「ドント・パス・ミー・バイ 」(Don't Pass Me By )は、ビートルズ の楽曲である。1968年に発売された9作目のイギリス盤オリジナル・アルバム『ザ・ビートルズ 』に収録された楽曲。リンゴ・スター [ 注釈 1] が作詞作曲を手がけたカントリーロック 調の楽曲で、スターのソングライターデビュー作である[ 注釈 2] 。1968年6月にスターとポール・マッカートニー に加えて、ヴァイオリン 奏者のジャック・ファロン (英語版 ) の3人でレコーディングが行われ、ジョン・レノン とジョージ・ハリスン は参加していない。
スカンジナビアでシングル・カットされたが、作者名がレノン=マッカートニー と誤表記されている。このシングル盤は、1969年4月にデンマークのシングルチャートで第1位を獲得した[ 3] 。
背景
スターが本作の構想を練り始めたのは1964年で、同年6月のニュージーランドのラジオ局でのインタビューで、ポール・マッカートニー が「リンゴが初めて作曲に挑んだ。綺麗なメロディだ」と語り、スターは「カントリー&ウェスタン を想定して書いたけど、ジョン とポールがブルースのフィーリングで歌うと、もう一気に打ちのめされたよ」と語っている。
前述の番組から1か月後に出演したBBCラジオ の番組『トップ・ギア (英語版 ) 』で、スターがブライアン・マシュー と本作を論じており、「良い曲を書いたんだけど、誰もレコーディングしたがらないんだ。もしかしたら、ポールはやってくれるかな」と語り、それに対してマッカートニーは[何の? ] 否定した。なお、同番組内でマッカートニーが「Don't pass me by, don't make me cry, don't make me blue, baby (僕を置いていかないで、僕を泣かせないで、僕をブルーにさせないで)」と本作のリフレイン部分の冒頭のフレーズを歌っている[ 5] 。
スターは、本作について「僕が初めて書いた曲で、書いた曲を形にするのは最高の気分だった。すごく興奮したし、みんなも本当に協力的で、あのイカれたヴァイオリニストのレコーディングは、特に胸がワクワクした」と語っている[ 6] 。
なお、本作の楽譜出版元はスターの楽曲専門会社スターティング・ミュージックが所有しているが発表されてしばらくはアップル・パブリッシング[ 注釈 3] が所有していた。
レコーディング
「ドント・パス・ミー・バイ」のレコーディングは、1968年6月5日と6日、7月12日にEMIレコーディング・スタジオ のスタジオ2で行われた。前述のとおり1964年から制作された楽曲だが、6月5日のセッション・テープのラベルには「Ringo's Tune (Untitled) 」、6月6日のセッション・テープのラベルには「This Is Some Friendly 」と表記され、7月12日までに元の「ドント・パス・ミー・バイ」に戻された。
6月6日にレコーディングされたリード・ボーカル のトラックの合間では、スターが2小節をカウントする声が入っており、これは2回目のリフレインと3回目のリフレインの間で確認できる。モノラル・ミックスは、ステレオ・ミックスよりもテープの回転速度が上げられており、フェード・アウト部分でのヴァイオリンのフレーズも異なっている。1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー3 』には、ヴァイオリンがオーバー・ダビング される前のテイクを編集した音源が収録された。
ジョージ・マーティン は、本作のイントロとしてオーケストラ の小曲を制作したが、最終的に未使用となった。この小曲は、1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』に「ア・ビギニング 」として収録された。
なお、本作においてジョン・レノン とジョージ・ハリスン は演奏に参加していないが、レノンは6月5日のセッションに同席しており、同日にレコーディングされたテープのテイクの合間で、「ユー・アー・マイ・サンシャイン 」の1フレーズを歌うレノンのボーカルが残されている。
評価
作家のバリー・マイルズ (英語版 ) は、本作を「リンゴのカントリー&ウェスタン・ナンバー」「素晴らしい曲」とし、ジャック・ファロン (英語版 ) のヴァイオリン の演奏とバグパイプ効果を称賛した[ 11] 。クラシック・ロック 』誌のイアン・フォートナムは、「アルバム『ザ・ビートルズ』を『“永続的なロックの青写真”にした4曲」として「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」、「ヤー・ブルース 」、「ヘルター・スケルター 」と共に本作を挙げた。
クレジット
以上が、イアン・マクドナルド (英語版 ) やマーク・ルイソン (英語版 ) の著書を出典としたクレジット。
しかし、2018年に発売された『ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム)〈スーパー・デラックス・エディション〉 』に付属のブックレットには、以下のようなクレジットが掲載されている。
リンゴ・スター - リード・ボーカル、ピアノ、スレイベル、パーカッション
ポール・マッカートニー - ピアノ、ベース、ドラム
ジャック・ファロン - ヴァイオリン
カバー・バージョン
アメリカ・ジョージア州出身のロックバンド、ジョージア・サテライツ が、1988年に発売されたアルバム『オープン・オール・ナイト』で本作をカバーし[ 14] 、2004年にザ・パンクルズ がアルバム『Pistol』でカバーした[ 15] 。
1994年10月31日、フィッシュ がニューヨークでアルバム『ザ・ビートルズ』に収録の全曲をカバーするライブを行い、本作はブルーグラス 調にアレンジされて演奏された。このライブでの演奏は、2002年に発売された4枚組のライブ・アルバム『LIVE PHISH 13 10.31.94』で音源化された[ 16] 。
スターは、2017年に発売されたアルバム『ギヴ・モア・ラヴ 』で、ボーナス・トラック として本作をセルフカバーした。
ア・ビギニング
「ア・ビギニング 」(A Beginning )は、ビートルズ のプロデューサーであるジョージ・マーティン が作曲したインストゥルメンタル である。「ドント・パス・ミー・バイ」のイントロとして作曲され、「グッド・ナイト 」のオーケストラ・セッションが行なわれた1968年7月22日にEMIレコーディング・スタジオ に録音された。しかし最終的に本作は未使用となった。
1968年に公開されたビートルズのアニメ映画『イエロー・サブマリン 』にて、「エリナー・リグビー 」のイントロとして本作の別テイクが使用された。
1996年に未発表音源やアウトテイクなどを収録した「ザ・ビートルズ・アンソロジー 」シリーズの(CD作品としては)第3弾となる『ザ・ビートルズ・アンソロジー3 』が発売され、本作はオープニング・トラックとして収録された。当初、この作品の1曲目には新曲として「ナウ・アンド・ゼン 」が収録される予定だった[ 18] [ 注釈 4] が、諸問題により未完成となったためその代わりとして本作が取り上げられた。タイトルは『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』の最後に収録された「ジ・エンド 」に呼応して付けられたもの。
2018年に発売された『ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム) <スーパー・デラックス・エディション> 』のCD4に、この曲のテイク4が「ドント・パス・ミー・バイ (テイク7)」のイントロとして収録されている。タイトルも「ア・ビギニング (テイク4) / ドント・パス・ミー・バイ (テイク7) (A Beginning (Take 4) / Don't Pass By Me (Take 7) )」と表記されている[ 20] [ 21] 。
クレジット(ア・ビギニング)
※出典
脚注
注釈
出典
^ Halpin, Brooke (2017). Experiencing the Beatles: A Listner's Companion . Rowman & Littlefield. p. 190. ISBN 1442271442 . "...the country-rock song "Don't Pass Me By" is the first song in the Beatles' catalog that is written entirely by Ringo."
^ “Top 10/Tipparaden/1969/Uge 14 (week 14) ” (Danish). danskehitlister.dk (1969年4月3日). 2020年9月25日 閲覧。
^ Complete BBC Sessions, Vol.8, track 5, at the 1:10 mark
^ Guesdon, Jean-Michel; Margotin, Philippe (2014) [2013]. Freiman, Scott. ed. All the Songs: The Story Behind Every Beatles Release . Philadelphia, Pennsylvania: Running Press. p. 435. ISBN 1603763716
^ Miles, Barry (1968年11月29日). “Multi-Purpose Beatles Music”. International Times : p. 10
^ Jurek, Thom. Open All Night - The Georgia Satellites - オールミュージック . 2020年9月25日 閲覧。
^ Luerssen, John D.. Pistol - The Punkles - オールミュージック . 2020年9月25日 閲覧。
^ Jarnow, Jesse. Live Phish, Vol. 13: 10/31/94, Glens Falls Civic Center, Glens Falls, NY - Phish | Songs, Reviews, Credits - オールミュージック . 2020年9月22日 閲覧。
^ Doggett, Peter (2009) [2005]. The Art and Music of John Lennon . London: Omnibus Press . p. 381. ISBN 085712126X
^ “ビートルズ、『ホワイト・アルバム』の50周年スペシャル・エディションのリリースが決定” . NME Japan (ニュー・ミュージカル・エクスプレス ). (2018年9月25日). https://nme-jp.com/news/61501/ 2019年10月28日 閲覧。
^ “ザ・ビートルズ、ホワイト・アルバム発売50周年を記念して未発表曲を含む豪華盤を発売” . CDJournal (株式会社シーディージャーナル). (2018年9月25日). https://www.cdjournal.com/main/news/the-beatles/80589 2019年10月28日 閲覧。
参考文献
Doggett, Peter (2007). There's a Riot Going On: Revolutionaries, Rock Stars, and the Rise and Fall of '60s Counter-Culture . Edinburgh, UK: Canongate Books. ISBN 978-1-84195-940-5 . https://archive.org/details/theresriotgoingo00dogg
藤本国彦『ビートルズ213曲前ガイド 2021年版』シーディージャーナル、2022年。ISBN 978-4-909-77414-9 。
ハウレット, ケヴィン (2018). ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム)〈スーパー・デラックス・エディション〉 (ブックレット). ビートルズ . アップル・レコード .
Lewisohn, Mark (1988). The Beatles Recording Sessions . New York: Harmony Books. ISBN 0-517-57066-1
Lewisohn, Mark (1996). Anthology 3 (booklet). The Beatles . London: Apple Records . 34451。
MacDonald, Ian (2005). Revolution in the Head: The Beatles' Records and the Sixties (Second Revised ed.). London: Pimlico (Rand). ISBN 1-84413-828-3
Miles, Barry (1997). Paul McCartney: Many Years From Now . New York: Henry Holt & Company. ISBN 0-8050-5249-6
Sheff, David (2000). All We Are Saying: The Last Major Interview with John Lennon and Yoko Ono . New York: St. Martin's Press. ISBN 0-312-25464-4
Womack, Kenneth (2014). The Beatles Encyclopedia: Everything Fab Four . Greenwood Pub Group. ISBN 0-3133-9171-8
外部リンク
UK盤・US盤共通
1963年 1964年 1965年 1966年 1967年 1968年 1969年 1970年 1978年 1982年 1995年 1996年 2023年
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