ミダゾラム
ミダゾラム(英: Midazolam)はベンゾジアゼピン (BZP) 系の麻酔導入薬・鎮静薬の一つである。日本での商品名はドルミカム(丸石製薬製造販売。アステラス製薬より販売移管)およびミダフレッサ静注0.1%(アルフレッサファーマ製造販売)ブコラム口腔用液10mg(武田薬品工業製造販売)。静脈内注射後、通常10秒から2分以内に効果が発現し、1 - 6時間継続する[2]。投与後の最大効果発現はおよそ10分後である[3]。前向性健忘症(英語版)を誘発する。
WHO必須医薬品モデル・リストに収載されている[4]。連用により依存症、急激な量の減少により離脱症状を生じることがある[5]。向精神薬に関する条約のスケジュールIVに指定されている。麻薬及び向精神薬取締法の第三種向精神薬である。
禁忌
高齢者、小児、妊婦、アルコール依存症患者、薬物依存症患者、合併症を有する患者、精神障害を有する患者にベンゾジアゼピンを使用する際には特に注意が必要である[6]。重篤な患者においてはミダゾラムとその活性代謝物が蓄積する可能性があるので充分に注意する事[7]。腎障害または肝障害を有する患者ではミダゾラムの排泄が遅延し、作用強度・時間が増強されることがある[8][9]。
副作用
添付文書に記載されている重大な副作用は、依存性、無呼吸、呼吸抑制、舌根沈下(0.1 - 5%未満)、アナフィラキシーショック、心停止、心室頻拍、心室性頻脈、悪性症候群である[1]。
主な副作用は、努力呼吸、低血圧である[2]。活動性の亢進等の奇異反応が、特に小児または高齢者で見られることがある[10]。妊婦に用いた際にリスクがあることは確認されているが、授乳婦での母子へのリスクは確認されていない[11][12]。
依存性
日本では2017年3月に「重大な副作用」の項に、連用により依存症を生じることがあるので用量と使用期間に注意し慎重に投与し、急激な量の減少によって離脱症状が生じるため徐々に減量する旨が追加され、厚生労働省よりこのことの周知徹底のため関係機関に通達がなされた[5]。奇異反応に関して[13]、錯乱や興奮が生じる旨が記載されている[5]。医薬品医療機器総合機構からは、必要性を考え漫然とした長期使用を避ける、用量順守と類似薬の重複の確認、また慎重に少しずつ減量する旨の医薬品適正使用のお願いが出されている[14]。調査結果には、日本の診療ガイドライン5つ、日本の学術雑誌8誌による要旨が記載されている[13]。
作用機序
ミダゾラムはベンゾジアゼピン系薬剤の一つであり、中枢神経系のベンゾジアゼピン受容体に結合して抑制系のGABA受容体と相互作用し、GABAとGABA受容体の親和性を向上させて神経細胞の興奮性を鎮めることで、鎮静効果と抗痙攣作用を発揮する[2][15]:35。麻酔前投薬として筋注した場合、男性の方が女性より、血中濃度が上昇しやすいとする報告は[16]あるが、静脈内注射の場合、効果に性差はなかった[17]。薬物動態的にも明らかな男女差は認められなかった[18]。
適応症
日本では、ドルミカム[1]は
- 麻酔前投薬
- 全身麻酔の導入および維持
- 集中治療における人工呼吸中の鎮静
- 歯科・口腔外科領域における手術及び処置時の鎮静
ブコラム口腔用液[19]・ミダフレッサ静注0.1%[20]は
である。
- 上部消化管内視鏡・大腸内視鏡施行時の鎮静に用いられることもあるが、日本では保険適応はなされていない。アメリカ合衆国では一般的に用いられている。日本でも用いる施設が増えつつある[21]。内視鏡検査の苦しみを多くの国々では我慢している。アメリカ合衆国では用いられるのが一般的である[22]。
- 内視鏡検査ではミダゾラムを成人男性では4mgを目処に投与することが多い。女性や小柄な体格である場合は減量して用いる。(2.5mg~3.0mgなど。)
- 2009年6月、小児科領域でも痙攣重積状態に保険適用外で(病院の持ち出しで)使用されている実情があり、小児神経学会からも適応拡大の要請がなされている[23]。2009年9月16日、社会保険診療報酬支払基金よりドルミカムを「痙攣重積状態を含むてんかん重積状態」に対して処方した場合、審査上認める通知が行われた[24]。
- 2011年9月、社会保険診療報酬支払基金はドルミカムを「区域麻酔での鎮静」も審査上認めると発表した[25]。
- 2014年にミダフレッサ静注が、2020年にブコラム口腔用液が薬価収載・販売開始された。
ガイドライン
集中治療室での人工呼吸使用時はガイドラインにて、ミダゾラムよりプロポフォールが推奨されているが、費用面ではミダゾラムはプロポフォールよりも有利である[26][27][28]。
その他
ミダゾラムは水溶性であり、ジアゼパムのように希釈時に混濁することがなく、静脈注射での投与が容易である。また短時間作用型であり、速やかに覚醒することが特徴である。ジアゼパム注射剤は速効性で抗痙攣作用も強力であるが脂溶性で持続点滴投与できない。
アメリカ合衆国における死刑制度(薬殺刑)の中で、死刑囚を眠らせるための薬剤として使われた例がある。ただし、その効果については疑問視する意見もある[29]
関連項目
グレープフルーツジュース
出典
- ^ a b c d “ドルミカム注射液10mg 添付文書” (2015年6月). 2016年4月3日閲覧。
- ^ a b c d e “Midazolam Hydrochloride”. The American Society of Health-System Pharmacists. Aug 1, 2015閲覧。
- ^ Miyake, Wakako; Oda, Yutaka; Ikeda, Yuko; Hagihira, Satoshi; Iwaki, Hiroyoshi; Asada, Akira (2010-06-01). “Electroencephalographic response following midazolam-induced general anesthesia: relationship to plasma and effect-site midazolam concentrations” (英語). Journal of Anesthesia 24 (3): 386–393. doi:10.1007/s00540-010-0907-4. ISSN 1438-8359. https://doi.org/10.1007/s00540-010-0907-4.
- ^ “WHO Model List of Essential Medicines”. World Health Organization (October 2013). 28 Mar 2023閲覧。
- ^ a b c 厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長『催眠鎮静薬、抗不安薬及び抗てんかん薬の「使用上の注意」改訂の周知について (薬生安発0321第2号)』(pdf)(プレスリリース)。https://www.pmda.go.jp/files/000217230.pdf。2017年3月25日閲覧。 、および、“使用上の注意改訂情報(平成29年3月21日指示分)”. 医薬品医療機器総合機構 (2017年3月21日). 2017年3月25日閲覧。
- ^ Authier, N.; Balayssac, D.; Sautereau, M.; Zangarelli, A.; Courty, P.; Somogyi, AA.; Vennat, B.; Llorca, PM. et al. (Nov 2009). “Benzodiazepine dependence: focus on withdrawal syndrome”. Ann Pharm Fr 67 (6): 408–13. doi:10.1016/j.pharma.2009.07.001. PMID 19900604.
- ^ Cox, CE.; Reed, SD.; Govert, JA.; Rodgers, JE.; Campbell-Bright, S.; Kress, JP.; Carson, SS. (Mar 2008). “An Economic Evaluation of Propofol and Lorazepam for Critically Ill Patients Undergoing Mechanical Ventilation”. Crit Care Med 36 (3): 706–14. doi:10.1097/CCM.0B013E3181544248. PMC 2763279. PMID 18176312. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2763279/.
- ^ Olkkola, KT.; Ahonen, J. (2008). “Midazolam and other benzodiazepines”. Handb Exp Pharmacol. Handbook of Experimental Pharmacology 182 (182): 335–60. doi:10.1007/978-3-540-74806-9_16. ISBN 978-3-540-72813-9. PMID 18175099.
- ^ Verbeeck, RK. (Dec 2008). “Pharmacokinetics and dosage adjustment in patients with hepatic dysfunction” (PDF). Eur J Clin Pharmacol 64 (12): 1147–61. doi:10.1007/s00228-008-0553-z. PMID 18762933. http://www.springerlink.com/content/t56l04u3w07wj031/fulltext.pdf.
- ^ Riss, J.; Cloyd, J.; Gates, J.; Collins, S. (Aug 2008). “Benzodiazepines in epilepsy: pharmacology and pharmacokinetics.”. Acta Neurol Scand 118 (2): 69–86. doi:10.1111/j.1600-0404.2008.01004.x. PMID 18384456. http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/fulltext/120119477/HTMLSTART.
- ^ Hamilton, Richart (2015). Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2015 Deluxe Lab-Coat Edition. Jones & Bartlett Learning. p. 21. ISBN 9781284057560
- ^ “Midazolam use while Breastfeeding”. 29 August 2015閲覧。
- ^ a b 医薬品医療機器総合機構『調査結果報告書』(pdf)(プレスリリース)医薬品医療機器総合機構、2017年2月28日。http://www.pmda.go.jp/files/000217061.pdf。2017年3月25日閲覧。
- ^ 医薬品医療機器総合機構 (2017-03). “ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性について” (pdf). 医薬品医療機器総合機構PMDAからの医薬品適正使用のお願い (11). https://www.pmda.go.jp/files/000217046.pdf 2017年3月25日閲覧。.
- ^ “麻酔薬及び麻酔関連薬使用ガイドライン 第3版” (PDF) (2009年12月25日). 2016年4月3日閲覧。
- ^ Yano, Toshiyuki; Haratake, Yoshikazu; Urata, Kenji; Morioka, Tohru (1994-12). “Sedative and respiratory effects of intramuscular midazolam as a premedicant: Influence of gender” (英語). Journal of Anesthesia 8 (4): 383–386. doi:10.1007/BF02514612. ISSN 0913-8668. http://link.springer.com/10.1007/BF02514612.
- ^ Nishiyama, Tomoki; Matsukawa, Takashi; Hanaoka, Kazuo (1998-05). “The Effects of Age and Gender on the Optimal Premedication Dose of Intramuscular Midazolam” (英語). Anesthesia & Analgesia 86 (5): 1103. doi:10.1213/00000539-199805000-00038. ISSN 0003-2999. https://journals.lww.com/anesthesia-analgesia/Fulltext/1998/05000/The_Effects_of_Age_and_Gender_on_the_Optimal.38.aspx.
- ^ Holazo, Alice A.; Winkler, Mary Beth; Patel, Indravadan H. (1988-11). “Effects of Age, Gender and Oral Contraceptives on Intramuscular Midazolam Pharmacokinetics” (英語). The Journal of Clinical Pharmacology 28 (11): 1040–1045. doi:10.1002/j.1552-4604.1988.tb03127.x. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/j.1552-4604.1988.tb03127.x.
- ^ https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00068997
- ^ https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00063837
- ^ 日本麻酔科学会の質疑応答
- ^ Medscape;Esophagogastroduodenoscopy
- ^ 大澤真木子 (2009年6月4日). “ミダゾラムのけいれん重積状態への適応の早期承認に関する要望”. 日本小児神経学会. 2010年1月3日閲覧。
- ^ 日本医事新報 No.4457, 27
- ^ http://www.ssk.or.jp/shinsajoho/teikyojirei/files/jirei194.pdf#page=2
- ^ https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?japic_code=00051825 2019年64円~114円
- ^ https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?japic_code=00051034 2019年492円~1215円
- ^ Pradelli L, Povero M, Bürkle H, et al. (2017). “Propofol or benzodiazepines for short- and long-term sedation in intensive care units? An economic evaluation based on meta-analytic results”. Clinicoecon Outcomes Res: 685–698. doi:10.2147/CEOR.S136720. PMC 5687490. PMID 29184423. https://doi.org/10.2147/CEOR.S136720.
- ^ 米の死刑執行で13分間苦しむ、薬物注射めぐる議論再燃 AFP通信(2016年12月10日)
|
---|
1,4-ベンゾジアゼピン | |
---|
1,5-ベンゾジアゼピン | |
---|
2,3-ベンゾジアゼピン* | |
---|
トリアゾロベンゾジアゼピン | |
---|
イミダゾベンゾジアゼピン | |
---|
オキサゾロベンゾジアゼピン | |
---|
チエノジアゼピン | |
---|
ピリドジアゼピン | |
---|
ピラゾロジアゼピン | |
---|
ピロロジアゼピン | |
---|
テトラヒドロイソキノベンゾジアゼピン | |
---|
ベンゾジアゼピン・プロドラッグ | |
---|
* 非定型活性プロフィール(GABAA受容体リガンドではない)
Category:ベンゾジアゼピン系 |
|
---|
アルコール | |
---|
バルビツール酸系 | |
---|
ベンゾジアゼピン類 | |
---|
ウレタン | |
---|
フラボノイド | |
---|
イミダゾール | |
---|
カヴァ成分 | |
---|
ウレイド(英語版) | |
---|
神経ステロイド | |
---|
非ベンゾジアゼピン系 | |
---|
フェノール類 | |
---|
ピラゾロピリジン類 | |
---|
キナゾリノン類 | |
---|
吸入麻酔薬/ガス | |
---|
その他/未分類 |
- 3-ヒドロキシブタナール
- アロガバト(英語版)
- アベルメクチン類 (例:イベルメクチン)
- 臭化物化合物 (例:臭化リチウム, 臭化カリウム, 臭化ナトリウム)
- カルバマゼピン
- クロラロース(英語版)
- クロルメザノン
- クロメチアゾール(英語版)
- ダリガバト(英語版)
- DEABL(英語版)
- 重水素化エチフォキシン(英語版)
- ジヒドロエルゴリン(英語版)類 (例:ジヒドロエルゴクリプチン(英語版), エルゴロイド(英語版))
- エタゼピン(英語版)
- エチフォキシン(英語版)
- フルピルチン(英語版)
- ホパンテン酸(英語版)
- KRM-II-81(英語版)
- ランタン
- ラベンダー油(英語版)
- リグナン類 (例:4-O-メチルホノキオール(英語版), ホノキオール(英語版), マグノロール(英語版), オボバトール(英語版))
- ロレクレゾール(英語版)
- イソ吉草酸メンチル(英語版)
- モナストロール(英語版)
- Org 25,435(英語版)
- プロパニジド
- レチガビン(英語版)
- サフラナール
- スチリペントール(英語版)
- スルホニルアルカン(英語版)類 (例:スルホンメタン(英語版), テトロナール(英語版), トリオナール(英語版))
- トピラマート
- セイヨウカノコソウ成分 (例:3-メチルブタン酸, イソバレルアミド, バレレン酸(英語版))
- 未分類のベンゾジアゼピン部位陽性調節因子: MRK-409(英語版)
- TCS-1205(英語版)
|
---|
|
|
|