タイ国際航空(タイこくさいこうくう、タイ語: บริษัท การบินไทย จำกัด、英語: Thai Airways International)は、タイの航空会社であり、同国最大の航空会社(フラッグ・キャリア)である。
後述のように、かつて存在した親会社のタイ航空 (Thai Airways Company) とは別法人であるが、日本語ではタイ国際航空を指して「タイ航空」と称する表現が定着している例もある(「タイ航空機爆発事件」など)。
概要
タイ王国を代表する大企業の一つで、スワンナプーム国際空港をハブ空港とするタイ王国の「フラッグ・キャリア」である。またアジアのみならず世界でも有数の規模を持つ航空会社でもある。
コンデナスト・トラベラーなどの旅行専門誌や、各国のビジネス誌などによるサービスランキングでは上位の常連であり、スカイトラックス社の「ベスト・キャビン・スタッフ&ベスト・エアライン」賞を2006年に受賞している。また、機材の新しさと整備技術の高さから航空会社の安全度ランキングでは「A」をマークする。
南アメリカを除く全大陸に就航しているほか、タイ王国の国内線にそのネットワークを広げている。なお、世界最大の規模を持つ航空連合のスターアライアンスに、ルフトハンザ航空やスカンジナビア航空(SAS)、エア・カナダ、ユナイテッド航空らとともに発足当初からのスターティング・メンバーとして加盟しており、同アライアンスの代表的メンバーである。
航空券の座席予約システム(CRS)は、アマデウスITグループが運営するアマデウスを利用している[2]。
長年の放漫経営や不透明な経営体質がたたり、2014年には負債総額が約2660億バーツに達して経営危機に陥った。当時、陸軍のクーデターによる半ば軍政下状態であったこともあり、公的資金の注入と引き換えに保有機体や不動産の売却、従業員の削減を伴う強権的な経営再建計画が進められ、2016年には最終利益で黒字に転換させることができた。しかし、政権や経営陣が交代すると再び放漫経営体質と不正が復活、強固な労働組合の対決姿勢も加わり、新たな改革や再建計画の導入は進まないまま、2020年5月19日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う運航停止の影響で経営破綻に追い込まれた[3]。
2020年の経営破綻前は、タイ財務省が出資比率は51.03%、タイ財務省が設立した基金「Vayupakファンド」が7.6%、タイ政府貯蓄銀行が2.1%と続く、タイ政府が経営に強い影響力を行使できる事実上の国営企業であった。その後破産法に基づく会社更生手続きを円滑に進めるために、タイ財務省が持つ株式のうち3.17%を「Vayupakファンド」に売却し、タイ政府の経営関与を少なくし、早期の経営再建を行うことになった。
歴史
設立は1959年(タイ仏暦2502年)で、国内航空会社「タイ航空 (Thai Airways Company)」(70%) と「スカンジナビア航空(Scandinavian Airlines System)」(30%) の合弁事業として設立された。
1960年に国際線の運航を開始し、1971年にオーストラリアに、1972年にヨーロッパに、1980年には北アメリカへの運航を開始するなどそのネットワークを拡充した。1977年にタイ政府が全株式を取得したものの、その後もスカンジナビア航空と密接な関係を保っている。
1988年に国内航空会社「タイ航空 (Thai Airways Company)」と合併。その後株式を一部公開し半官半民事業会社となる(株主のほとんどは王室か政府である)。
沿革
- 1959年 : 設立。
- 1960年 : 運航開始。東京/羽田へ初就航。
- 1971年 : オーストラリアへ就航。
- 1972年 : ヨーロッパ(コペンハーゲン)へ就航。
- 1980年 : 北米路線開設。就航当時の路線はバンコク - 成田 - シアトル - ロサンゼルス。最終目的地をロサンゼルスからダラスへ変更。ダラスへ就航していた当時は、タイ国際航空しか就航しておらず好調だった。ところが、1987年にアメリカン航空がボーイング747-SPでダラスからノンストップかつ毎日運航で成田へ乗入れを開始すると、客足が利便性が高いアメリカン航空へ流れるようになり、目的地をトロントに変更したが、バンコク - 成田 - シアトルはボーイング747-200、シアトル - トロントはエアバスA310と区間によって使用機材が異なり、シアトルで乗り換えしなければならないという不便が強いられることや、カナディアン航空がDC-10-30ERでトロントから成田へ直行便を飛ばしており、ここでも客足が伸びず、ソウル/金浦経由ロサンゼルス線と台北・シアトル経由ダラス線に変更するも、1993年に北米線の運航を一旦休止。
- 1997年 : エア・カナダ、スカンジナビア航空、ルフトハンザドイツ航空、ユナイテッド航空と共に航空連合「スターアライアンス」を立ち上げ。
- 2005年5月1日 : ニューヨーク/JFKへの直行便を開設。所要時間は約17時間。使用機材はエアバスA340-500。
- 2005年11月1日 : モスクワへ就航。当時の使用機材はMD-11で、現在はボーイング777-200ER。
- 2005年11月7日 : バンコク - 大阪/関西 - ロサンゼルス線を直行便に切り替え。使用機材はA340-500。なお、A340-500が検査等でA340-600が投入される時はロサンゼルス発のみ、関西やソウル/仁川に寄航し給油(テクニカルランディング)。
- 2006年9月28日 : バンコク・スワンナプーム国際空港が開港、移転。
- 2006年10月29日 : ヨハネスブルクへ就航。使用機材はA340-600。
- 2006年10月30日 : ハイデラバードへ就航。使用機材はエアバスA300-600R。また、バンコク発成田行きのTG640便を昼行便から夜行便にシフト。使用機材は現行と同じボーイング777-300。
- 2007年1月1日 : バンコク発関西行きのTG672便を昼行便から夜行便にシフト。使用機材は現行と同じボーイング777-200。
- 2007年3月25日 : 国内線の多くをドンムアン空港に再移転。チェンマイ、チェンライ、プーケット、クラビ線の一部はスワンナプーム国際空港を継続利用。
- 2007年4月27日 : バンコク - ロサンゼルス線が、5月1日からバンコク - ニューヨーク線がそれぞれ週5便から毎日運航に増便。使用機材は現行と同じA340-500。
- 2008年7月1日 : 燃料費高騰によるコスト高でバンコク - ニューヨーク線を廃止。同様の理由でバンコク - ロサンゼルス線は週5便に減便。
- 2008年7月17日 : 東京/成田 - プーケット線 運航再開(週2便・使用機材はボーイング777-200)。
- 2008年10月28日 : バンコク - ロサンゼルス線のノンストップ便からバンコク - 関西 - ロサンゼルスの1ストップフライトに変更する予定だったが、白紙撤回となった。
- 2009年6月15日 : バンコク - オスロ線を開設。使用機材はエアバスA340-500。
- 2010年3月27日 : バンコク - マニラ - 関西線のマニラ - 関西 間、バンコク - 香港 - 台北線の香港 - 台北 間をそれぞれ廃止。
- 2011年11月17日 : バンコク - ブリュッセル線を15年振りに運航再開。
- 2012年5月1日 : バンコク - ロサンゼルス線を直行便からソウル経由に変更。
- 2012年7月7日 : 新ブランド「タイ・スマイル」が就航。
- 2012年10月28日 : バンコク - 香港線、バンコク - シンガポール線にエアバスA380を投入。10月30日から、バンコク - 札幌線を週3便で就航。使用機材はエアバスA330-300型機。
- 2013年1月1日 : バンコク - 成田線にエアバスA380を投入。
- 2013年10月27日 : バンコク - 成田線をエアバスA380での運航を1日2便化[4]。
- 2013年12月2日 : バンコク - 関西線(TG622/623)にエアバスA380を投入[5]。
- 2013年12月3日 : バンコク - 仙台線を週3便(季節便)就航。
- 2014年10月17日: 名古屋中部国際空港路線を毎日運航へ増便、その後も順調に増便し、2015年時点で使用機材B787型機で名古屋-バンコク間を週12往復している。
- 2015年3月: 国際民間航空機関(ICAO)はタイ航空当局が「重大な安全上の懸念(SSC)」があると判断。国土交通省航空局(JCAB)は、同措置を受けて、タイ王国籍の航空会社が日本への新規就航及び増便を制限する措置を決定し実施した[6]。
- 2015年7月1日 : バンコク - ロンドン線にエアバスA380を投入[7]。その為、バンコク - 関西線(TG622/623)で運航していたA380をB747-400に戻した。
- 2015年10月24日: バンコク - ソウル - ロサンゼルス線を運休。
- 2015年12月: 国際民間航空機関(ICAO)による重大な安全上の懸念(SSC)を受け、アメリカ連邦航空局(FAA)は国際航空安全評価(IASA)を実施。国家や地域ごとに、ICAOの安全基準を満たす「カテゴリー1」と、満たさない「カテゴリー2」に区分し、「カテゴリー2」へ区分され、アメリカ合衆国への新路線就航出来なくなり[8]、欧州委員会と欧州航空安全機関(EASA)は、安全強化のため、タイ当局と協力を継続する用意があるとしており、安全性リスクが高まった場合は、タイの航空会社を欧州連合域内乗り入れ禁止航空会社リストへ追加する可能性があり、動向を注視するとしている[9]。
- 2016年5月16日 : バンコク - 関西線(TG622/623)にエアバスA380を再投入[10]。
- 2016年10月1日: バンコク - テヘラン線を就航開始[11]。
- 2017年10月28日: 日本航空(JAL)とのコードシェア便(バンコク - 関西線・バンコク - 福岡線)を終了[12]
- 2017年11月16日: バンコク - ウイーン線を就航開始[13]。
- 2019年10月29日: バンコク - 仙台線を週3便で運航再開予定[14]。
- 2020年、格安航空会社との競争激化により2017年から3年連続で赤字を出すなど、経営が悪化していた[15]上に、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で運航が激減したために経営危機に陥り、タイ政府に対し救済案を要求したが、5月19日、救済案を断念し、経営破綻した[16]。
- 2021年8月:日本国内では従業員42人を減らす計画を示して希望退職を募集し、同年10月までに41人が退職した[17]。
- 2022年12月24日:経営再建中のタイ国際航空が24日発表した2022年12月期連結決算は、一過性の要因を除く営業損益が77億バーツ(約300億円)の黒字だった。21年12月期の197億バーツの赤字から転換した。新型コロナウイルス対策の渡航制限の緩和で、旅客収入が大幅に回復した[18]。
- 2023年2月1日:チャイ・エアムシリ氏が新CEOに就任。営再建が2024年に完了するとの見通しを示した。
運航機材
運用機材
タイ国際航空が発注したボーイング社製航空機の顧客番号(カスタマーコード)はD7で、航空機の形式名は747-4D7, 777-2D7ER, 777-3D7ER などとなる。
ギャラリー
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エアバスA330-300
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エアバスA350-900
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ボーイング777-200ER
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ボーイング777-300ER
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ボーイング787-8
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ボーイング787-9
退役機材
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ATR 42-320
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ATR 72-201
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エアバスA300
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エアバスA300-600R
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エアバスA310-200
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エアバスA340-500
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エアバスA340-600
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エアバスA380-800
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BAe 146
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ボーイング737-200adv
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ボーイング737-400
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ボーイング747-200B
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ボーイング747-300
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ボーイング747-400
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ボーイング777-200
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ボーイング777-300
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ダグラス DC-8-32
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マクドネル・ダグラス DC-9-41
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マクドネル・ダグラス DC-10-30
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マクドネル・ダグラス MD-11
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シュド・カラベル
就航都市
2015年3月現在ではタイ各地やアセアン諸国を中心に、一部の国を除くアジア全域、ヨーロッパ、中東、オセアニアと北アメリカに就航。タイ国内路線の競争激化を受けて、一部の路線を子会社の格安航空会社であるノックエアに委譲した。
サービス
機内サービス
専門誌やビジネス誌などによるサービスランキングでは、上位の常連である。客室乗務員は、女性乗務員はビジネスクラス以上ではタイの民族衣装に身を包み、男性乗務員は、黒や灰色を基調としたスーツに身を包み、ワイ(タイの伝統的な合掌する挨拶)で乗客を迎える。
エコノミークラスでは、紫を基調とした洋服を着用する。
機内食は、鶏肉や豚肉をメインとしたタイ料理が主流であるが、便に合わせて各国の料理が提供される。ビジネスクラスでも実施しているが、エコノミークラスでは珍しく「事前の和食チョイスサービス」が実施されている。
ボーイング777-200ER/300/300ER、及びボーイング787、エアバスA350、エアバスA330、全機種オンデマンド式のシートテレビが装備されている。エコノミー席にもパソコン電源が装備されている。
クラスは、ロイヤルファーストクラス、ロイヤルシルククラス(ビジネスクラス)、プレミアムエコノミークラス(ボーイング777-300ERで運航されるコペンハーゲン線、ストックホルム線のみ)、エコノミークラスに分かれている。コペンハーゲンとストックホルムの各線ではボーイング777-300ER型機を使用しているが、通常2クラス運用のところビジネスクラス後方をプレミアムエコノミーとして追加して3クラス運用として提供されており、ビジネスクラスのシートTVはプレミアムエコノミー運用時でも使用可能。
タイの仏教僧には、どのクラスよりも早い最優先搭乗や、戒律を守るため僧侶に配慮した座席や機内食、到着後のファーストクラスよりも早い最優先降機など、一般客にはない数々のサービスが存在する。
ラウンジ
主要空港を中心にロイヤル・オーキッド・ラウンジを設置。ハブ空港のスワンナプーム国際空港内のファーストクラスラウンジ「ロイヤル・オーキッドスパ・ラウンジ」は無料で本格的なスパ・トリートメントが味わえるほか、マンダリン・フットマッサージも受けられるなど最上のサービスを提供。2016年スカイトラックス社のファーストクラス・ラウンジ部門で8位を受賞した[28]。
運賃
正規割引運賃(PEX)として、「TG前売り」がある。バンコクをはじめとするタイ各都市、東南アジアの一部都市、デリー、ドバイ、ヨーロッパ、オセアニアへの設定がある。
共同運航パートナー
スターアライアンス加盟航空会社との共同運航も多いが、スターアライアンスに加盟していない航空会社との共同運航も多い。
スターアライアンス加盟航空会社
スターアライアンス非加盟航空会社
グループ企業
事件・事故
労働問題
コロナ禍の影響で経営破綻した2020年5月以降、タイ国際航空は、日本国内で従業員42人を削減する計画を示し、2021年8月から希望退職を募り、同年10月までに41人が退職に応じた。しかし、1991年に同航空に採用され大阪支店の営業部門に勤務していた50歳代の男性は、希望退職に応じなかったため、2021年11月に持病を理由に退職するよう求められ、断ったところ、2022年1月に勤務成績の悪さなどを理由として解雇された。この男性は同年3月に「解雇は経営上の都合であり、解雇権の濫用に当たる」として大阪地方裁判所に労働審判を申し立て、同地裁が7月に解雇無効を認めたが、タイ航空側はこれに異議を申し立て、民事訴訟に移行。2023年7月31日に同地裁は、解雇を無効とした上で、男性が退職し同社が男性に解決金を支払うことで和解が成立した[17]。
脚注
注釈
出典
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
タイ国際航空に関連する
メディアおよび
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外部リンク
- 日本