この項目では、ビートルズ の楽曲について説明しています。
「バック・イン・ザ・U.S.S.R. 」(Back in the U.S.S.R. )は、ビートルズ の楽曲。ポール・マッカートニー によって書かれた楽曲で、作曲者のクレジットはレノン=マッカートニー 名義となっている。1968年に発売されたビートルズ の9作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『ザ・ビートルズ 』にオープニング曲として収録された。本作は、チャック・ベリー の「バック・イン・ザ・U.S.A. 」とザ・ビーチ・ボーイズ の「カリフォルニア・ガールズ 」のパロディとなっており、歌詞は不快なフライトを経て、ソビエト連邦 に帰国した高揚感を歌ったもの。
レコーディング中にマッカートニーがドラムの演奏に度々注文をつけたことにより、激怒したリンゴ・スター が一時的に脱退したため、残った3人でレコーディングが行われた。楽曲は航空機の効果音から始まり、航空機の効果音で終わる。マッカートニーは、ジェリー・リー・ルイス を模した歌唱法を採用している。
発表当時、ソビエト連邦ではロック音楽を「資本主義による精神汚染」とみなしていたことから、レコードの発売が許可されていなかったものの、密輸や海賊盤を通じてビートルズの楽曲やスタイルが若者の間に浸透し、もっとも人気の高い作品の一つとなった。1976年にコンピレーション・アルバム『ロックン・ロール・ミュージック 』からの先行シングルとしてシングル盤が発売され、全英シングルチャート で最高位19位、アイルランドで11位を獲得した。2003年にマッカートニーはモスクワ の赤の広場 で開催されたライブで演奏し、エルトン・ジョン やビリー・ジョエル もロシアで開催したライブで演奏した。
背景・曲の構成
マッカートニーは、インド のリシケーシュ に出発する1か月前の1968年1月に国民的支持を得た「I'm Backing Britain 」キャンペーンに触発されて、「I'm Backing the UK 」というタイトルで歌詞を書き始めた。そして、リシケーシュで1968年2月から3月にかけてマハリシ・マヘーシュ・ヨーギー の元で行われた修行中にタイトルが「I'm Backing the USSR」に変更された。これはチャック・ベリー の「バック・イン・ザ・U.S.A. 」を参考にしたもので、その後現在のタイトルに定着した。このタイトルの変更について、マッカートニーは「皮肉っぽいもじり」と説明している。同じ目的でリシケーシュに滞在していたザ・ビーチ・ボーイズ のマイク・ラヴ は、ブリッジ 部分のソビエト連邦の女性たちについての言及に対して、ザ・ビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ 」のスタイルを流用することを提案[ 6] 。そこでマッカートニーは、ホーギー・カーマイケル とスチュアート・ゴレル (英語版 ) 作の「我が心のジョージア 」を語呂合わせで加えることを考え出した。
マッカートニーは、1968年11月に放送されたラジオ・ルクセンブルク (英語版 ) によるインタビューで、「アメリカでの長期任務を終えて、ソビエト連邦に帰国したロシア人スパイの視点で書かれた曲」と明かし、「彼はすっかりアメリカナイズされている。でもソビエト連邦に帰国した瞬間、『スーツケースを開けるのは明日にしよう。ハニー、電話の線を切ってくれないか』と言い出す。ロシア人女性の特徴をうたった曲さ」と語っている。
また、解散後の1984年12月に行われた『プレイボーイ 』誌でのインタビューでは、「ビーチ・ボーイズのパロディのような感じで書いたんだ。『バック・イン・ザ・U.S.A.』はチャック・ベリーの曲で、そこから派生していった感じだね」と語っている[ 9] 。
「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」は、航空機の効果音から始まり、航空機の効果音で終わる。冒頭の歌詞では、BOAC の航空機に乗ってマイアミビーチ からソビエト連邦へと戻る不快なフライトについて歌われ、ブリッジ部分ではソビエト連邦の女性たちについて言及されている。
レコーディング
「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」のレコーディングは、1968年8月22日にEMIレコーディング・スタジオ のスタジオ2で開始された。アルバム『ザ・ビートルズ』のレコーディング・セッションでは、メンバー間で不和が生じており、本作のリハーサル時にリンゴ・スター の演奏に納得いかなかったマッカートニーが度々注文をつけ、スターが激怒してスタジオを飛び出し、一時的に脱退することとなった。これにより、3人でレコーディングを続行させることとなった。
ベーシック・トラックはマッカートニーがドラム 、ジョージ・ハリスン がエレクトリック・ギター 、ジョン・レノン がフェンダー・ベースVI という編成で5テイク録音され、最終テイクであるテイク5が採用された。
8月23日にマッカートニーとハリスンのベースとリードギター 、ハリスンのドラムやレノンのスネアドラム 、コーラス などがオーバー・ダビング された。作家のジョン・C・ウィンは、最初にマッカートニーのピアノ をオーバー・ダビングしたのち、前日に録音されたレノンのベース・パートがハリスンのドラムに置き換えられ、後日エレクトリック・ギターのパートが追加されたとしている。
その後テイク5が他のテープに移され、楽器を収録したすべてのトラックがトラック1と2にミックスされた。テイク6の空いたトラック3と4にはボーカルと手拍子が録音された。なお、マッカートニーはジェリー・リー・ルイス を模した歌唱法を試しており、部分的にダブルトラック になっている。その後、ブリッジ部分にザ・ビーチ・ボーイズ風のバッキング・ボーカル が追加された。
本作の特徴ともいえるスタジオのアーカイブから使用した航空機のサウンドエフェクトは、2度目のセッションの最後にモノラル・バージョンにミックスされた。セカンド・エンジニアのケン・スコット (英語版 ) は、「モノラル・ミックスの時は問題なかったが、ステレオ・ミックスにはかなりの時間を要し、サウンドエフェクトのテープをピンと張っておくために、ずっと鉛筆を持っていた。しかし実際には体が反り返っていて、テープが伸びていたのだろう。モノラルでははっきりとジェット音が入っているのに、ステレオのジェット音は聞けたものじゃないから」と語っている。
リリース
「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」は、1968年11月22日にアップル・レコード から発売されたアルバム『ザ・ビートルズ 』のA面1曲目に収録された。アルバムでは、曲の最後に入っているサウンドエフェクトが、次曲「ディア・プルーデンス 」のイントロとクロスフェード するように編集されている。翌年にスカンジナビアでシングル盤が発売され、B面にはスター作の「ドント・パス・ミー・バイ 」が収録された。1973年に発売されたコンピレーション・アルバム『ザ・ビートルズ1967年〜1970年 』にも収録された。
1976年6月25日にコンピレーション・アルバム 『ロックン・ロール・ミュージック 』からの先行シングルとしてパーロフォン よりシングル盤がリリースされた。B面には「ツイスト・アンド・シャウト 」を収録。このシングル盤は、全英シングルチャート で最高位19位[ 26] 、アイルランド のチャートで最高位11位[ 27] 、スウェーデン のチャートで最高位19位を獲得した[ 28] 。
なお、EMIによって1964年にアムステルダムに訪れたときの映像と1966年の西ドイツツアーの模様で構成されたミュージック・ビデオ が制作されている。また、2018年にはモスクワの赤の広場 やバレエを踊る少女、ソビエト連邦のニュース映画などで構成された新たなリリックビデオが公開された[ 29] 。
文化的影響およびライブでの演奏
同じ年に発表された「レボリューション 」や「ピッギーズ 」と同様に、本作も発表当時のアメリカにおいて政治的に憤慨される一因となった。保守派のジョン・バーチ・ソサエティ は、本作の「You don't know how lucky you are boy (君たちはどれだけ幸せなことか知らない)」というフレーズを例に挙げ、ビートルズが親ソ連派の証拠である主張した[ 33] 。右翼評論家のゲイリー・アレン (英語版 ) は、本作と「レボリューション」との平行性を指摘し、「ビートルズはスターリニスト で、トロツキスト と対立するソビエト政府の立場をとった」と結論付け、ビートルズがソビエト連邦に渡り、中央委員会 に対して特別講演を行ったという説をとなえたが、ソビエト連邦がビートルズについて「西洋文化のおくび」というレッテルを張ったことからこの説は弱まった[ 33] 。
なお、楽曲が発表された1968年は、ソビエト連邦がチェコスロバキアを占領 した時期にあたることから、音楽評論家のイアン・マクドナルド (英語版 ) は本作について「機知を欠いた冗談」と批判した[ 33] 。また、右翼団体のみならず、新左翼 とされる一部の人物からも批判を受けた[ 33] 。
本作が発表された当時、ソビエト連邦 をはじめとした共産主義国家において、ロック音楽を「資本主義による精神汚染」とみなされていた。このため、ビートルズのレコード盤は政府の許可が下りず販売することが出来なかったが、密輸や海賊盤を通じてビートルズの楽曲やスタイルが若者の間に浸透し、もっとも人気の高い作品の一つとなった[ 35] 。これにより、本作がソビエト連邦において演奏できない状態が続いていたが、エルトン・ジョン は1979年に行なわれたライブツアー「Elton John's 1979 tour of the Soviet Union 」で、政府の許可を得てソビエト連邦でライブを行ない、このライブの最後で政府の要求を無視して本作をカバー[ 36] [ 37] 。
1984年7月4日(独立記念日 )にマイアミ でコンサートを行なったザ・ビーチ・ボーイズ は、スターをゲストに迎えて本作を演奏した。
2003年にマッカートニーが、モスクワ の赤の広場 で開催されたライブで演奏[ 39] 。同ライブでは、ウラジーミル・プーチン 大統領の会場入りが遅れたことから、アンコールでもう一度演奏された。
クレジット
※出典
チャート成績
カバー・バージョン
脚注
出典
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外部リンク
UK盤・US盤共通
1963年 1964年 1965年 1966年 1967年 1968年 1969年 1970年 1978年 1982年 1995年 1996年 2023年
UK盤 (パーロフォン /アップル )
US盤 (ヴィージェイ /スワン /トリー /キャピトル /アップル )
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その他 (オデオン /パーロフォン /アップル )
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