つる座 (つるざ、Grus)は現代の88星座 の1つ。16世紀 末に考案された新しい星座 で、鶴 をモチーフとしている[ 1] [ 4] 。みなみのうお座 の南側に位置しており、日本 国内からは南の空の低いところに見える。
主な天体
恒星
α星とβ星の2つの2等星 がある。
2022年 4月現在、国際天文学連合 (IAU) によって4個の恒星 に固有名が認証されている[ 5] 。
星団・星雲・銀河
欧州南天天文台 (ESO) ラ・シヤ天文台 の新技術望遠鏡 (NTT) で撮影された惑星状星雲IC5148。
由来と歴史
ヨハン・バイエル『ウラノメトリア 』(1603年)に描かれたつる座(左上)。
つる座は、1598年 にフランドル 生まれのオランダ の天文学者 ペトルス・プランシウス が、オランダの航海士 ペーテル・ケイセル とフレデリック・デ・ハウトマン が1595年 から1597年 にかけての東インド 航海で残した観測記録を元に、オランダの天文学者ヨドクス・ホンディウス (英語版 ) と協力して製作した天球儀 にツルの姿を描いたことに始まるとされる[ 4] 。ドイツ の法律家ヨハン・バイエル が1603年 に出版した星図『ウラノメトリア 』で世に知られるようになったことから、かつてはバイエルが新たに考案した星座として紹介されていた[ 17] が、日本でも2010年代 以降はケイセルとデ・ハウトマンが考案した星座であることが広く紹介されるようになった[ 18] 。しかし2020年代に入ってもバイエル考案の星座と誤って紹介される例が散見される[ 19] 。
プランシウスらは、1598年に製作した天球儀に描いたツルの星座に、オランダ語 で Krane、ラテン語 で Grus という星座名を付けた[ 4] [ 20] 。ホンディウスは1600年 と1601年 に製作した天球儀にもツルの星座絵と Grus という星座名を記している[ 20] 。1603年 、バイエルは、プランシウスやホンディウスの天球儀から星の位置をそっくり写し取って、星図 『ウラノメトリア』を出版した[ 20] 。そのため、バイエルの『ウラノメトリア』でも Grus という星座名がそのまま引き継がれた[ 4] [ 20] 。
一方で、この鳥の星座に対して異なる種類の鳥を充てようとする動きが見られた。1602年 に第2次東インド航海からオランダに帰国したデ・ハウトマンは、1603年に出版したマレー語辞典に付録として付けた星表 の中で、オランダ語で「サギ (鷺)」を意味する Den Reygher という星座名を付けた[ 4] [ 21] 。また、オランダの法学者・地理学者のパウルス・メールラ (英語版 ) は、1605年 の地理書『Cosmographia Generalis』に著した星座解説の中で、ラテン語で「フラミンゴ 」を意味する Phœnicopterus という星座名を付けている[ 20] [ 22] 。また、フランドルの地球儀製作者でプランシウスの共同制作者でもあったペトルス・カエリウス (英語版 ) も、1625年に製作した天球儀で Phœnicopterus という星座名を充てていた[ 4] 。このカエリウスの天球儀はプランシウスの死後に製作されたものだが、イギリスの天文史家イアン・リドパス は、フラミンゴの星座としたのはプランシウスの影響によるものであるとしている[ 4] 。17世紀初頭に見られたこれら独自の命名は、バイエルの『ウラノメトリア』ほどの影響を与えることなく、結局元の Grus が生き残ることとなった[ 4] 。
この星座に付けられたギリシア文字の符号は、バイエルが付けたいわゆる「バイエル符号」ではなく、18世紀 フランス の天文学者ニコラ=ルイ・ド・ラカイユ によって付けられたものである。ラカイユは、自身が考案した14星座のほか、バイエルが符号をつけていなかった南天の星座にギリシア文字の符号を付しており、つる座の星々にもαからφまでの符号を付した[ 23] 。ただし、このときκ・ξ・ν・οの4つは使われなかった[ 23] 。ラカイユが付した符号は、19世紀 イギリス の天文学者フランシス・ベイリー が編纂した『The Catalogue of Stars of the British Association for the Advancement of Science』(1845年 )に全面的に引き継がれた[ 24] 。さらに、アメリカ の天文学者ベンジャミン・グールド が1879年 に出版した『Uranometria Argentina』で星座の境界線が引き直された際、ラカイユが使わなかった κ・ξ・ν・οの4星が加えられた[ 25] 。
1922年 5月にローマ で開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Grus 、略称は Gru と正式に定められた[ 26] 。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。
現在のつる座の恒星の一部には、これらがかつてみなみのうお座 の領域にあったことをうかがわせる固有名が付けられている。たとえば、α星のアルナイルはアラビア語 で「魚の尾の明るいもの」を意味する al-nayyir min dhanab al-ḥūt に[ 4] [ 27] 、γ星のアルダナブは、「尾」を意味する al-dhanab に由来した名称である[ 28] 。これは、16世紀 にアラビアの天文学者が、みなみのうお座の領域をクラウディオス・プトレマイオス が定めた境界を超えてさらに南へと拡張したことによって生じたものである[ 4] 。
中国
現在のつる座の領域は、中国の歴代王朝の版図からはほとんど見ることができなかったため、三垣 や二十八宿 には含まれなかった。この領域の星々が初めて記されたのは明代末期 の1631年 から1635年 にかけてイエズス会士 アダム・シャール や徐光啓 らにより編纂された天文書『崇禎暦書 』であった[ 29] 。この頃、明の首都北京の天文台にはバイエルの『ウラノメトリア』が2冊あり、南天の新たな星官は『ウラノメトリア』に描かれた新星座をほとんどそのまま取り入れたものとなっている[ 29] 。これらの星座はそのまま清代 の1752年 に編纂された天文書『欽定儀象考成』に取り入れられており、つる座の星は「鶴」という星官 に配されていた[ 29] 。
呼称と方言
日本では明治末期には「鶴 」という訳語が充てられていた。このことは、1908年 (明治41年)に創刊された日本天文学会 の会誌『天文月報 』の第1巻第9号に掲載された「十二月の天」と題した星図で確認できる[ 30] 。その後、1910年 (明治43年)2月に星座の訳名が改定された際も変更なく「鶴」が使われた[ 31] 。この訳名は、1925年 (大正14年)に初版が刊行された『理科年表 』にも「鶴(つる) 」として引き継がれ[ 32] 、1944年 (昭和19年)に学術研究会議 によって天文学用語が改定された際も変更されなかった[ 33] 。戦後の1952年 (昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[ 34] とした際に、Grus の日本語名は「つる 」と改定された[ 35] 。この改定以降は「つる」が星座名として継続して用いられている。
現代の中国では、天のツルという意味の天鶴座 と呼ばれている[ 36] 。
脚注
出典
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