アジア
アジア(英語 Asia, ラテン語 Asia 〔アシア〕, ギリシャ語 Ἀσίᾱ Asíā 〔アシアー〕) は、世界の大州の一つ。現在では一般的にヨーロッパを除くユーラシア大陸全般を指すが、政治的・経済的な立場の違いにより、さまざまな定義がなされる場合がある。漢字表記は亜細亜で、亜州(亜洲、あしゅう)とも呼ぶ。省略する場合は亜の一字を用いる。 古代メソポタミアのアッカド語[注釈 1] aṣû 〔アスー(アツー)〕[注釈 2] “(太陽が) 出る(ところ) ” が語源で、本来は “東、東方” を意味する言葉である。現在の一般的な定義は、ヨーロッパの人たちから見た東・西の区分[注釈 3]を反映したものになっている[2]。 概要現在ではユーラシア大陸のヨーロッパ以外の地域、つまり、アジア大陸(島嶼・海域を含む)であり、六大州の一つ。ユーラシア大陸の面積の約80%をアジアが占め、人口は世界最多であり世界人口の60%強がアジアに住んでいるといわれている。世界の都市のうち都市圏人口上位8位まではアジアに属する都市が占めている(世界の都市圏人口の順位を参照)。 アジアとヨーロッパの境界は、地理上の境界とヨーロッパ中心主義的な観点から見た人為的な境界が入り交じっている。地理上の境界は、ウラル山脈–ウラル川–カスピ海–コーカサス山脈–黒海–ボスポラス海峡–マルマラ海–ダーダネルス海峡とすることが多い。なお、アフリカとはスエズ地峡を、オセアニアとはニューギニア島西方の海峡を挟んでいるため、この両地域とは地理的境界と人為的境界が一致している。 アジアは六大州で最も大きな州であり、地理的にも多様で変化に富む。アジアの大半はユーラシア大陸に属するが、大陸内でも気候や地形に様々な差がある。また、特に大陸東側には環太平洋造山帯の活動によってできた無数の島々が点在しており、日本やフィリピン、インドネシアといった島国に多数の人口を抱える国家が存在する。アジアの東部から南部にかけては降雨が多く肥沃な土壌に恵まれることから人口が古代より非常に多く、現代においても世界最大の人口密集地域となっている。 アジア州の中でもさらに細かく、北アジア・中央アジア・東アジア・東南アジア・南アジア・西アジアの六つに分けられることもある。 語源古代メソポタミアのアッカド語で、東 / 西を「アスー」aṣû “(太陽が) 出る(ところ) ” / 「エレーブ」erēbu “(太陽が) 入る(ところ) ” で表した[注釈 4] ことに由来する。この「アスー」にギリシャ語の接尾辞「イアー」-ίᾱ -íā が付いてギリシャ語の「アシアー」Ἀσίᾱ Asíā が生まれた[3][注釈 5] 。それがラテン語に取り入れられ、そこからヨーロッパの諸語に広がっていった。 「エレーブ」の方からは、ギリシャ語の「エウローペー」 Εὐρώπη Eurṓpē が生まれた[4][注釈 6]。これがラテン語で「エウローパ」 Eurōpa となり、ヨーロッパの諸語に入っていった。「アジア」と「ヨーロッパ」は、「オリエント / オクシデント」と同じく、本来は “東方 / 西方” という対概念であった。 亜細亜の表記は、明で1602年に刊行された坤輿万国全図に現れる。官話では亜細亜を「ヤシヤ」のように発音するが、西洋人との接触が多かった華南地方の方言では亜を日本語と同様にアのように発音していたことに影響された転写とされる。 定義「アジア」という言葉は、元々は古代ギリシア、あるいはギリシャから文化的影響を受けた古代ローマから見て、東方を指す言葉であった。ギリシア人やローマ人の地理的な知見は地中海沿岸地域に限られており、地中海の北岸地域がヨーロッパ、南岸地域がアフリカ、地中海の一部であるエーゲ海で隔てられた地中海東岸地域がアジアとされたのである。 その後、ヨーロッパ人の地理的な知見が広まるにつれて、ヨーロッパ、アジア、アフリカとされた地域の範囲が、拡大していった。アフリカについては、スエズ地峡という明確な地理的な境界が存在したため、スエズ地峡以南がアフリカ大陸という明確な地理的定義が確立した。その一方で、かつてエーゲ海が境界とされたアジアとヨーロッパについては、現在でいう東欧の地域が知られた事により、明確な境界線が存在しなくなった。そのため地理的には、ユーラシア大陸として、アジアとヨーロッパは一体として扱われた。 それでもアジアとヨーロッパを別地域として扱う習慣は残ったが、地政学的・人種的に厳密に分けられた呼称としては確立しておらず、使う立場によってその範囲はしばしば異なっている。例えば、国際機関においても、IOC と FIFA ではアジアの範囲が異なっているように、厳密な定義として確立していない。 主な地理学的再定義
一般的な定義ヨーロッパ諸国ではトルコ以東(中東)を指すことが多い。ただしロシアのアジア地域(シベリア)はしばしば除外される。 アラブ諸国では、「アラブ」が自称であり、アジアといえば東南アジアおよび東アジアを指すことが多い(トルコ人・アラブ人・インド人(アーリア系)は、人種的にはコーカソイド《白人》を含んでいる)。 日本の外務省の公式サイトは下記南アジアの大部分、下記東アジア、下記東南アジアをアジアとしている。日本では、しばしば中近東ならびに中央アジアや南アジアを含めず、極端な場合には東南アジアも除いた東アジアのみを指すことがある。 アジアの定義は、その言葉の成り立ちも原因となり、世界的に確立されているとはいえないが、そのなかで従来は人種的・民族的な観点を重視する立場から、アジアを近東・中東・南アジア・東南アジア・東アジアのように、より細分化する立場が強調されてきた。しかし、最近では経済的メリットおよび政治的安定性を重視する観点からアジアをより広く定義し(経済的には自由貿易の範囲が拡大し且つ人口が多い方がメリットがあり、政治的には「同じアジア人」というような連帯意識・仲間意識が有る方がその地域の政治が安定する)、中近東・インド亜大陸の諸国は当然のこととして、オセアニア諸国・ポリネシア諸国も含めアジアと定義する場合までもが出てきた。 このようにアジアの定義が多岐に分かれているのは、アジアという言葉が同一の文化・文明あるいは人種・民族を基盤として定義された概念ではなく、そもそもの由来がヨーロッパ以外の東方地域全部という意味であったため、結果的に異なる文明が分立する地域を一つの言葉で定義してしまった事に由来すると考えられる。サミュエル・P・ハンティントンの著書『文明の衝突』によれば、アジアには日本文明・中華文明・ヒンドゥー文明・イスラム文明が存在するとされている。 構成国・地域とその区分一般的にアジアの域内は、右図のように分けられている。最近では経済交流・国際関係・研究機関名などで、東アジアと北アジアを併せた領域に相当する北東アジアという語が使われることが増えてきている。また、これ以外にも北西アジア、西南アジアなどの語も使われる。 →詳細は「アジアの主権国家及び属領の一覧」を参照
以下は国際連合による区分である[5]。これ以外にも様々な区分方法は存在するが、便宜上これを用いる。ただし、非加盟国については周辺の国と同じ区分としている。 東アジア→詳細は「東アジア」を参照
地理範囲は日本列島、モンゴル高原、中国大陸、台湾、朝鮮半島などである。 地理的区分では以下の国も国土の一部が東アジアに属する。 東南アジア→詳細は「東南アジア」を参照
地理範囲はインドシナ半島、マレー半島、フィリピン諸島などである。ここから東ティモールを除いた10か国で東南アジア諸国連合(ASEAN)を構成している。
北アジア→詳細は「北アジア」を参照
地理範囲はロシアのアジア地域である。国際連合による区分でヨーロッパと北アジアに属する。 地理的区分ではさらに以下の国と地域も北アジアに属する。 南アジア→詳細は「南アジア」を参照
地理範囲はインド大陸、セイロン島、モルディブ諸島、アンダマン諸島、ニコバル諸島などである。イランを除く8か国で南アジア地域協力連合を構成している。
地理的区分ではさらに以下の地域も南アジアに属する。 南アジアに含まれる場合がある地域
中央アジア(トルキスタン)→詳細は「中央アジア」を参照
地理範囲はトルキスタンである。 地理的区分ではさらに以下の地域も中央アジアに属する。 西アジア(中東・近東)→詳細は「西アジア」を参照
地理範囲はアラビア半島、アナトリア(小アジア)、キプロス島の範囲及びイラン高原-ヒンドゥークシュ山脈にかけてのアジア大陸。ただし、場合によってはコーカサス山脈以南の旧ソ連邦の国々(カフカス諸国)を含めるなどの定義もある。
地理的区分では、さらに以下の国と地域も西アジアに属する。
各国の国勢
政治→詳細は「アジアの政治」を参照
アジアでは、ヨーロッパのヨーロッパ連合やアフリカのアフリカ連合のような、アジア大陸のほとんどの国によって構成されたアジア統合を目指す政府間組織は今現在アジア協力対話しか存在しない。しかし、地域別には複数の国際組織が存在している。以下に主なものを示す。
地理→詳細は「アジアの地理」を参照
アジアは、例えばケッペンの気候区分を用いれば、ほとんどの気候型が含まれるほど多様な地理条件を内包している。北端は北極海に面しており、ツンドラ気候の荒野が広がる。その南のシベリア内陸部にはタイガと呼ばれる大針葉樹林が広がっている。南アジア、東南アジアと東アジアの東部はモンスーンの影響を強く受ける地域である。 経済→詳細は「アジアの経済」を参照
アジア全体では開発途上国が依然として多いものの、東アジア地域の経済規模はヨーロッパや北アメリカに匹敵するほど大きい。GDPが特に大きいのは、世界第2位の中華人民共和国、第4位の日本、第5位のインドである。次いで第11位前後の韓国が挙げられる。またタイ、マレーシア、インドネシアを筆頭とする東南アジア諸国も年々成長を続け、存在感を増している。 アジア通貨危機を機会に、東アジア・東南アジアの国々ではチェンマイ・イニシアティブによって経済安定を目指している。また、西アジアの国々では石油の産出量が多いので、オイルマネーによって世界的な発言力が強まっている。 →「アジア・太平洋の国際関係 (書籍)」も参照
交通→「アジアの空港」も参照
道路ではアジアハイウェイで結ばれているが、道路の整備状況は異なっている。 人種・民族→詳細は「アジア系民族」を参照
人種としては、モンゴロイド、コーカソイド、オーストラロイドがみられる。コーカソイドは西アジアを中心とした西部に多く、モンゴロイドは東アジアや東南アジアなどの東部に多いなどの特徴がある。オーストラロイドは南アジア南部にみられる。中央アジアや北アジア西部ではコーカソイドとモンゴロイド、南アジア北部ではコーカソイドとオーストラロイド、東南アジア(特にマレー諸島)ではモンゴロイドとオーストラロイドがそれぞれ混血している。 言語→詳細は「アジアの言語」を参照
様々な言語のグループと孤立した言語が使用されている。複数の国で公用語として使われる主な言語は以下のものがある。
特に話者数が多い言語は以下のものがある。 その他アジア諸国の公用語
→「各国の公用語の一覧」も参照
言語の分類アジアで話される主な言語は以下のように分類される。
宗教→詳細は「アジアの宗教」を参照
世界で信者数の多い宗教であるキリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、仏教は、すべてアジアをその起源としている。このうち、仏教とヒンドゥー教はインドを、キリスト教とイスラム教は西アジアをその起源とする。このほかにも、西アジアのユダヤ教、南アジアのシク教、東アジアの神道、儒教や道教など、さまざまな宗教が存在している。 現代においては、イスラム教は起源である西アジアのほとんどの地域に広まっているほか、中央アジアもほぼイスラム教圏となっている。そのほかにも、南アジアのパキスタンやバングラデシュ、モルディブ、東南アジアのインドネシアやマレーシア、ブルネイなどはイスラム教徒が大部分を占める国家である。また、中国の新疆ウイグル自治区や寧夏回族自治区もイスラム教徒が多数派である。キリスト教は起源である西アジア地域ではわずかな信徒が存在しているに過ぎず、東南アジアではキリスト教徒が多数派を占めている国家はフィリピンのみである。東アジアでは韓国に比較的まとまったキリスト教コミュニティがある以外はキリスト教信者はマイノリティである。ただし、北アジアはキリスト教徒であるロシア人が東進し入植した関係で、ロシア正教会の信徒が多数を占め、中央アジアでもロシア系住民らを中心にある程度の勢力を保っている。ヒンドゥー教徒が多数派を占める国家はインドとネパールのみであり、信者が多数派を占める地域もこれにスリランカの北部(タミル人居住地域)を加えるのみであるが、インドの人口の大多数はヒンドゥー教徒であり、信徒数はほぼインド一国のみで世界中の仏教徒よりも多い。仏教は発祥地のインドでは廃れ、わずかにブータンで多数派を占めるのみであるが、仏教は東方に伝播したため、東南アジアや東アジアに大きな教圏を持つようになった。とはいえ東アジアと東南アジアの仏教の宗派は違い、東南アジアのミャンマーやタイ、カンボジア、ラオス、スリランカ南部(シンハラ人地域)においては上座部仏教が信仰されている。これに対し、東アジアやベトナムにおいては大乗仏教が信仰されているが、それでもなお東アジアの大乗仏教は唯一の信仰というわけではなく、日本では神道が、中国では儒教や道教が、朝鮮半島では天道教が大きな勢力を持っており、事実上これら宗教との混在地域となっている。 科学技術→詳細は「アジアの科学技術」を参照
アジアにおける科学技術は国や時代によって様々なものに別けられている傾向が強い[8]。かつて、科学技術への貢献で特筆すべきものとして考えられていたアジアの文明は、現在のインド地域や中国地域および西アジア地域に集中していた[9] 。現代においては日本、韓国、台湾などの国々が近年の最先端の科学技術の発信元で知られているが、中国やインドも科学技術に大きく貢献している一面を持つ。
文化→詳細は「アジアの文化」を参照
アジアの文化には、先史時代からアジア大陸の多数の民族グループによって実践され維持されてきた、芸術、建築、音楽、文学、生活習慣、哲学、食べ物、政治、宗教といった集合的かつ多様な慣習と伝統が含まれている。 またアジアの特定の文化、または複数の文化圏と四大河文明のうちの3点から発祥している巨大な多様性の中の普遍的な要素を特定することは複雑で難しいものとなっている。 →「アジアにおけるエチケット」も参照
食文化→詳細は「アジア料理の一覧」を参照
文学→詳細は「アジア文学」を参照
哲学→「東洋哲学」も参照
美術→「東洋美術史」も参照
被服・服飾
映画→詳細は「アジアの映画」を参照
スポーツ→詳細は「アジアのスポーツ」を参照
→「アジアのサッカー」も参照
また、競技大会もヨーロッパに引けを取らないほどの規模で開催されている。 →「アジア競技大会」も参照
脚注注釈
出典
参考文献
関連文献
関連項目外部リンク
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