カルバマゼピン (Carbamazepine) は、抗てんかん薬 のひとつである。日本 ではテグレトール の商品名で発売され、適応は、てんかん や三叉神経痛 、双極性障害 (かつての「躁うつ病」)の躁状態 である。長らくてんかんや三叉神経痛の薬として使用されてきたが、1990年 より双極性障害の躁状態にも承認された。
世界保健機関 のWHO必須医薬品モデル・リスト (エッセンシャル・ドラッグ)にも収録されている。
歴史
カルバマゼピンは、1957年 にSchindler、Blattnerらによって合成された。その後1963年 にスイス、イギリスにおいて抗てんかん薬として発売され、1962年 には三叉神経痛の発作抑制効果も発表された[ 1] 。日本では1966年 以来、てんかん治療薬、三叉神経痛治療薬として広く使用されている。
さらにてんかんに伴う興奮症状の改善をもたらすことが知られるようになり、1970年代 に柴田、竹崎・花岡[ 2] [ 3] によって抗躁作用が報告され、その後躁病 ・双極性障害の躁状態に対する治療効果が確認され、1990年に同効能が追加承認された。
適応
有効性
アルツハイマー病などの認知症の周辺症状(BPSD)、なかでも抗精神病薬に反応しない精神病症状や焦燥性興奮に有効である報告がされている[ 4] 。なお、2013年の厚生労働省の認知症 の周辺症状(BPSD)に対するガイドラインでは、カルバマゼピンは挙げられていない[ 5] 。
作用機序
脳 神経・末梢神経 細胞のナトリウムチャネル を遮断することにより、神経の興奮を抑制する。一般的に膜活動電位の立ち上がりが阻害されるため、神経細胞の複雑部分発作 に効果があるとされており、側頭葉 部分発作の特効薬等として用いられている。
薬物動態
カルバマゼピンに即効性はなく、効き始めるまでに1週間〜数週間かかる。定期的に血中濃度を測り治療有効域と中毒域を見極め維持量を決める。投与初期は元々低いクリアランス と、代謝 酵素 の自己誘導 (auto-induction) が十分に発現していないため血中濃度が著しく高値を示すことがあるが、投与3〜4週間以降は投与量に比例した濃度になる。よって投与初期は血中濃度を確認しつつ漸増する必要がある。
定常状態になれば半減期(血中濃度が半分になる時間)は比較的長い。至適血中濃度は一般的には4~12µg/mLだが、9µg以上は中毒症状が出やすくなるため注意が必要である[ 6] 。
カルバマゼピンは過量投薬 のリスクが高く、治療薬物モニタリング が必要である[ 7] 。
薬物相互作用
CYP3A4 の代謝を誘導するため、他の向精神薬 との多くの薬物相互作用が発生する。バルプロ酸 やラモトリギン 、ベンゾジアゼピン の多くや、一部の抗うつ薬 や抗精神病薬 などの血中濃度を低下させる。
以下は、添付文書の併用禁忌に記載されている。抗真菌薬 のボリコナゾール (ブイフェンド)や肺高血圧症治療薬のタダラフィル (アドシルカ)、グレープフルーツジュース などとカルバマゼピンを同時に摂取すると、カルバマゼピンの血中濃度が上がり、副作用が強くなるので注意する必要がある。
かつては抗てんかん薬として、また気分安定薬としてもリチウム と並ぶ第一選択薬として広く使われていたが、多様な薬物相互作用のため「使いにくい薬」とされたことに加え、血液障害など副作用が多いためシェアを落とし、副作用の少ない抗てんかん薬が開発されたこともあり以前ほどは使われなくなりつつある[要出典 ] 。
副作用
よくある副作用としては、眠気、運動失調、倦怠感や脱力感、瞬間的な複視 (かすみ目)、めまいや立ちくらみ、頭痛・頭重、食欲低下や吐き気・胃痛などの消化器症状などがある。大抵の副作用は投与2~3週間で消えるとされる[ 8] 。
2008年、アメリカ食品医薬品局 (FDA)は、199の二重盲検試験を分析し、データに用いられた24週間では、抗てんかん薬服用時の自殺念慮や自殺企図が2倍(てんかん用途では3.5倍、精神科では1.5倍)に高まることを警告した(それ以上の期間は単に未調査)[ 9] 。日本でも、自殺企図の既往や自殺念慮を有する場合に注意書きがある[ 10] 。
抗てんかん薬全般に言えることであるが、連用中における投与量の急激な減少ないし中止により、てんかん重積状態が生じるおそれがあるため、添付文書の重要な使用上の注意にその旨が記載されている。
臨床試験の範囲内でみられ、医薬品添付文書に記載された副作用は以下のようなものである。
など
出典
^ Blom, S.:Lancet 1(7234), 839, 1962
^ 柴原 尭ほか:新薬と臨牀 19(4), 509, 1970
^ 竹崎治彦ほか:精神医学 13(2), 173, 1971
^ 樋口輝彦、小山司『臨床精神薬理ハンドブック 第2版』〈医学書院〉2009年
^ 『かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン 』(レポート)厚生労働省、2013年7月。https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000036k0c.html 。
^ 伊賀立二、乾 賢一『薬剤師・薬学生のための実践TDMマニュアル』〈じほう〉2004年
^ 日本臨床薬理学会『臨床薬理学』(第3版)医学書院、2011年、78頁。ISBN 978-4260012324 。
^ Carbamazepine & Manic Depression: A Guide Lithium Information Center University of Wisconsin Board of Regents of the University of Wisconsin System. Revised Feb.1990
^ “Postmarket Drug Safety Information for Patients and Providers > Information for Healthcare Professionals: Suicidal Behavior and Ideation and Antiepileptic Drugs ”. U.S. Food and Drug Administration (FDA) (2008年1月31日). 2013年1月15日 閲覧。
^ “テグレトール錠100mg/テグレトール錠200mg/テグレトール細粒50% 添付文書 ” (2016年3月). 2016年11月4日 閲覧。
外部リンク
アルコール バルビツール酸系 ベンゾジアゼピン 類ウレタン フラボノイド イミダゾール カヴァ 成分ウレイド (英語版 ) 神経ステロイド 非ベンゾジアゼピン系 フェノール 類ピラゾロピリジン 類キナゾリノン 類吸入麻酔薬 /ガスその他/未分類
3-ヒドロキシブタナール
アロガバト (英語版 )
アベルメクチン 類 (例:イベルメクチン )
臭化物 化合物 (例:臭化リチウム , 臭化カリウム , 臭化ナトリウム )
カルバマゼピン
クロラロース (英語版 )
クロルメザノン
クロメチアゾール (英語版 )
ダリガバト (英語版 )
DEABL (英語版 )
重水素化エチフォキシン (英語版 )
ジヒドロエルゴリン (英語版 ) 類 (例:ジヒドロエルゴクリプチン (英語版 ) , エルゴロイド (英語版 ) )
エタゼピン (英語版 )
エチフォキシン (英語版 )
フルピルチン (英語版 )
ホパンテン酸 (英語版 )
KRM-II-81 (英語版 )
ランタン
ラベンダー油 (英語版 )
リグナン 類 (例:4-O-メチルホノキオール (英語版 ) , ホノキオール (英語版 ) , マグノロール (英語版 ) , オボバトール (英語版 ) )
ロレクレゾール (英語版 )
イソ吉草酸メンチル (英語版 )
モナストロール (英語版 )
Org 25,435 (英語版 )
プロパニジド
レチガビン (英語版 )
サフラナール
スチリペントール (英語版 )
スルホニルアルカン (英語版 ) 類 (例:スルホンメタン (英語版 ) , テトロナール (英語版 ) , トリオナール (英語版 ) )
トピラマート
セイヨウカノコソウ 成分 (例:3-メチルブタン酸 , イソバレルアミド , バレレン酸 (英語版 ) )
未分類のベンゾジアゼピン部位陽性調節因子: MRK-409 (英語版 )
TCS-1205 (英語版 )