜日の開催に戻された[ 22] 。
金曜日のFP1開始前に「プレイベント・カー・ディスプレイ」として、各チームが2台のマシンを1時間ガレージ外で展示することが義務付けられた。展示されるマシンはFP1出走用に完成された状態でなくてはならない。また予選終了後にも「ポストクオリファイング・カー・ディスプレイ」が行われ、レースディレクター等から指定された5チームの技術者がメディアに対して、マシンに施された主要アップデートについて説明すること(最低10分間)が義務付けられる[ 29] 。
ギアボックスの基数制限
ギアボックス については前年まで6戦連続の使用を義務付けられ、違反した場合は5グリッドの降格ペナルティが科せられていた。しかし、前戦をリタイアで終えた場合はペナルティを科されずに交換が可能となっており、入賞が見込めない状況となったところで意図的にリタイアを選択してペナルティを回避するケースがあったことから、本年からPUと同様に年間の基数制限コンポーネントに含まれることになった。ギアボックスのコンポーネントは以下の2つに分けられ、両者とも年間のレース数が23戦以下の場合は4基、24戦以上の場合は5基が上限とされ、超過した場合はそれぞれ5グリッドの降格ペナルティが科せられる[ 30] 。
ギアボックス・ケース及びカセット (GBX-C & C)
駆動部品、ギアチェンジ、補助部品 (GBX-DL)
その他
2019年 まではグランプリでの各ドライバーのタイヤセットの配分を選択できたが、2020年 はピレリ側の要請で新型コロナウイルス感染拡大に伴うカレンダー変更への対応のため、各ドライバーのタイヤ選択制は廃止され、全員に同じ内訳で支給される固定割り当て制となり[ 31] 、2021年もその方針が継続されていた。ただし、今季に関しては、ピレリの判断ではなく、参戦チーム側から18インチ導入の影響もあり、固定割り当て制の継続を求める要請があっため、今季も原則として1台毎にハード2セット、ミディアム3セット、ソフト8セット支給で統一された[ 32] 。
セーフティカー導入時のルールの一部文言が変更され、周回遅れの車が追い越し可能となるメッセージが全競技者に送られた場合、全ての周回遅れの車両 がリードラップの車両とセーフティカーを追い越さなければならない[ 18] [ 注 4] 。
金曜フリープラクティス1でのルーキーの走行義務が年間2回課せられた[ 33] 。
風洞 実験と数値流体力学 (CFD)システムの利用制限が強化され、1〜6月までは前年の選手権のランキングに従って基本数値から以下のように定められた[ 34] [ 35] 。
コンストラクター
空力テストの許容量
メルセデス
70%
レッドブル
75%
フェラーリ
80%
マクラーレン
85%
アルピーヌ
90%
アルファタウリ
95%
アストンマーティン
100%
ウィリアムズ
105%
アルファロメオ
110%
ハース
115%
参戦チーム・ドライバー
エントリーリスト
チーム名・ドライバーの変更
チーム名の変更
ドライバーの変更
開幕前
開幕後
シーズン終了後
セバスチャン・ベッテル
7月28日 、今シーズン限りで引退することを自身のInstagram にて発表した[ 93] 。
フェルナンド・アロンソ
8月1日 、引退を発表したベッテルの後任として、アストンマーティン は2023年から加入し複数年契約したことを発表した[ 94] 。
ダニエル・リカルド
8月25日 、マクラーレン と2023年末までの契約だったが、双方合意のもと2022年を以て終了すると発表された[ 95] 。11月23日 にレッドブル にてサードドライバーを務めることが発表され、5年ぶりに古巣へ復帰する[ 96] 。
ピエール・ガスリー
6月24日 、2023年もアルファタウリ から参戦することが発表されたが[ 97] 、8月にオスカー・ピアストリ とアルピーヌ の契約の騒動から、アルピーヌヘの移籍の噂が浮上した[ 98] 。当初はレッドブル側が否定したものの、10月8日 にアルピーヌより2023年から複数年契約をしたことが発表された[ 99] 。
ニコラス・ラティフィ
9月27日 、今シーズンをもってチームから離脱することが発表された[ 100] 。11月21日 、後任にはローガン・サージェント を起用すると発表された[ 101] 。
ミック・シューマッハ
11月17日 、今シーズンをもってチームから離脱することと後任にニコ・ヒュルケンベルグ を起用することをハース が発表した。12月15日 、2023年からリザーブドライバーとして加入することがメルセデス より発表された[ 102] 。
フリープラクティスドライバー
今シーズン以降F1チームには、レース出場が2回以下のルーキーを金曜日のFP1で走行させる義務が年間2回課せられている[ 38] 。ルーキーには過去に出走2回以下の新規レギュラードライバーも含まれる。
開催地
第17戦として予定されていたロシアGPは、2月下旬のロシアのウクライナ侵攻 を受け、2月24日の会議と3月1日の世界モータースポーツ評議会 の臨時会合を経て、不可抗力を理由に開催中止となった[ 103] [ 104] 。ロシアGP開催中止の発表以降も年間23戦という開催スケジュールを保持するための代替開催は検討され、カタール、シンガポール[ 注 8] 、バーレーンのアウター・トラック[ 注 9] が候補とされていた[ 105] 。しかし、F1は5月18日にロジスティクスの面から代替開催を断念し、年間22戦の開催スケジュールとなることを正式に発表した[ 106] [ 107] 。
S スプリント(決勝前日実施) - 第4戦エミリア・ロマーニャGP(全21周)、第11戦オーストリアGP(全23周)、第21戦サンパウロGP(全24周)
シーズン結果
レース
前年度繰越の()内の数字は、開幕時点の有効ペナルティポイント。
戒告処分
戒告処分が1シーズン中に5回に達し、5回のうち4回がドライビングに関する違反に対する戒告の場合、5回目の戒告が発せられたグランプリの決勝グリッド(5回目の戒告が決勝レース中の場合は次戦の決勝グリッド)において10グリッド降格[ 158] となる。
●…有効戒告処分。○…ペナルティ消化後の戒告処分。 ▲…有効戒告処分(非ドライビング)。△…ペナルティ消化後、もしくは累積に含まない戒告処分(非ドライビング)。
カーナンバー
2022年から使用可能になるカーナンバーはなく、唯一のルーキードライバーである周冠宇は、現行カーナンバー制度下では初使用となる「24」を使用する。
テレビ放送・インターネット配信
日本
脚注
注釈
^ 50%以上75%未満のレースにおいて4位には10ポイント、7位には4ポイントが付与される。
^ 「2022 FORMULA ONE SPORTING REGULATIONS」の「6) WORLD CHAMPIONSHIP」の6.4項後段より「 No point will be awarded if the fastest valid lap time is achieved by a driver who was classified outside the top ten positions, or if the leader has completed less than 50% of the scheduled race distance. 」
^ 日本GP はレース消化率52.8%(28/53周)だったが、この条件に該当したためフルポイントが付与された。
^ 「LAPPED CARS MAY NOW OVERTAKE」とアナウンスされた際に、変更前は「any cars that have been lapped by the leader will be required to pass the cars on the lead lap and the safety car(周回遅れの“any cars”は先頭車両とセーフティーカーを追い抜くことが求められる)」との規定の文言になっていたが、新たに「all cars that have been lapped by the leader will be required to pass the cars on the lead lap and the safety car(周回遅れの全車両 は先頭車両とセーフティーカーを追い抜くことが求められる)」に変更された。
^ バーレーングランプリ でデビューした周冠宇 の出場は、アルファロメオのルーキーとしての走行義務に含まれた。
^ クビサはレースに2回以上出場しているため、ルーキーの走行義務の回数には含まれない。
^ ジョヴィナッツィはレースに2回以上出場しているため、ルーキーの走行義務の回数には含まれない。
^ 従来の開催と合わせ2週連続開催。
^ 2020年にサヒールGPとして開催された。
出典
関連項目
外部リンク
1950年代 1960年代 1970年代 1980年代 1990年代 2000年代 2010年代 2020年代