CRD2(シーアールディーツー)は、商業デブリ除去実証(Commercial Removal of Debris Demonstration)の英語略称で、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) がスペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去技術の開発と実証を民間企業と連携して行うプログラムである。CRD2はスペースデブリへの近接ランデブーと撮影を行うフェーズIとデブリの捕獲・大気圏への突入による除去を行うフェーズIIの二段階に分かれている。いずれのフェーズも標的となるスペースデブリはかつてJAXAが打ち上げ今も軌道上に残っているロケットを予定している。フェーズIはアストロスケールホールディングスに委託され、同社の衛星ADRAS-Jによって行われる[1]。ADRAS-Jの打ち上げは2024年2月18日に予定されている。
背景
宇宙空間でのランデブーと捕獲
宇宙空間において2つの人工衛星が似た軌道上で接近することをランデブーという。ランデブーは2つの人工衛星が物理的に接触(あるいは捕獲)することを目的としていることが多く、その中でも2つの人工衛星が離れないよう結合させることをドッキングという。無人の人工衛星同士でランデブー・ドッキングを行ったのは旧ソ連のコスモス186,188号が世界で初めてである。その後日本ではきく7号でチェイサー衛星ひこぼしとターゲット衛星おりひめでこれらに成功している。米国ではNASAの衛星DARTが別の衛星MUBLCOMを標的にランデブー実験を行ったが、両機の衝突により失敗に終わった。国防高等研究計画局 (DARPA) のOrbital Expressミッションでは衛星ASTROがNEXTSatとのランデブー・ドッキングに成功している。2018年に打ち上がったイギリスのRemoveDEBRISは自機から分離したCubeSatのDebrisSat 1を網で捕獲する実験に成功した。2019年に打ち上がったノースロップ・グラマンの衛星MEV-1は世界で初めてドッキングを想定した造りとなっていない運用中の衛星へのドッキングに成功した。MEV-1はドッキング相手の衛星インテルサット901のエンジンノズルを掴むことでドッキングを実現させている[2]。
非協力物体へのランデブー
運用を終え稼働していない人工衛星・ロケットは宇宙ゴミの中ではサイズが大きい部類となるが、その状態を遠方から調べる手段は限られている。これらの非協力物体を近くから観測した例として、アメリカ空軍研究所が2003年に打ち上げた衛星XSS-10はロケットから分離後、搭載されていたロケット上段の近傍で姿勢制御を行いつつその撮影を行った。2006年に打ち上がったDARPAのMiTExミッションでは二か月前に故障により運用できなくなった衛星DSP-23に対し二機の小型衛星が接近し観測を行った。日本では2021年に打ち上がった川崎重工の衛星DRUMS(英語版)が自機から分離した宇宙ゴミを模擬したターゲットの観測を行っている[3]。これらの事例はいずれも稼働停止からの期間が短かった宇宙ゴミに接近したものであり、運用停止後数年単位の時間が経過した宇宙ゴミへのランデブーはCRD2フェーズIが世界で初めて挑むことになる。
CRD2フェーズI
2020年、JAXAはCRD2フェーズIを請け負う企業としてアストロスケールを選定した[1]。アストロスケールは本ミッションのために衛星ADRAS-J(Active Debris Removal by AstroScale-Japan)を開発し、その運用を行う。ADRAS-Jはロケット・ラボのエレクトロンロケットによってニュージーランドのマヒア半島から打ち上げられる。ロケット・ラボがJAXAの衛星の打ち上げを行うのは今回が初めてである。なおこの打ち上げは同社によってOn Closer Inspectionというミッションネームが付けられている。打ち上げは2024年2月18日に予定されている。ADRAS-Jはいぶきの打ち上げに使用されたH-IIAロケット15号機の上段に近接し様々なマヌーバを試験する。アストロスケールはこの技術をRPO (Rendezvous and Proximity Operations)と呼んでいる。
2024年に撮影した画像を公開した[6]。
CRD2フェーズII
CRD2フェーズIIは2026年度以降の実施が構想されている[7]。
関連項目
脚注
外部リンク