この項目では、日本の衛星測位システムについて説明しています。同様の軌道をとる衛星システム全般については「準天頂衛星 」をご覧ください。
日本 上空を通る準天頂軌道(非対称8の字軌道)
準天頂軌道の概念図。衛星は地球を一周するが、地表から見て軌道は相対的に8の字を描く
準天頂衛星システム (じゅんてんちょうえいせいシステム、英語 : Quasi-Zenith Satellite System 、QZSS )、愛称:みちびき は、日本 及びアジア太平洋 地域向けの衛星測位システム である[ 1] 。全地球を対象として地球上すべてを周回する全地球航法衛星システム(米国のGPS など)と異なり、地球の自転と同周期の人工衛星を利用することで特定地域向けの位置情報サービスを提供する衛星測位システムである。
内閣府 の特別の機関 である宇宙開発戦略推進事務局 が構築したシステムで、2010年 9月11日 に準天頂衛星初号機QZS-1を打ち上げた。2017年 に衛星3機を追加で打ち上げて4機体制でシステムの運用を開始し、2021年 10月26日 に初号機の後継の衛星1機を打ち上げた。2025年度末までに衛星3機を追加して7機体制で運用する予定(当初は2023年度末までと2016年に閣議決定していた[ 2] [ 3] )。2030年代に11機体制にすることを検討している[ 4] 。
概要
衛星測位システムの本義
衛星測位システムは、社会インフラストラクチャー として重要とされ、アメリカ合衆国 のグローバル・ポジショニング・システム (GPS) を始めとして、ロシア連邦 のGLONASS 、欧州連合 のガリレオ 、中華人民共和国 の北斗 と、大国や国家連合により、自前のグローバル・コンステレーションシステムの構築が運用、計画されている。GPSシステムの様にグローバルに共有されているシステムもあるが、自前で全地球航法衛星システムを構築することは、精密誘導兵器 や大陸間弾道ミサイル の運用において、国家安全保障上の観点から重要である。
システムの構築と維持は、多数の人工衛星を打ち上げて10年ほどの寿命の衛星を更新して維持に多額の費用を要する。国家の安全を保つためには政治的な意思決定と軍事費を含む財政を要する。他国の衛星測位システムに依存する、もしくは地域航法衛星コンステレーション の構築(日本のQZSS、インド のNavIC など)までにとどめて、必要とする衛星数を抑制する選択肢もある。
特定の1つのシステムだけに依存して、永続的かつ安定したサービス受益を期待することには不安定性が伴う。アメリカのGPSは、本来は軍事衛星 専用であったものを段階的に提供精度の向上も含めて公的・民生的用途に拡大した経緯があり、アメリカ政府 の意図次第でサービスレベルが変更される可能性が残る。
日本の準天頂衛星システムは、費用対効果およびキラーアプリケーションを見いだすよう、継続して検討されている。
準天頂衛星システムの意義
衛星測位において、利用者の受信機の位置を測定するためには、4機以上の人工衛星 から信号を受信することが必要であり、高精度な測位には、8機以上からの受信が望ましい。
しかし、日本では山間部や、高層建築物 が立ち並ぶ都市部が多く、平地が少ないため、低仰角の人工衛星 から信号を受信することが出来ない。現代では、米国・EU・ロシア・中国・インド・日本の6システム合計百数十機が利用されているが、昔は米国のGPSだけが使われていた。昔のような米国のGPS衛星のみでは見通しが遮られ、利用者位置から見た可視衛星数が少なくなり、測位精度が落ちたり、不可能となる場合がある。仮に、現在30機程度を運用中のGPSに対して、GPS衛星もしくはGPS互換衛星を10機程度追加すれば、可視衛星が増えることが期待され、測位が可能となる場合が増えるが、現在数以上の人工衛星を既存のGPSに追加することは、アメリカ合衆国連邦政府 自身にとって費用対効果 が悪く、実現の見込みは薄い。地球全周をその対象とするGPSに対して、日本列島 からは利用できない位置の衛星が多いため、効率的ではない。
日本の準天頂衛星システムは、GPS衛星とは異なる軌道を持たせて常時可視衛星を増加し、高精度の測位を可能とするために、準天頂衛星を3機以上用意して、日本の真上を通る軌道から測位信号を送信することで、地上から高仰角で観測できる準天頂衛星を、常時1機以上は見通せることができるようにする。上記の図のような上下非対称の8の字(numeral-"8"-shaped)軌道をとる場合、東京都区部 では常に70度以上の高い仰角で、1機以上の準天頂衛星を見通すことができる。
そして、準天頂衛星からの信号とGPS衛星からの信号と組み合わせることで、測位できる場所や時間帯を、複数のGNSS の統合運用と同等程度に広げることができる。また、日本の利用者はGPS信号を捕捉するまで、30秒から1分ほどかかっていたのが15秒程度に短縮できる見込みでもある[ 5] 。
準天頂衛星システムでは、専用の測位信号を受信・処理できるように改修・開発した受信機が必要である[ 6] 。また準天頂衛星は高高度軌道にあるので、GPS信号より強い電波を送信する必要がある。
このため人工衛星が大型になっており、運搬ロケットも重量物を持ち上げる大出力の推進装置が必要になる。さらに各準天頂衛星は、衛星軌道面が全く異なるため、GPS衛星(ナブスター衛星)のように、複数機を1機のロケットで同時に打ち上げることも難しい。これらの結果、準天頂衛星システムの構築にはより高度な技術と多額の費用がかかる。
一方、高高度軌道のため低軌道衛星のように地球大気分子の影響を受けないため、同量の燃料なら運用期間を長くできる利点がある。
準天頂衛星システムの代替案
現代では、米国のGPS 、欧州のガリレオ 、ロシアのGLONASS 、中国の北斗 、インドのNavIC 、日本のみちびきの6システム合計百数十機を航法衛星コンステレーション統合運用 として利用しており、日本でも衛星数十機が捕捉できている。これにより、測位が不可能となる状況は大きく減少し、加えて高仰角という準天頂衛星のメリットも減殺されている。ただし、cm級測位に必要な補正情報を民間に無償で配信(日本国内限定)しているのは現状QZSSだけである。
しかしながら、前述の通りグローバル・コンステレーションは様々な大国や国家連合の軍事的・政治的意図や各システム自体の永続的安定性も絡むため、外国の系統に依存するのは、軍事面において衛星航法システムとしての永続的安定性を損なうと言う意見もある。戦争が始まると、敵国のシステムが利用できなくなる。
またGPS補正に関しては、現在でも地上局からの補正を併用するDGPSや、静止衛星からGPSの補完・補強を行うWAAS やMSAS 、EGNOS というプロジェクトも実用化されており、特にMSASは日本が打ち上げたひまわり6・7号 により行われるGPS補強システムであるが、例としてMSASは航空機向けのディファレンシャルGPS機能を提供し精度は数メートル程度に留まる。またMSASに使用される衛星のうち2016年末にMTSAT-1Rが運用を終了[ 7] 、残る1機のMTSAT-2 だけで運用しておりMSAS自体サービス縮小の方向でもあり、2020年頃から代替としてQZSSの静止軌道衛星からGPS補強システムとして配信する予定である[ 8] 。
人工衛星 から直接電波が届かず測位できない地下街や屋内での測位を可能とするために、GPSの信号を中継する機器をビルの屋上に設置することで、ビルの谷間でも測位を可能とするスードライト(疑似衛星)が現在研究されている。準天頂衛星システム自身においても、地上補完システムとしてIndoor MEssaging System (IMES ) が考案され、衛星の電波が届かない屋内や地下街は、IMES送信機によって補完するようにIS-QZSSの仕様書で提案されている。
衛星
準天頂衛星システムは、第1段階では1機の衛星で技術実証と利用実証を行い、検証を経た後に準天頂軌道上の衛星3機体制の第2段階であるシステム実証に移行することとされ、静止軌道の1機と合わせ4機体制で実用化された。さらに準天頂軌道、静止軌道、準静止軌道に1機ずつ衛星を追加し7機体制で運用する方針[ 9] 。
初号機 みちびき
2010年(平成22年)9月11日に準天頂衛星初号機みちびき (QZS-1) がH-IIAロケット 18号機で打ち上げられた[ 11] 。当初は2009年度中の打ち上げを目指していたが、外国からの調達品である原子時計 の入手前倒しが不可能となり、2010年8月2日に延期された。その後、みちびきのリアクションホイール(姿勢制御装置)に不具合が見つかったため、さらに延期されていた。衛星開発費は約400億円。
2010年1月20日、JAXAが実施した愛称募集キャンペーンの結果、愛称は「みちびき」となった[ 12] 。
みちびきの結果によって、追加の衛星打ち上げについての判断が行われる。そのため、みちびきの設計寿命は10年(推進薬やバッテリは12年)と長くなっている。その後は、アメリカ空軍 により運用されているGPSや、欧州で開発途上のGalileo と合わせて使用される。
衛星の最終的な質量が決まっていない頃は、衛星が重くなった場合に備えてH-IIA 204を使用する、H-IIA 202でQTO(準天頂遷移軌道)から準天頂軌道に移行する、H-IIA 204でほかの静止衛星と相乗りさせGTO(静止遷移軌道)から準天頂軌道に移行する、などの方法も検討されていた[ 13] 。その後、実績のあるGTOから準天頂軌道に移行することとし[ 14] 、遷移軌道投入を最適な時刻に変えることで、H-IIA 204で打ち上げる予定をH-IIA 202で打ち上げることになり、10億円の費用削減に成功している[ 15] 。
2017年 2月28日にJAXAによる運用を終了し内閣府 に移管され、準天頂衛星システムサービス株式会社 (QSS) が試験運用を開始した[ 16] [ 17] 。
2020年に設計寿命の10年に達し、2022年に目標の12年を超えることから、後継機が2021年10月26日にH-IIAロケット44号機で打ち上げられた[ 18] 。
初号機後継機の正式運用開始に伴い、2022年3月25日に信号の送信を停止、待機運用に移行し[ 19] 、軌道離脱完了を経て2023年9月15日に運用を終了した[ 20] 。
みちびき2号機
2017年6月1日、2号機がH-IIAロケット 34号機 (202) で打ち上げられた[ 21] 。4号機と同一の機体で、初号機に比べ太陽電池の小型化による軽量化、推進薬量の増量による設計寿命を15年に延長などの変更が行われた[ 22] 。軌道は準天頂軌道で、初号機とは昇交点赤経のみが異なるため、地上から見ると初号機を追いかける様に見える。当初より内閣府の衛星で2017年9月15日から試験サービスの運用が開始された[ 23] 。
みちびき3号機
みちびき3号機は、2017年8月11日に種子島宇宙センターから打ち上げる予定であった[ 24] が、天候不良により8月12日に延期し、ロケットのヘリウム気蓄器からガスが漏洩する不具合により再度延期[ 25] し、8月19日14時29分00秒にH-IIAロケット35号機 (204) により打ち上げた。3号機は1・2・4号機と異なり、静止軌道 へ投入して静止衛星 で運用するほか、災害時に使用する衛星安否確認サービス用のSバンド アンテナが付加され、2・4号機より700kg重くなっている[ 26] 。増幅部のスイッチの異常により、L1信号は予定より低い送信出力で運用される[ 27] 。
みちびき4号機
みちびき4号機は、種子島宇宙センターからH-IIAロケット36号機 (202) で2017年10月10日に打ち上げられた[ 28] [ 29] 。2号機と同一の機体で準天頂軌道で運用される。地上からは1・2・4号機が等間隔で互いを追いかける様に見える。
みちびき初号機後継機
みちびき初号機後継機は、種子島宇宙センターH-IIAロケット44号機 (202) で2021年10月26日に打ち上げられた[ 18] [ 30] 。当初は10月25日に打ち上げが予定されていた[ 31] [ 32] が、天候不順が予測されたため延期された[ 33] 。
2022年3月24日より正式に運用を開始された[ 34] 。軌道は、準天頂軌道。
衛星諸元
みちびき各機の諸元[ 9] [ 35] [ 36] [ 20] [ 37]
項目
初号機 QZS-1
2号機 QZS-2
3号機 QZS-3
4号機 QZS-4
初号機後継機 QZS-1R
5号機
6号機
7号機
軌道
準天頂
準天頂
静止
準天頂
準天頂
準天頂
静止
準静止[ * 1]
軌道位置 (4機)
東経 135°
東経135°
東経127°
東経135°
-
-
-
軌道位置 (7機)
-
東経139°
東経127°
東経139°
東経148°
東経139°
東経90.5°
東経190°
測位信号
L1C/A
○
○
○
○
○[ * 2]
-
-
-
L1C/B [ * 3]
-
-
-
-
○[ * 2]
○
○
○
L1C
○
○
○
○
○
○
○
○
L1S
○
○
○
○
○
-
-
-
L1Sb
-
-
○
-
-
-
○
○
L2C
○
○
○
○
○
-
-
-
L5
○
○
○
○
○
○
○
○
L5S
-
○
○
○
○
-
○
○
L6D
○
○
○
○
○
○
○
○
L6E
-
○
○
○
○
○
○
○
Sバンド
-
-
○
-
-
-
-
-
L帯アンテナ
ヘリカル
ヘリカル
パッチ
ヘリカル
パッチ
発生電力
5.3kW
6.3kW
6.3kW
6.3kW
6.3kW
打上時質量
約4t
約4t
約4.7t
約4t
約4t
設計寿命
10年以上
15年以上
打上げ日
2010年9月11日
2017年6月1日
2017年8月19日
2017年10月10日
2021年10月26日
2025年度(予定)
2025年2月1日(予定)[ * 4]
2025年度(予定)
打上げ機
H-IIA 18号機(202)
H-IIA 34号機(202)
H-IIA 35号機(204)
H-IIA 36号機(202)
H-IIA 44号機(202)
H3
H3
H3
運用開始
2010年12月13日
2018年11月1日
2018年11月1日
2018年11月1日
2022年3月24日
運用状況
運用終了 (2023年9月15日)
運用中
運用中
運用中
運用中
^ 静止軌道ではゼロである軌道傾斜角と離心率を僅かにずらした軌道。
^ a b 5号機の運用開始と合わせて、L1C/B信号の配信を開始し、L1C/A信号の配信は停止する予定。
^ L1C/Bは、L1C/AをBOC (Binary Offset Carrier) 変調して送信する信号。
^ “「みちびき6号機」(準天頂衛星)の打上げについて ”. 準天頂衛星システムについて . 宇宙開発戦略推進事務局 (2024年12月11日). 2024年12月12日 閲覧。
運用
軌道
衛星の軌道は、軌道傾斜角45度、離心率0.099、軌道周期23時間56分の軌道に3機を配置することが官民で合意されている。3号機は東経127度の静止軌道から運用する[ 24] 。日本と同緯度の静止軌道上にある人工衛星はおよそ38度の仰角にある。衛星軌道をそのまま45度傾けたこの軌道上の衛星を地上から観測すると、南方の空を上下に往復運動をするが、回転に伴って角速度が変化するために左右にぶれて「下側に膨らんだ縦の8の字」を描くように移動し、下端では地平線以下になる。また見かけの移動速度も変化し、直上では遅く、地平線付近では速く見える。軌道を3つの衛星が等間隔に配置されるので、常に直上付近に衛星を配置することができる。
自転する地球を斜めから見た視点(3号機が静止軌道)
地球の自転に合わせて緯度をずらして赤道上空から見た視点
地球 · QZS-1 · QZS-2 · QZS-3 · QZS-4
範囲
サービス領域は日本を含むアジア ・オセアニア 全域であり、その地域ではGPSやGalileoに加えて準天頂衛星からの電波も受信可能であるため、衛星測位の信頼性が向上することが期待されている。
周波数
準天頂衛星からは、L5, L5S[ 注 1] (周波数1176.45MHz)、L2C(周波数1227.60MHz)、L6(周波数1278.75MHz)、L1C, L1C/A, L1-SAIF(周波数1575.42MHz)の合計7種類の衛星測位信号の送信が計画されている[ 38] [ 39] 。
高精度補正情報伝送
GPS単独測位の受信機が測定する座標に生じる誤差は、系統誤差とランダム誤差の和とみなすことができる。系統誤差はおよそ1mから7mほどの範囲にあるが、この系統誤差要因の値を利用者へ伝送し補正情報として用いることができれば、測位座標の系統誤差を低減できることになる。日本は既に国土地理院 の電子基準点 を活用し、日本全国向けに民間サービスによる1cm級の精度の補正情報の提供が展開されている[ 40] 。
準天頂衛星システム開発においては日本全国向けに1m級の精度の補正情報生成が開発中である。補正情報を利用者へ伝送するには多くの利用者にとって最適な方法を用いて伝送することが望ましいが、準天頂衛星システムではその衛星信号(L1-SAIF信号)に載せて利用者受信機へ伝送する点が利点と考えられている。
cm級測位に必要な補正情報を民間に無償で配信(日本国内限定)しているのは現状QZSSだけである。2018年時点でcm級測位に必要なモジュールやアンテナは車両や大型ドローンへの搭載レベルであり、携帯電話・スマートフォンへの搭載は大きさや消費電力の点から実現していないが、QZSS以外のGNSSでも同様である。cm級測位は農耕車や工事車両、測量などを主眼としており、測定には衛星経由のため10数秒のタイムラグが生じる。高速度で移動する自動車などのカーナビゲーション などは、センチメートル 級測位は他の測位技術と組み合わせた補助的な利用となる[ 41] 。
開発の経緯
1972年 (昭和47年)に電波研究所 (現・情報通信研究機構 )は、中緯度を対象として高仰角をねらった8の字衛星を世界で初めて提案した[ 42] 。1999年度から8の字衛星を用いた準天頂衛星通信システムの研究開発を通信総合研究所 (現・情報通信研究機構 )において推進した。[ 43] 。
1997年 3月、旧・宇宙開発委員会[ 注 2] で取りまとめられた我が国における衛星測位技術開発への取り組み方針について [ 44] の文書にて、衛星測位技術の現状分析と将来の需要、および日本が今後取り組むべき研究課題がまとめられた。
その際、検討されていた5つのシナリオのうち、「GPSを基本とし、衛星の基礎技術を開発し、最低限の衛星数で技術試験を実施」するシナリオが採択された[ 45] 。他のシナリオは、測位技術の開発を行わないものから独自測位技術による移動体サービスの実証を行うものまで様々なものがあった。
2001年 7月に経済団体連合会 は、宇宙利用フロンティアの拡大に向けたグランド・ストラテジー[ 46] において「準天頂衛星システム」の構築を提案した。経団連は1999年 [ 47] と2000年 [ 48] にも測位衛星に係る提言を行っている。
2002年 6月の総合科学技術会議 は、QZSSの開発・整備を「産官の連携のもとに推進する」との方針を定めた。2002年7月に日本経団連に準天頂衛星システム推進検討会[ 49] が新設された。2002年11月1日には、三菱電機 、日立製作所 、伊藤忠商事 、NEC東芝スペースシステム 、三菱商事 、トヨタ自動車 等の59社の出資によりQZSSを利用して通信と放送に測位を複合させたサービスを提供する新衛星ビジネス株式会社 (ASBC) が設立された[ 50] 。
2002年 10月9日に現・宇宙開発委員会の今後の衛星測位に係る技術開発のあり方について [ 51] の文書で、測位システムの開発意義が再確認され、測位情報のニーズとGPS近代化に対応するため、日本の測位技術を向上させる方針が明確化された。
2002年 10月16日に東京で第2回日米衛星測位システム(GPS)全体会合 [ 52] が行われ、日本が計画している準天頂衛星システム (QZSS) に関してアメリカ側への説明が行われた。QZSSは日本付近におけるGPSの補完および補強機能を備えるものとされ、技術的な事項を検討するためのワーキンググループの設置が決定された。
2002年 12月25日に国の総合科学技術会議で、QZSSの研究開発の推進は妥当と評価された[ 53] 。資料では、QZSSの予算総額は782億円とされ、民間による事業化の判断は2004年度に、打ち上げは2008年度を目途に行われるものとされた。QZSSによる経済効果は12年間で約6.1兆円という報告もあるが、詳細評価は困難であるとされた。
その後の総合科学技術会議等の政府系会議においても、QZSSの推進方針が確認されつづけた。
しかし2006年 2月に行われた民間の事業化判断で、民間独自で通信・放送事業の実施は困難であると判断された[ 54] 。この時点ですでに測位情報の一定のニーズは満たされており、Sバンド を用いるほどの測位補強情報のニーズが官民ともに見込めないため、事業化は困難であるとされた。
2006年 3月に方針が大きく変更され[ 55] 、準天頂衛星の最初の一機はJAXAが主体的に打ち上げ、その技術検証・利用検証を踏まえて残りの2機を加えた利用実証を官民共同で行うこととなった。そのための官民共同の運用会社は2006年度中に設立することとされた。衛星からはSバンドの通信機能が削除され、Lバンドのみを利用することとなった。準天頂衛星の初号機は2009年度に打ち上げることとされた。
2006年 8月 - 11月に宇宙開発委員会で、変更後の開発目的・方針等が改めて審査されて了承された[ 56] [ 57] 。
2007年 4月3日にJAXAは、GPS衛星や準天頂衛星の信号が届かない屋内でも測位できる屋内GPS技術としてIMES方式を考案し、NTTドコモ、日立製作所、測位衛星技術、新衛星ビジネス (ASBC) らと共同で地下駐車場における実証実験に成功したと発表した[ 58] 。
2007年 8月2日に民間会社の新衛星ビジネス (ASBC) は解散し、財団法人衛星測位利用推進センターが後継した。2010年9月11日に技術実証のための準天頂衛星初号機みちびき (QZS-1) が打ち上げられた。
2013年 3月29日に政府 は、準天頂衛星2機、静止軌道衛星1機などの開発、製造を三菱電機に発注した。2017年から打ち上げ2019年から「みちびき」と併せ4機体制で運用し、24時間利用可能とする[ 59] 。
2017年 6月、8月、10月にみちびき2号機、3号機、4号機をそれぞれ打ち上げ、2018年4月からのサービス開始にむけた試験運用を順次開始した。
準天頂衛星システム「みちびき」サービス開始のセレモニー(2018年11月1日)
2018年 3月2日に、11月からサービスを開始すると発表[ 60] したが事実上の延期[ 61] [ 62] [ 63] で、NEC による地上系システムの開発の遅れが原因と見られる[ 64] 。
2018年 6月5日に、6月2日に3号機でL5S信号の送信信号増幅部のスイッチに異常動作が確認されたため、同様のスイッチを使う2 - 4号機の試験信号の送信を一時停止したと発表した[ 65] 。9月8日、信号の送信が再開されることを発表。衛星上で放電現象が生じL5SとL1信号のスイッチが動作しなくなっており、3号機のL1信号は当初予定より低い出力で送信される[ 27] 。
2018年 11月1日にサービスを開始した。
脚注
注釈
^ 2号機以降。
^ 旧・宇宙開発委員会とは、日本の宇宙関連の政策を内閣総理大臣に諮問するために旧総理府 (現在は内閣府 に統合)に設置されていた、旧科学技術庁 長官を長とする委員会である。2001年1月まで存続していた。
出典
外部リンク